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第23章 委員長の立派すぎる家に行く話

委員長の友部透子とのデートを無事終えた俺だったが、その2日後、友部から「母が会いたいと言っているので、家に来て」と言われ、家を訪問します。

 

「ここか、おい」

「間違いないでしょ。ちゃんと友部って表札も出てるし」

 瓦を乗せた長い白い塀が右にも左にも続いている。まるで武家屋敷のようだ。その塀の長さは、夕方の薄明の中では果てが見えないくらいだ。

「これって、個人の家には見えないよ。委員長、ほんとにここに住んでるのか?」

「呼び鈴とかはないの?」

 入口にはいかにも古そうな分厚い木の扉があるが、呼び鈴らしきものはない。

「委員長は、『かまわず、ずっと入ってきて』って言ってたよ」

 俺は重い扉を開けて中に入る。

「なんだこりゃ」

 中は鬱蒼とした森である。一本の道が森の中に消えている。太陽はもう沈みかけているので、道は不気味に暗い。

 俺と妹は、あたりを見回しながら自転車を押して歩き始める。木の根っこやら石があってとても自転車には乗れない。

「委員長、こんなところに住んでるのかよ」

 俺は昨日の委員長の言葉を思い出していた。

「母があなたに会いたいっていうの。明日の夕方、家に遊びに来て。いいでしょ」

 あいかわらず怒ったような調子だが、デートのとき印象が変わったせいだろうか、前ほどきつくなく感じた。

「え、ええ、いいですけど……いったい」

 どういうわけでという言葉を言わせずに、委員長は続けた。

「いやいやデートさせられたといったら、連れてきなさいって言われたの。よかったら妹さんも連れてきて。はい、これが地図。門から家までは長いけどかまわずすっと入ってきて」

 本当に長い。もう五分以上歩いているけど、まだつかない。うちの高校より広いんじゃないのか。確かに、学校からずいぶん離れた、山奥と言ってもいいような場所だから土地はいっぱいあると思うけど……。

 だんだん不安になってくる。大切なお嬢様に無理やりデートにつき合わせたことで、厳しいおとがめを受けるのかもしれない。「面白い展開ね。みっちり絞られてきて」と那加は笑っていた。那加が仕組んだことでしょうが。

 ようやく森が開け、家が見えた。電気がついている。「よかった、電気来てるんだ」と、思わず思ってしまうほどだ。古めかしい木造りの大きな家である。玄関は重そうな引き戸である。

 呼び鈴を探していると、ガラッと扉が開いた。開けたのはきびしい顔の老婆である。質素な着物を着ている。

「鯨岡様でございますか」

「は、はい」

「私は、この家の女中頭の袋田でございます。どうぞ、お見知り置きください。では、どうぞこちらへ」

 広々とした、というよりだだっ広い玄関の廊下に着物を着た委員長が正座している。着物と言っても晴れ着とは違って質素な感じの地味な色だ。それでも、髪をきれいにとかした委員長が着物を来てそこにすわっている姿はまるで日本人形のように美しかった。

「いらっしゃいませ」

 と頭を下げる。その威厳のある美しさに立ちすくむ俺のそばから、妹が駆け寄る。

「すごーい。透子先輩。きれい」

 膝に手を置いて委員長の顔をのぞきこんでいる。ものおじする様子もない。まったくたいした妹だ

「透子先輩、お化粧してる?」

「まさか」

「だよね。それなのに……なんてきれいなの」

 静はいきなり委員長に抱きついている。おいおい、いくら中一と言っても大胆すぎるだろ。しかし、委員長はいやがるでもなく抱きとめる。

「ありがとう。静ちゃんもかわいいよ」

 何なんだ、この二人。二日前に一回会った限りで、すっかり意気投合しているぞ。

 長い廊下を案内されて、広い部屋についた。閉められた障子の前で袋田さんと委員長が座り、俺たちにも座るように言う。

「失礼します。奥様。鯨岡さまがお見えになりました」

「どうぞ、入っていただいて」

 障子をあけて、俺たちに入るように促す。広い畳の部屋の真ん中にテーブルが置いてあって、その向こうに着物の婦人が座っている。これが委員長の母親らしい。委員長の母親だけあって、美人だ。しかも若々しい。一六歳の娘がいるのだから、さすがにアラフォーのはずだが、三〇代か下手をすると二〇代に見える。

