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第29章 友部が副会長に立候補する話

俺は生徒会長に立候補する届けをもって職員室に行ったのですが、受け取ってもらえませんでした。次の日、再チャレンジです。

「そういう問題じゃないでしょ」

「みなみんも入れてくれるから3票かな」

「だから、そういう問題じゃないと思いますけど……昨日は放課後も担任に呼ばれて、無理だから考え直せって言われたんですよ。後期の会長は卒業式で送辞をやる重要な役目なんだから、なまじのやつにはできないんだぞって」

「おやおや、矛盾してるわね。ジラが当選するはずがないって言ってるのに送辞の心配をするなんて」

「俺もそれ言いましたよ。万が一、俺が当選したら、送辞だけは、副会長でもどなたでも、学校がふさわしい人をどうぞ選んでくださいって、俺が当選するかもって心配してるんですか? って」

「そしたらなんて?」

「いや、そういう意味でもないんだが、おまえのことを心配してるんだ、俺は、とか言っていました」

「まあ、前にクラスの役員の時、きれいに譲ったからね。俺が話せばきっとわかってくれるって思ったんじゃない? でも、今度は譲れないよ」

「那加は、俺が本当に会長になれるって思ってるんですか?」

「思ってるよ。現実は厳しいなとも少し思い始めたけど……透子さんのほうはどうなの? 副会長に立候補してくれるの?」

「それも、断られました。家のほうが忙しくて、プラスアルファの活動は無理だって」

「そうか。確かにね。あの美少女がトイレの汲み取りまでしてるんだもの、忙しいのは確かよね。そうか」

 那加は珍しく少し考えた。

「わかった。立候補期限もあるし、透子さんには私のほうから頼み込んでおいてあげる。これは透子さんにとっても悪くない話のはずなのできちんと話して頼めば、たぶん大丈夫だと思う。今日、頼んでみる。できれば、一緒に立候補届を出しに行ければ理想ね。そして……」

 那加は俺にメモを手渡した。

「まあ、感情的な問題は別として、学校としては立候補届は最終的には受けつけなくてはいけないはずなんだから、それを前提として、選挙運動は今日の放課後から始めるわよ。これをよく読んで実行よ」

「あ、はい、わかりました」

 俺はメモを受け取る。選挙運動だって? いったい何をやるんだ?


 3時間目の休み時間に委員長の友部が俺のところにやってきた。

「ジラ、あなた、どうして会長になりたいの?」

 友部は、最近、俺をジラと呼ぶ。那加が、女の子たちに、そう呼ぶと喜ぶみたいよという噂を広げ、酒出あたりが呼び出してから少し広まっている。

「どうしてって・・・」

『実は、那加の命令です』と心の中で言いつつ、那加に言われたとおりの表立った理由を答える。

「この学校をもっといい学校にしたいって思うからですよ」

「できると思ってるの?」

「たぶん」

「たとえば、どういう形でいい学校にするの。なんかアイディアがあるの?」

「あります」

 と俺は友部の美しい顔を正面から見つめる。公約は那加からちゃんと指示されている。

「俺は、生徒が楽しい学校を作りたいんです」

「楽しい学校?」

「そう、楽しい学校。学校生活がもっと楽しければみんなだって嬉しいですよね」

「それはそうに決まってるけど、口先だけなら何とでも言えるよね。楽しい学校にする何か具体的なプランはあるの?」

「もちろん、楽しい学校にするって言っても簡単じゃないです。楽しさってさ、誰かから、もらうもんじゃないですよね。自分から作り出さなきゃ、絶対、手に入らないですよね。だから、たとえば文化祭みたいに、生徒が参加して何かを作り上げる、そういう機会を作りたいと思ってます。ああ楽しかった、次は勉強を頑張ろうって、そう思えるようなイベントというか、そういうものをね」

 那加が、そういうのを公約にしろと言うので、受け売りで話しているのだが、ご主人様これで本当にいいのですか、何だかあまりに空々しいような気がしますけど、気のせいでしょうか。

