第41章 第二休憩所でみなみんに会う話
マラソン大会。俺はみなみんのいる第二休憩所に激走します
冬の初めの少し色あせたような青空が広がっていた。マラソンコースは、一面のすすきに覆われた野原の真ん中を通る細い道だった。風が吹くとその一面のススキが海の波のように揺れた。美しい風景だった。
少し先に連れ立って走る3人組を見つけた。追いつけそうだ。少しでも順位を上げなければ、と俺は加速した。心臓が苦しかったが、とにかくなんとか自分に鞭打ってスピードをあげる。次の休憩所ではまた休めるんだから、少し無理しても大丈夫だ。そう自分に言い聞かせて必死で走った。やった、追い抜いたぞ。かけっこで誰かを追い抜くなんて、小学校に上がって以来初めてのことのような気がする。
那加の考えたこのマラソン大会は、なかなかいいぞ。こんな運動音痴の俺が、走ることに喜びを見出せる瞬間があるなんて思いもよらなかった。そんなことを思っていると、次のランナーにも追いつくことが出来た。俺の走りも悪くないかも、なんて思っているうちに、もう、第2休憩所が見えてきた。とにかく、あそこまでに一人でも抜くぞ、俺はさらに足に力を込めた。
第2休憩所のチェックは後台先輩だった。「いらっしゃい、会長。アイドル会長の到着を、女の子たちがみんな待ってるわよ」と温かい笑みで迎えてくれる。生徒会の中でも特に気持ちの温かい人で、間違いなくいい人なのだが、いかにもアナウンサー志望らしく、お世辞が、時々、天然過ぎることに、おそらく気がついていない。まあ、逆にそこが魅力だったりするのだが。
チェックを受けて中に入ると、待ち構えていた女の子たちがどっと俺のところに押し寄せて……来るわけもなく、俺は近くのいすに倒れこむように座り込んで荒い呼吸を整えていた。両肘をひざの上についたまま、ふと顔を上げると、酒出でが大きな鍋からたぶんコーンポタージュを容器によそっているのが見えた。長い列ができている。もちろんコーンポタージュの魅力もさることながら、酒出によそってもらいたいというファンもたくさんいるに違いない。俺もできるならよそってほしいところだが、今は列に並ぶほどの余力がなかった。それに、あの長い列にならんだらとても15分以内に出発できそうもない。
酒出の後ろで同じソフトボール部の1年生の笠間が、俺の方を指さしてなんか言っている。酒出はコーンポタージュを一つ容器によそると、コーンポタージュをよそるお玉を笠間に渡して代わってもらった。よそったコーンポタージュを手に持って俺の方にかけてきた。
「はい、ジラ、どうぞ食べて」
「あ、ありがとうございます。わざわざ……」
コーンポタージュは温かく、胸にしみた。
酒出は、あいていた俺の隣のいすに座った。
「頑張ってるね。もっと遅いかと思ってた。足が遅いってきいたことあるから……あ、ごめんなさい、変なこと、言っちゃったかな」
「いえいえ、最高の褒め言葉ですよ。今、真ん中ぐらいかなあ」
「全員がよるわけじゃないでしょうけど、たぶん半分くらいじゃないかな、今もほら」
と入り口を指さす。
「どんどんきてるし」
「真ん中より上だったら、俺、生まれて初めてだな。結構、飛ばしてるから、結局、息切れしそうだけど」
「うふふ、がんばって」
酒出は脇から俺の顔をのぞき込むように見上げる。
本当にかわいいな、と改めて思う。明るくて屈託のない子どものようなかわいさだ。
「ジラの考えたこの企画、すごいなって思うよ。みんな喜んでる。マラソン大会がこんなに楽しいなんて、思いもよらなかった、ってみんな言ってる。うれしいけど、ジラの人気がどんどん出るのはちょっぴり複雑。ソフトボール部のマネージャーから学校全体のマネージャーになっちゃったんだね、ちょっと寂しいな。でも、ジラは、みんなのことを考えているんだよね」
そんなことを言われると、かなり複雑な気持ちになる。だって、俺はみんなのことを考えるどころか、少なくとも生徒会のメンバーのなかでは、一番、自分のことしか考えていないエゴイストなんですから。すべては那加の命令で、この素晴らしい企画も、考えたのはすべて那加なんですから。酒出のような美少女に、そんな澄んだ眼で見つめられる資格なんかないですから。
俺は、なんとなく居心地が悪くなって立ち上がった。
「そろそろ行くね」
「うん、がんばって」
酒出が、右手を差し出す。
「ありがとう」
うれしいような、少し申し訳ないような気持ちで、酒出の手を握る。ふんわりと体温が伝わってきて、俺の胸に広がった
とにかく、今は、いろいろ考えるのをやめて、ゴール目指して全力疾走だ。