 俺たちを見るとうれしそうににこっとして、頭を軽く下げる。

「どうぞ、お座りください」

 俺たちは、並んで母親の正面にすわる。母親の脇に委員長が座り、袋田は、立ってお茶を用意すると、母親のすぐ後ろにすわった。

「すいませんね。お越しいただいて」

 と母親が言う。委員長によく似た澄んだ声だが、きつい調子ではなかった。「実は、娘とデートしたと聞いたものですから、どんな方か一度お目にかかるべきだと、ばあやが申しますので」

 袋田が厳しい顔でうなずく。

「あ、あの。違うんです。デートとかじゃなくて……デートと言う名前ですけど……、本物のデートではなく……デートという名前のうんざりというか、ペナルティというか……」

 何言ってんだ、俺。しまった。緊張でしどろもどろだ。

「わかります。わかります」

 と明るい声で静が言う。なんだ? 何を言い出すんだ?

「兄のようなダメ男と、透子様のような気高いお方が、デートするなんて、許せない気持ちはわかります。でも、ご心配なく、少しの時間一緒にいたと言っても、デートじゃありませんから。現に私も一緒でしたから」

 まったく、妹はたいしたやつだ。本当に中一か? ダメ男というのはちょっと気に入らないが、まあ、真実から遠くないことは確かだ

「形だけでも二人で一緒に過ごしたことは事実です。しかも長時間」

 厳しい声を出したのは袋田だった。

「デートではないと言い張っても、鯨岡さまにお嬢様に対する何らかの気持ちがあって、賭けをなさったのでしょう」

「いや、そんな」

 那加の命令で申し込んだだけで、俺はむしろ嫌ってるんですが……とも言えずあせる。それに、デートして委員長のいろいろな表情を見て、前ほど嫌っているのかどうか、少し自信がなくなってもいた。

「お気持ちはわかります」

 とまた妹がしゃしゃりでる。

「しかし、私、思うんですけど、透子様のような美しく気高いお方を見て、心を動かされない男なんているでしょうか。私は女性ですけど、この前お会いしてから、その美しさと気高い心のとりこになって、もう夢中です。こんなだめな兄ですが、一応、男です。思慕の念がいくらかあっても許してはいただけないでしょうか」

 静、おまえはすごい。生意気な妹だと思っていつも敬遠しがちだったが、ここまで俺を守ってくれるとは。

「妹のわたしが言うのもなんですが、うちの兄は何一つとりえのない、情けない、いわゆる、『ぼっち』のおたくでして、一生、女の子には相手にされないんじゃないかって、私は、本気で心配しているんです」

 おいおい、そこまで言わなくてもいいだろ。まあ、当たっていますけどね。

「透子様のようなすばらしい方と比べたら、兄は虫けらみたいなものです。そんな虫けらとの約束をきちんと守ってくださった透子様の気高い心に私、感激しています。兄は正直者で、思慕の念を抱いたとしても、ただおつくしすることしか考えていません。デートはさせていただきましたが、透子様がどうすれば喜んでいただけるかそればかり考えていました。どうか、兄を哀れとおもってお許し下さい」

 おい、静――と俺は心の中で言った――おまえ、ちょっとしゃべりすぎだろ、そこまで言わなくたって……

 袋田さんは、俺の方に向き直る。

「ずいぶん、お兄さん思いの妹様のようですね。今のお言葉は、お兄様の気持ちを代弁していると考えてよいのでしょうか」

「あ、ああ……はい。まあ」

「奥様」

 袋田さんは友部の母親に目配せした。母親は、軽くうなずくと、俺の方に身を乗り出すようにして話し始めた。

「鯨岡さま、娘にいくらかでも好意を持っていただけましたこと、感謝いたします。ありがとうございます。で、もちろん、娘の気持ちもありますが、もしかして、将来、結婚し、この家を継いでいただく可能性もございますので、一度、お会いしておこうかと思いまして……」

 な、なんだって、何の話だ? 話が飛びすぎてるぞ。


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