「ふーん、そんなこと本当にできるの?」

「できると思ってます」

「何か具体的なアイディアがあるの? イベントの」

「あります」

 ……たぶんご主人様の頭の中には……ですが。

「そうなんだ、ふーん」

 友部は軽く握ったこぶしを下唇に当てて考える。こんなしぐさもするんだな、と俺は、一瞬、友部のかわいらしさに見とれる。

「わかった。私も立候補してあげる。ジラが会長で私が副会長ね」

「え、ほんとですか?」

「さっき、何とかお願いって那加に頼み込まれたの。ジラって那加と仲がいいの?」

「仲がいいとまでは言えないかもしれませんが、部活が同じよしみで話したら、委員長に頼んでみてあげると言ってくれて……」

「無謀な夢を見てるみたいだから、手伝ってあげてとも言われたけど、そもそも、立候補自体が無謀な夢のような気がするけど、どう?」

「無謀かもしれませんね。でも、委員長が一緒に立候補してくれれば、当選確率は10倍になりますから、無謀でもなくなるかも」

「0・1パーセントが1パーセントになっても無謀であることに変わりなくない? 私だけ当選して、ジラが落選したらどうするの?」

「え、それは……」

 俺はちょっと慌てる。それは十分にありそうなシナリオだ。友部なら後台先輩との美少女対決にも勝つかもしれない。

 しかし、俺が赤塚先輩に投票で勝つなんて考えられそうもない。まさか、那加は俺が落選することを考えてないのか? 

 とにかく、それについては何も言っていなかったぞ。

「今は、当選するために頑張ることしか考えていません。今日の放課後から選挙運動やるんで……よかったら一緒にやってもらえませんか」

 友部は肩をすくめた。

「おやおや、どんなことになるのかしら」

 すみません。実は、俺も同感です。那加には勝算があるのか?


 昼休み、俺は友部と一緒に職員室の神立先生のところへ行った。俺の顔を見るとまた来たかという顔をしたが、一緒に来た友部を見て少し目を丸くした。

「どうした友部。用があるのか」

「私も立候補しようと思いまして」

「何? おまえも? まさか会長に、じゃあるまいな」

「違います。会長には鯨岡君が立候補するので、私は副会長に」

 神立先生は俺を見る。

「鯨岡、まだ、会長に立候補するのか。昨日は考えなおしてくるって言ったじゃないか」

「はい、立候補します」

 考え直すなんて俺が言ったはずはないのだが、そんなことで議論しても始まらないので、俺は、ただ、そう言っておく。

「お前なんかが立候補しても、票が入らないってのが、まだわからないのか。そもそも、1年生っていうだけで、2年生とは勝負にならないんだよ。これは友部にも言えることだよ。ま、副会長は枠が二人あるし、友部だったら、もしかすると、票も入るかもしれんが……それにしても、そうか、困ったな……」

 何か考えている。しばらくするとうなずいて、

「そうか、じゃ、こうしよう。実はな、昨日、あの後、係の先生とも相談したんだが、今年は書記の枠がまだ埋まってないらしいんだ。だから、鯨岡が今日来たら今回は書記になってもらおうかと思っていたんだが、友部まで立候補するとなると、枠は一人分しかないのでどうしようかと考えていたんだが、どうだ、今回は友部が書記に入ってもらって、鯨岡は次回にまわってもらえないか。次回も必ず枠があくので、鯨岡には優先的に入ってもらう。約束するから、それまで待っていてくれないか」

「俺は書記や会計になるつもりはありませんよ」

「だから、わからん奴だな。人事は順送りなんだよ。書記や会計から始めれば、将来会長になる道も開けてくるんだよ。今、ならなくても、来年か再来年になれればいいだろう?」

「あの、先生」

 こういう提案がありうることは那加の読みの範囲内だ。

「俺は会長という肩書が欲しいわけじゃありません。俺が会長になりたいのは、この学校をもっといい学校にする仕事がしたいからです。みんなにとって楽しい学校をみんなの中心になって作りたいからです。そのためには、今、会長にならなければ意味がないんです」

「私も」

と、友部が言った。

「ジラのその気持ちを理解して、手伝ってほしい、と言われたから立候補する気になったんです。手伝うだけなら、書記でもいいかもしれないけど、私も選挙で選んでもらって、みんなの支持を得て仕事したいです。よろしくお願いします」

「そうか。まあ、友部がどうしてもやるというなら受けつけないわけにはいかないか。選挙をやるしかないようだな。しかし、くどいようだが、友部はともかく、鯨岡は無理だぞ。票は集まらんぞ。俺もこの仕事、長いから、どんな風が吹くかはよく知ってる。情熱を疑うわけじゃないが、楽しい学校をを作るなんて判で押したようにみんなが言うことだ。志だけではな、人は動かせん」

「とにかく、頑張れるだけ頑張ります。今日から選挙運動始めますが、かまいませんよね」

「生徒会選挙で選挙運動やるなんて話、俺は聞いたことないぞ。いったい何をやるつもりだ? そんなことやって本気で勝てると思っているのか、下手するとというか、下手しなくても恥の上塗りになるだけだぞ……」

 まったくだ、と、俺は、一瞬、思わずにいられなかった。本当に当選できるんですか ご主人様。


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