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第22章 妹と委員長が意気投合する話

デートの最後に俺は委員長とカラオケボックスに入ることになった。

「だから、そんな心配をする場所じゃないですから」

 と言いつつ、確かに、こんな絶対美少女と二人きりというのはちょっとどきどきだなと思いながら、カラオケボックスのカウンターに立つ。突然、後ろから声をかけられた。

「おにいちゃん!」

 振り返ると(しず)だった。俺の中一の妹だ。びっくりした。なんでこんなところにいるんだ?

 静は、俺のことをふだんから全く馬鹿にしているという点では困った妹ではあるが、馬鹿にするだけの資格がある妹でもある。よく勉強して成績がいいし、社交的で友だちも多い。おまけにとびっきりかわいい。友達からは本当に妹かよとよく言われる。俺自身でさえ、いろいろな意味で、俺と本当に兄妹かよ、と思うくらいよくできた妹だ。

 俺の友だちは、ほとんどが俺をうらやましがる。「あんなかわいい妹がいていいな」と思うらしい。

 俺は別にいちいち反論はしない。しかし、現実は厳しいのだ、友よ。

 お兄さんが大好きで、いつもかまってくれる、けなげなかわいい妹なんて、ラノベにしかいないんだぞ。

「あれ、静、どうしてこんなところに」

「それ、こっちの台詞だよ。おにいちゃんらしいひとが、女の子とカラオケボックスに入るのが見えたから、まさかとおもったけど、ちょっとついてきちゃった。ほんとにお兄ちゃんだったから、びっくりした。お兄ちゃんが女の子と歩いてるなんて……」

 静は、俺の手を握って友部と俺を見比べた。

「もしかしてデート?……なの?」

「まさか」

「だよねえ。まさか、だよね。でも、二人きりでカラオケ入るの? 怪しくない?」

「まあ、そうだな」

「じゃ、私も一緒に入っていい? 人数、多い方が楽しいし、デートじゃないんだったらいいでしょ」

 なんてこと言い出すんだ、静は。

 どうしたらいい?

「えーと、俺は……委員長の気持ち次第で」

「いいよ」

 と友部はあっさり言った。

「鯨岡君にこんなかわいい妹がいるなんて知らなかった。静ちゃんていうの? 中学生?」

「はい。1年生です。兄がいつもお世話になっています」

 丁寧に頭を下げる。いつものことだが、静は俺よりもしっかりしている。

 まあ、友部がいいと言ってくれるならむしろありがたい。俺じゃ間が持たないんじゃないかと心配していたところだ。妹ならこういう場面で、さぞ、うまく振る舞うだろう。

 案の定、部屋に入っても、すっかり仲良くなって、体をくっつけて、選曲もあれがいい、これがいいと、和気藹々とやっている。俺は完全にそっちのけだ。

 友部は、部屋に入るとマスクとサングラスをはずして、曲に会わせてノリノリで歌っている。きれいな声だが、初めてカラオケマイクを握っただけあって,さすがに間違えてばかりいる。どうも二人の会話を聞いている限り、友部も、俺と同じで、最新の流行には疎いらしい。静の解説を興味深そうにうなずきながら聞いている。でも、何でも完璧にこなす友部が、間違えたりあわてたりしながら、ステージで歌っているのはむしろかわいい。顔が少し上気して、いっそう輝いて見える。

 妹はかわいいし、性格も積極的でリア充の典型のような中学生だ。すっかり友部に惚れ込んで、あれやこれや話している。友部も楽しそうだ。なるほど、あんな風に話せれば「デート」というものも成立するのかと思う。うんざりしていた友部も最後になってデートらしい瞬間を過ごせたのかな、と思いながら二人のデュエットを聴いていた。

 おい、もう5曲連続デュエットしてるぞ。俺のこと完全に忘れてるな。

 だが、ステージで歌っている友部の美しさは本当に完璧だ。もともと、顔の形も、目も鼻も口も、まつげの一本にいたるまで念入りに芸術家が作り上げたとしか思えないほど整っている。こんなに完璧な美少女はテレビの中にもめったにいない。それが、生き生きと笑顔で歌っているのはなんとも魅力的だ。うっすらと汗をかいているところまで魅力的だ。妹も、さすがに友部ほどではないかもしれないが、十分にアイドルの仲間入りする資格はある美形なので、二人のショーは見ているだけで十分に楽しい。

 そのステージををたった一人俺だけがみているなんて、こんな贅沢はないのかもしれない、俺はものすごく得をしてるのかもしれない、とも思える。やがて、一人の観客の前の二人のショーが終わるとデートも終わった。

 俺は、ほっとしたような、同時に少しさびしいような変な気持ちで代金を払った。

 三人で電車に乗って大地市に帰る。電車の中でも俺なんかそっちのけで話し込んでいる。妹が一方的に話しかけている感じだが、友部も、カラオケボックスを出るとサングラスとマスクをつけたので表情は見えないが、声は楽しそうだ。駅で友部と別れると、俺は、妹と家に向かった。家に入るとき、妹が俺の耳元に口を寄せて言う。

「今日はすごい楽しかったよ。透子様って、すごい美人ね。あんな美人、私、今まで見たことない。アイドルみたい。私、ファンになっちゃった。私のこともかわいいって言ってくれたよ」

 妹は友部に認められたようだ。まあ、悪いことじゃない。

「今度、うちに遊びに来てくれるって約束したよ」

 俺は、危うく躓いて転びそうになった。

 な、なんだって!

「聞いたよ。賭に負けてデートさせられたって。お兄ちゃんもやるわね」

 おいおい、いつの間にそんな話を……これだから、リア充の連中は油断も隙もない。


「あはは、妹さんはナイスね。うれしい誤算というとこかしら」

 次の日の朝、珍しく那加が笑って言った。

「笑い事じゃないですよ。本当に来たらどうするんですか。俺は、そのあと、家族の前で質問攻めに遭って、結局、だいたいの顛末を家族みんなが知ることなってしまったんですよ。もちろん、那加のことは話しませんでしたけど、俺、すごい大胆なやつだと思われてしまったと思います」

「妹さんぐらいのバイタリティがあれば、ジラももう少し楽しい人生が送れたんじゃない?」

「まったくです。お世辞抜きで尊敬してます」

「でも、ジラや、透子さんみたいに不器用な人も私は好きよ」

「俺はともかく、委員長も不器用ですか」

「ジラ、一日、デートして、何、話してたの。あなたもほんと信じられないくらい不器用ね。友部家はすごく厳しいみたいよ。あの人、スマホ、持ってないのよ。ガラケーよ。高校一年生にもなって信じられる? ゲーム機も持ってないし、部活も許されなかったみたい。それで、毎日、みんなに笑顔で接しているんだもの。不器用すぎるでしょ。ジラとの賭けだって、いくらでも言い逃れできたのに、ジラとの約束も守って、たっぷりデートにつきあったしね」

 なるほど、友部は不器用だったんだ、と俺は思う。だが考えてみるとその不器用さは嫌いじゃないなと思う。三流グループに手厳しい不器用さは直してほしいものだが……

「とりあえず、上出来よ。妹さんのおかげで、接点が広がったわ」

 おほめいただいてありがとうございます。

 ところが、次の接点は意外な方向から来た。友部が「親が会いたいと言っている」と言うのだ。


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