第34章 公約について語る話2
赤塚先輩は俺の公約について疑問をもっているようですが……
「どこからお金を持ってくるつもりだい.通信費の2万ぐらいではたかが知れてるぜ」
「いえ、いえ。2万円を馬鹿にしてはいけません。予算全体から見れば小さいお金でも、2万円と言ったら、俺たちにとっては大金ですよね。たぶん、マラソン大会の賞品を買うくらいなら十分な大金ですし、俺たち文芸部みたいな弱小部にとっても大金です。ある意味で、十分なお金なんです。まずは、そういうお金を見つけていくことが重要なんです。いきなり何十万というお金を捻出するのは難しくても、千円くらいならいろいろな場所から、捻出できないことはないはずです。大金を見つけようとするのでなく、細かいお金を捻出していって、小さな積み重ねをしていくことで、やがて大きなお金になるんです。予算の使い方全体に気を配って、小さな改善を積み重ねることで、その積み重ねの結果としてそれなりの額を確保できるのです。一言で言えるような大きな改善ができないからといって、何もしないのは怠慢以外の何物でもありません。俺はいろいろな意見を持ってはいるんですが、ここですべてを言うことはとても難しいし、俺も、いろいろ、きちんと調べていかなくては、確かなことは言えません。しかし、一例を挙げましょう。たとえば、これです」
生徒会の予算書を指さす
「生徒会誌の『大地』に60万のお金を使ってますよね」
「ああ、そうだよ。これは、卒業の記念も兼ねるから、クラスのページや先生方の言葉も必要で、どうしても分厚くなる。それを印刷所に頼んで、部数もたくさん作るから、どうしてもお金がかかるんだよ。決算を見れば、ほとんど60万ぎりぎり使ってることは知ってるんだろ。これでも印刷所との長い付き合いで安くしてもらっているはずだよ。ページ数を減らすとか言うのかい? それとも、まさか、学校で印刷するなんて言い出すんじゃないだろうな」
「いえいえ、そんなことは言いませんよ。ページ数の見直しとかがあってもいいですが、クォリティを下げてまで安くしようとは言っていません。とりあえず、これを見てください」
俺は、内ポケットから去年の生徒会誌を出して、開いて見せた。
「おいおい、何でも出てくるんだな」
「公約の説明ができるときに備えて用意しておいたんです(もちろん、那加の命令である)。ここに広告が出ていますよね.『上小川文具店』」
「そうだよ、校門前の文具店だよ、知ってるだろ。これは、俺たちが、去年、交渉して広告を載せてもらったんだ。広告料金ということで5000円の寄付をもらって載せたんだ。そういう努力もあって、やっと60万に抑えたんだよ」
「俺は、もっと広告を増やしたらと思うんです。10店からもらえれば5万、20点なら10万になりますよね」
「そしたら、広告ばかりの本になってしまうだろう」
「大して困らないですよ。必要な記事はちゃんと載るんだし……」
「第一、そんなにたくさん広告を載せてくれる相手が見つかるのかい」
「やってみないとわかりませんが見つかると思いますよ。実は、既に、いくつか、あてはあるんです」
「だよね」
不意に後ろから二の腕をつかまれたので、俺はびっくりした。見ると、いつの間にか酒出が来て、俺に寄り添うようにして、二人の先輩を見上げている。
「私とジラと、二人でお店を訪ねて仲良くなった店がいくつもあるんですよ。あそこは、きっと広告を載せてくれると思います。今でも、すでにソフトボール部を応援してくれているし……」
「南、どうしたんだよ。部活に行ったんじゃなかったのか?」
大宮先輩が、酒出を俺のそばから引き離して、自分のそばに引き寄せた
「ちょっとトイレに行ってきて通りかかったら、2対1で話しているのが見えたから、何を話しているのか気になってきてみました……先輩、前に話したの、覚えてますか。ジラと一緒にお店を回った話。特に馬場商店はとても親切で、差し入れなんかしてくれて、みんなで部活の後、お礼を言いに行ったら、それをとても喜んでくれて、それからとっても仲良しなんです。ジラが頼めば、喜んで広告、載せてくれると思います」
酒出は、二人の先輩の顔を見比べるようにしてうなずいた。
「それから」
と、俺は、生徒会誌の広告のページを開いて見せた。
「広告の中身ですけど、この『文具なら何でもそろう上小川文具店』というのは、ちょっとシンプルすぎませんか?」
「どういう意味だよ。前と同じでいいと言われたから、その通りにしたんだよ」
「先輩は店に入ったんですよね。どう思いました?」
「入ったといったって広告の話をしに行っただけだから……」
「広告の通り、結構、品ぞろえもいいし、安く販売してるものもあって とってもいい店なんですよね。だけど、お店がいかにも古い感じのせいか、大大地高生はあまり利用していないみたいなんですよね。これってもったいない話だと思いませんか、いいお店なのに、それを知らないから買いに来ない、買いに来ないからお店はもうからない。ここで、広告で、きちんとお店の良さが伝わるものを載せたらどうなります。生徒は、いいお店を知って得をするし、お店のほうもお客が増えてうれしいし、いいことばかりになると思いませんか。つまり、そうなれば、広告はただうるさいだけのページではなく、お互いにとって価値あるページになるんです。お得なページが増えれば、一種の情報誌としても価値のある本になるでしょう? 広告を増やすことは本の価値を下げるどころか、むしろ増やしてくれる可能性もあるんですよ」
「だけど、そういわれても、お店の人は、そういう広告作るの、難しいんじゃないか」
「そこで、そういう広告作りを美術部に頼むんです。上小川商店は画材もいっぱいおいているので、行けば美術部員は、絶対、店が気に入ります。そこで、その魅力を描いた広告を作ってほしいと頼むんです。そして、お店には広告制作料として寄付を増額してもらい。増額分を美術部の部費に回します。こうすれば美術部は部費が増えるし、ほかの部からも文句は出ませんよね」
「なるほど」赤塚先輩は少し考えた。「だけど、そんなにうまくいくのかい」




