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第39章 生徒会がマラソン大会の計画を練る話

生徒課長になった俺、那加の立てたマラソン大会の計画書をみんなに配ります

 俺は、正直、びっくりした。赤塚先輩がこんなにあっさり、俺の提案を、まるまる受け入れてくれるとは思っていなかった。赤塚先輩は、体も大きく、いかにもスポーツマンタイプで運動神経もいい。去年のマラソン大会もかなり上位だったはずだ。頭もいいらしい。中学時代はテニス部のエースだったそうだが、高校では部活はやらず生徒会に入った。女の子にも人気がある。一流を絵にかいたような先輩だ。その一流が、俺みたいな三流以下のやつに生徒会会長を譲って副会長をやっているのだから、俺に対して何となく気に入らない気分なのではないかと思っていた。

「俺、この企画、もしかしてうまく行ったら面白いかもと思うよ」

「でも、うまく行くの?」と、後台先輩。

「よくわからん」と赤塚先輩は少しぶっきらぼうに言った。「奇想天外と言うか、俺だったら絶対に考えられない企画だ。疑問もいっぱいある。でも、とにかく、多くの生徒にとってマラソン大会を楽しいものにしたいという気持ちだけはよくわかる」

「そうね、確かにそうだわ」多賀先輩が少し首をかしげる。

「俺はもう2回、生徒会選挙に出て、その度に『この学校を楽しいものにします』と公約してきた。で、それから2期の役員をやって、マラソン大会も、去年、初仕事としてやった。内原と多賀とも一緒にな」

 二人がうなずく。

「だけど、マラソン大会にしろ、そのほかの行事にしろ、俺にできたのは、結局、去年までのやり方を滞りなく実行することだけで、それ以上のことは何もしてこなかったなあと思うんだ。正直言うと、考えてもみなかった。今回、鯨岡会長の楽しい学校にしたいという情熱とアイディアを見せられて、俺は少し反省してる。俺だって、もう少し何かできたはずなんじゃないかって……だから、俺は、今回、副会長になって、この会長がどれぐらいできるか見てみたいと思っているんだ。今回のアイディアもすごいと思う。素晴らしいかどうかはわからんが、間違いなくすごい。俺ではとても思いつかない。だから、会長の企画力を信じて、やってみてもいいかなと思う。それで学校が楽しくなるなら、俺もいくらか公約を果たせるかなとも思ったりする。だから、今回は、まず、会長の企画を丸のみにしてやってみたいと思う」

「そう言われると」と多賀先輩が座り直して赤塚先輩のほうを向いて言った。「私も反省しなければいけないのかな。先生の言う通りに、きちんと務めを果たしていくことで満足してたのかもしれない。それがみんなの役に立つと思ってきたんだけど」

「そんなことないと思いますよ」と内原先輩が少し厳しい口調で言った。「クラスマッチの時は麦茶だけでなく、氷水を用意して、熱中症を予防をしたのは、二人の発案だったじゃないですか。それなりに、私たちも考えてきたし、実行してきたと思います」

「そうだよな。俺たちなりにはやってきた。でも、俺たちには、これだけの企画力と、実行力はなかったな、とも思う。だから、今回は、俺は会長を信じてこのままやってみたいと思うんだ。これがどれくらい楽しい学校を作れるものになるのか試してもいいんじゃないかな」

「そうね。賛成。私も鯨岡会長の実行力にはびっくりよ」と言ったのは後台先輩だ。「もうすでに豚汁の話まで交渉してきているなんて……」

「この、下位者に賞品を出すというのにはびっくりしたんですけど」と内原先輩が皆を見回しながら言う。「でも、考えてみたら、賛成かなって……というのは、私の友達にとっても太っていらっしゃる子がいて、薬の副作用だそうなんですけれど、だけど、マラソン大会は学校行事だし、みんなと同じ道を走りたいって言って、去年は走ったのです。ダントツの最下位でした。今年も走りたいけど、みんなに迷惑かけるかなって心配していらっしゃるんです。でも、彼女が走ったら、最下位であることに賞をあげられますよね。すてきだと思います。そしたら彼女も迷わず参加できますもの」

「じゃあ、2年生は、全員、このまま実行するのに賛成ということでいいかな」と赤塚先輩が、皆を見回した。3人の先輩たちはうなずく。赤塚先輩は、残る二人の1年生を見た。

「友部副会長はどう思う?」

「私は、経験もないし、先輩がいいというならそれでいいと思います。もともと、ジラ-会長からの『楽しい学校を作るのを手伝ってほしい』という言葉を信じて立候補したようなものですから」

「高萩君はどう?」

 高萩はもう一人の会計で、度の強そうな眼鏡をかけた、背が高く痩せてひょろっとした男の子だ。

「はい、ぼくは、さっきも自己紹介した通り、生徒会の会計のコンピューター処理を頼むと先生に言われて生徒会に入っただけなので、行事をどういうふうにやるかということに特に意見はありません。どう転んでも、せいぜいマラソン大会ですし、失敗しても大したことはないし、まあ、皆さんがいいというやり方でやっていただければ、それ以上の意見はありません。ただ……」

 高萩は計画書を手に取った。「この『努力賞』のもとになる順位ですけど、1年生は去年の順位がないですよね」

「そう、そこは、今、考え中なんだ」

「春に体力テストをやって、50mのタイムを全生徒が計ってますよね。あれを全校生徒並べて順位をつけて、それを基礎にしたらどうですか? 距離は全然違うけど、足の速さを測る一つの目安にはなりますよね」

「なるほど、それもいいわね。どう? 会長」

 俺は少し考える。それについては、那加も迷っていたし、とてもいい考えのように俺には思えた。「いいと思います。グッドアイディアです。それで行きましょう」

「じゃあ、データの収集と、当日、努力賞の順位を決めるプログラムの作成は、僕のほうで引き受けます」

「オッケー」と赤塚先輩が身を起こした。「話は決まった。この計画書を実現するためのステップを一つずつ決めて行こう」

「まず何が必要か書き出すことからね」

 生徒会室は一度に熱気に包まれた。ああでもない、こうでもないと、みなが生き生きと議論している姿を、俺はちょっとぼーっとしてみていた。

 俺は少し感動していた。俺を除いた生徒会の役員たちは、楽しい学校を作りたいという気持ちでここにいるのだ。みんなの幸せのために精力を注ごうとする、この人たちの情熱はすてきだと思った。那加の奴隷でない本来の俺だったら、みんなのために身を粉にいて働きたいとは絶対に思わなかっただろうなと思うと、自分がここにいるのがいかにも場違いな気がした。まして、そんな俺を、ここにいる人たちが、誰よりもみんなのことを考えている優秀な生徒会長として評価してくれているらしいと思うと、何か申し訳ない気持ちにもなった。那加が俺に着せた飾りは華麗すぎるなと思った。だが、正体がばれるまでは着続けるしかない。

 何はともあれ、那加の構想通りにマラソン大会は実施できそうだ。予想以上にうまくいった。

 次の那加の命令は俺が努力賞の一位をとることだ。とても無理だとは思うが、挑戦だけはしないわけにはいくまい。まあ、50mの順位は間違いなく最下位に近いから他の人に比べれば圧倒的に有利だとは思うのだが……


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