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第28章 生徒会長に立候補する話

文芸部で秘密の部誌をもらった那加。次はいよいよ生徒会長を目指すようにと俺に命じます。

 「もちろんよ。たぶん選挙になるから、選挙運動しないとね。まずは立候補届を出すのがあさってからなんだけど、立候補するにあたって責任者が、一人、必要なのよ。誰にする?」

「責任者?」

「そう、立会演説会で5分程度の応援演説をするだけだから,それほどの負担にはならないと思うけど、だれか頼める人はいる?」

 困ったな。俺が普段話す友達は3流グループが多いので、そういう演説なんか、いやがりそうだ。弁当こそ一緒に食べたりするが、アニメの話にはつきあってくれても、俺のために一肌脱いでくれるかというと心もとない。

「佐和ちゃんなんかどう? 幼馴染なんでしょう?」

 青柳佐和は、俺の幼馴染で小学校のころまでは何でも話せる親しい仲だったが、俺と違って人気者なので、中学のころから何となく距離ができてしまっている。でも、とびっきり優しい性格なので、何とかお願いしますと言えば、やってくれるかもしれない。でも、そのやさしさに甘えて、泡沫落選候補の応援演説をさせるのも申し訳ないかなとも思う。何しろ、俺みたいなさえないやつががステージに上がっただけで「なんだあいつ」という目で見られかねない。その責任者も同じ目で見られかねないなと思ったりする。やさしさに甘えるのもなあと考えていた時、俺はふと思い出した。ソフトボールのマネージャーをやめるとき、酒出が俺に感謝して、言ってくれた言葉を。

「もし、いつか、私で役に立つことがあったら、いつでも言ってね。この恩を返したいから」と言ってくれたのだった。俺は、すべて那加の指示に従っただけだったので、かえって申し訳ない気分で聞いていたのだが、酒出の言葉に嘘があるはずがない。たぶん、酒出なら快く引き受けてくれるだろう。

 そのことを那加に話すと、那加もうなずいた。

「いいわね。みなみんなら最高よ」


 二日後、酒出を責任者にした立候補届を持って職員室に入ると、俺は、神立先生を探した。提出先が神立先生になっているからだ。

 神立先生はまだ若い男子体育教師だ。ちょっと髪の縮れた体育系イケメンで、俺の苦手なタイプだ。いつもジャージを着ていて、口の利き方も、少なくとも俺に対してはぞんざいだ。何も言わなくても、俺みたいなオタク系男子を軽く見ていることが伝わってくる。

「おう、鯨岡、なんか用か?」

「実は生徒会に立候補しようと思いまして」

「あーっん? なにーっ? おまえがか? 本気か?」

 神立先生は目を丸くする。俺はおずおずと届け出用紙を差し出す。先生は、椅子の背もたれにふんぞり返るようにして、用紙を読むと、軽蔑したような目で俺を見る。

「なんだと、いきなり生徒会長に立候補するつもりか、おまえ」

「あ、はい。がんばります」

「いくら頑張るって言っても、それはダメだ」

 そう言われるのは那加の読みの範囲内だったので、言われたとおりに反論する。

「でも、立候補に資格制限はないですよね」

「もちろん、ないが……もう次の会長は決まってるんだ」

「え……? でも、選挙するんですよね」

「いや、選挙にはならない予定だ。立候補が定数内なら選挙にはならず信任投票になる。うちの学校は伝統的に、選挙にならないように前もって立候補者の調整を行うんだ。だから、次の会長は今の副会長の赤塚がやることになっていて、本人もそのつもりだ。もう一人の副会長の後台も了承している」

 赤塚先輩というのは、背が高く、がたいのしっかりした押しの強そうな人だ。神立先生とはウマが合いそうだなと思う。生徒会長なんかをやりたがりそうな「おれがおれが」タイプに見えた。後台先輩というのは、放送部のエースの女子で額田と小尾先輩が目をつけて騒いでいる美少女の一人だ。顔だけでなく声もとてもきれいだ。俺なんかとの接点はないが、遠くで見ていても、いかにもやさしそうな人で、まあ、頼まれたらやることはあっても、積極的に会長になりたいとは言わないだろうなと思えた。

「まあ、そういうわけで。伝統的に生徒会の人事は順送りになっているんだ。これまで生徒会に縁のなかったやつが、今更、入り込む隙間はないんだよ。ま、書記か、会計なら、今、新人を調整中だから、新しいなり手が見つからなければ、可能性はないわけではないが、生徒会というからには、やっぱりそれなりの人材でないとな、やる気だけではつとまらんよ、それなりに大事な役割だからな。ま、どういう気まぐれか知らんが、そういうわけで今回は諦めてくれ」

「でも、選挙で選ばれれば、会長になれるんですよね。そして、立候補すれば選挙になるんですよね。だから立候補します」

「おいおい、やめてくれよ。わからんやつだなあ。お前が会長をやれるわけないだろう。選挙したって、おまえが勝つはずないだろう。下手すると自分の一票しか入らんぞ。そんな恥をかいてまで、選挙したいのか? おまえは」

「そうですね。恥をかくぐらいなんでもありません。挑戦したいです」

 とにかく、なんといわれようと立候補するのが那加の命令なので……

「おまえ、頑固だな。俺の言うことがきけんのか」

 神立先生は大声を出した。この先生はちょっとしたことですぐ腹を立てる。みんなが振り向いた。どうするか。

「俺としては、とにかく立候補を受け付けていただければいいんですけど……」

「いや、考え直してこい。生徒のためを思って指導するのも先生の務めだ、考え直してこい。立候補するにしても、書記か会計にしろ。今、どのぐらい人材が集まっているか聞いておいてやる。届け出期間はまだ一週間もある、明日,出したっていいだろう」

 大声でがなり立てて、届け出用紙を俺に突き出すので、俺は仕方なく受け取った。あんまりしつこくして感情的になられてもこじれかねない。事情を話して、もう一回那加の指示を仰ぐしかない。それにしても、届けを出すだけのことがこんなに難しいとは想像もしなかったぞ。


「そうね。立候補するだけでそこまで難しいとは、私も、予想しなかったわ。ジラ、あなた、よほど信用ないのね。まあ、先生としては既定路線で行けば楽だからね。ここまでやっと決めておいてたのに、よけいな仕事を増やすなよ、って気分なんでしょう。1票しか入らないような奴の気まぐれのために、わざわざ選挙なんかやりたくない、無駄な労力と時間を使いたくないって気持ちもわかるわよ。先生に聞いた話では、最近、選挙はやってないらしいからね。そのつもりでいたところへ、勘違い野郎が来たってわけね。ま、最終的には受け付けざるを得ないと思うから、改めて出すしかないわね」

「やっぱり、立候補するんですか? 先生の言う通り1票しか入らない可能性もありますよ」

「ご心配なく。私も入れるから2票は入るわよ」


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