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29食目 祝い奮発茶の力


「楽しみにしているといい。期待は裏切らないぞ」


「わ、わかりました。では後で伺います」



 とある日の終業後。一足先に帰ろうとする後輩に向け、俺はさり気なくそう告げた。

 振り返った後輩は、ほんのちょっとだけキョトンとするも、すぐさま微笑み会釈する。

 そして至って自然な様子で、帰宅の途に就いていった。


 俺はそんな彼女の姿が見えなくなる前に、素知らぬふりをして自身のデスクに向かう。

 そこで僅かに残った仕事を片付けると、何故か帰宅もせずのんびりと夕刊を眺めている上司に挨拶をし、足早に会社を出るのであった。



 疲労とともに解放感に満たされ、どことなく浮足立つ仕事終わり。

 ただ真っ直ぐ家に帰るのかと言えばそうではない。最寄りのバス乗り場へ向かう途中に少しばかり寄り道をし、普段使っている家の近所のとは別のスーパーへ。

 そこでしばし頭を悩ませて買い物を済ませると、急ぎ足でバスに乗り込み我が家へ。


 普段であれば、決してこのようなことをしたりはしない。

 だが今日はとある目的を果たすべく、仕事を終えて早々にこうして特別な準備へ奔走しているのだ。



「帰ったぞこの野郎。準備は出来てるか?」


「わたしもさっき帰ったばかりだよこの野郎。まだこれからだって」



 そうしてバスに揺られている時間以外、ずっと早足となって帰宅。

 俺はすぐさまリビングへ踏み込むと、先に帰宅していた妹に対し、予定していた準備の進行状況を問うた。


 妹はタオルを首に巻き、顔に浮かんだ汗を拭き化粧を崩している。

 どうやら言葉通り、ついさっき帰宅したようだ。



 後輩が書く小説が人の注目を集め、遂には出版社の目に留まり、……結局は誘いを断ってから数日。

 この日俺と妹は、一定の成果を上げた後輩を祝うべく、少しばかり豪勢な食事をしようと約束した。

 もっとも当人としては、結局断っているため最初は遠慮していた。それでも趣味を同じくする近しい人が、こうして評価されたというのはめでたいこと。

 そのため俺と妹は、気恥ずかしそうにする後輩の労を無理にでもねぎらうことにしたという訳だ。



「なら早く済ませちまおう。ケーキは買って帰ったのか?」


「バッチリ。料理はこれから兄貴が作るとして、……そういえば当人はどうしたのよ?」


「一旦家に帰ってから来るように言っておいた。どうせ今日はまたお前の部屋に泊まるんだろ、毎度毎度お前の服を使わせるってのもな」



 彼女が家に来る場合、特に翌日が休日であった場合などは、そのまま家に泊まるというのがほとんど。

 夜中遅くまで妹と趣味の話題に花を咲かせているらしく、壁越しに楽しそうな声が漏れ聞こえてくるのだ。

 それは別にいい。むしろ歓迎すべき状況だ。

 とはいえ毎回寝間着として妹の服を使ってもらうのは、少々心苦しいところがないでもなかった。



「別にあの子は気にしてないと思うけど」


「気にしろ。ていうか俺が気になる。明らかにサイズが合ってないからな、夜中に廊下で出くわした時なんて目の毒だ」


「ちょ、それはどういう……」



 もっともちゃんと当人に寝間着を用意してもらいたいのには相応の理由が。

 妹と後輩、この両者は身長に関してはそこまで変わるものではない。ただ後輩の方がより女性的なラインというか、色々と起伏に富んでいた。

 つまりどちらかと言えば大平原な妹の服を着た後輩というのは、少々と言わず目のやり場に困る。つまり平野部を覆う森の中に、突然火山が出現したような状況だ。


 言わんとすることを理解したのか、食ってかかろうとする妹。

 ヤツの言葉が牙を剥く前に、俺は手にした買い物袋を持ってそそくさと台所へ逃げ込んだ。


 てっきり追いかけてくるかと思いきや、妹は妹で準備が忙しいらしい。

 意外にもせっせとテーブルを拭いたりと、掃除をし準備を進めているようだった。



「あっちは大丈夫だな。……問題はこっちか」



 妹の様子を確認した後、手にした買い物袋を置く。

 急ぎ米を研いで炊飯器にセットしスイッチを入れてから、俺は改めて買ってきた品に手を伸ばした。



「我ながら奮発したもんだな。節約の真っ最中だってのに」



 取り出したのは真空パックをされている、ウナギを捌いた物。

 産地によって値段の差が大きいこいつだが、今回買ってきたのは国産。それも比較的デカいやつ。言うまでもなく贅沢な食材だ。


 今回祝いをするにあたって、それとなく後輩に希望を聞いてみたところ、魚介の類が食べたいという答えが返ってきた。

 一瞬刺身の盛り合わせでもと考えたのだが、この時間からとなると鮮度の良い物が売っていない可能性がそこそこ高い。

 そこで浮かんだのが、贅沢な気分を味わえてかつ最近では真空パックでも売っているコイツ。

 若干魚介というジャンルからは別の扱いをされている気もするが、魚であるのに変わりはないだろう。


 犬を飼うという目的のため、極力安価な食材を使っていた今日この頃。

 本来なら今夜もその予定だったのだが、こういった祝いの時くらいは奮発してやってもいいはずだ。

 一人につき一枚。そして鰻巻きとするべくもう一枚。ちょっとした祝いとしては十分だろう。



「兄貴、もう少ししたら来るってさ」


「ほいほい。そんじゃ、こっちも作り始めるとしようかね」



 食材を前に意気込む俺の背後へと、台所へ顔を出した妹がぞんざいな声をかける。

 どうやらあとちょっとで後輩が家に来ると連絡があったようで、俺は早速冷蔵庫から卵を取り出し、鰻巻きを作る準備を始めた。


 妹の方はと言えば、後輩への祝いとして酒を用意したらしい。それも後輩の故郷で造っている日本酒の、少しばかり上等な物を。

 事前にそれを聞いていたからこそ、今回鰻という選択をしたとも言える。

 それにしても俺からはうなぎ、妹は酒。贈り物としては少々張り込んだ内容で、それだけ俺たちがこの数か月で、かなり親しくなったことの表れであった。


 ただ棚から酒器を取り出し酒の準備を始めようとした妹は、俺の手元を見て目を見開く。

 どうやら俺が贅沢にも鰻を買ってきたことに驚いたのだと思ったが、ちょっとばかりの沈黙を経て、どことなくゲンナリした声を出しやがる。



「鰻かぁ……」


「なんだ、お前まさか嫌いだっけか?」


「いや、鰻そのものは好きよ。好きなんだけど……」



 真空のパックを切り、中身を取り出してバットに置く。

 しかしそんな光景を後ろから覗き込む妹の声は、どことなく乗り気ではない気配が漂っていた。


 もうかなり前ではあるが、家族でたまの贅沢として鰻を食べに行った時には、うな重に肝吸いと鰻巻き、さらに肝焼きまで美味そうに食っていたはず。

 なので鰻が嫌いという訳ではないはずだと考えていると、案の定妹からはそれを肯定する言葉が。

 ならばいったいどうしてと思いながら卵を溶いていると、俺自身も同意の出来る理由が帰ってくるのだった。



「ほら、家で食べる鰻ってさ、皮がちょっと」


「ああ、そういうことか」


「お店で食べるのはものすごく好き。でも家で作ると、ゴムみたいな皮がどうしてもね」



 気持ちとしては理解できなくはない。店で食べれば、炭の香りと共に皮目の脂がほどよく落ち、そのまま柔らかく食べられる。

 一方で買ってきた物を家で調理すると、皮目のコラーゲン質がガッチリと固まってしまい、妹が言うようにゴムと見紛うばかりの食感になりがち。

 なのでついつい家でやった時には、皮だけを残して身だけを食べたという覚えがある。


 最近売っている物はそこまで皮が固いという事はない気がするが、やはりかつての苦手意識が前面に出てくるらしい。

 案外後輩も同じである可能性があるため、ここをどうにかする必要は確かにありそうだ。



「ならこいつをなんとかしないとな。よし、では頼みがあるのだが我が妹よ」


「なにかね我が兄貴よ。面倒臭くないことであれば、快く引き受けてやろう」



 困りものな皮の固さだが、一応こいつには解決策というのがある。

 そこで妹にとある物の準備を任せようとしたところ、ヤツは俺のおどけた口調を真似しつつも、面倒な作業であれば御免だと釘を刺す。


 なんとも憎たらしいものだが、今から任せるのはそこまで難しくはない。

 というかこれが出来なかったとすれば、両親に電話をして色々と相談しなければならないところだ。

 俺はそんなことを考えながら、妹に「茶を淹れろ」と告げるのだった。



「緑茶を湯呑に一杯分。目一杯濃くな」


「そのくらいならいいけど……。飲むの?」


「飲むつもりなら普通に自分で淹れるっての。こいつに使うんだよ」



 俺はそう言って、怪訝そうにする妹へ示すように、鰻をビシリと指さした。

 ただよくわからないといった様子で、小首を傾げる我が妹。

 けれどとりあえず棚から茶葉と急須を取り出すと、電気ポットに入った湯を使い、しっかりと濃い茶を淹れ始めていた。


 不可解そうな妹は、相当に濃いそうな茶を淹れ終えると、湯呑に移し差し出してくる。

 そいつを受け取った俺は、いかにも渋そうな色味な湯呑みの中身を見るなり、迷うことなくフライパンに流し込んだ。



「……なにがしたいのよ、いったい」


「いいから見てろ。こいつを使って鰻をだな」



 折角淹れた茶が意味不明な使い方をされたせいで、ジトリとした視線を向けてくる妹。

 だが俺は妹の視線を気にすることもなくフライパンに火を点けると、沸騰した緑茶へ鰻の皮目を下にし入れた。

 僅かに皮の部分が浸る程度の水量。そこでゆっくりと鰻を温めていく。



「緑茶のカテキンが、皮のコラーゲンを溶かしてくれるらしい」


「どこで知ったんだか、そんなこと」


「かなり昔にテレビでやってた。試してみるのは初めてだが」



 既に工場だかで一度焼かれている鰻であるため、ただ温めるだけで十分。

 あえてその手段として緑茶を使ったのは妹に説明した通り。もっとも俺もこうしてやってみた経験がないため、半ば賭けに近いのだけれど。



「いいからお前は準備に戻れって」


「なによ、折角手伝ってあげたのにー」


「わかったわかった。助かったよ。お前の分は少しだけ鰻を増やしてやるから機嫌を治せ」



 あちらはまだ準備が途中であろう妹へ、戻って作業を続けるよう告げる。

 しかしその扱いが不満であったのか、口をとがらせる妹へと、俺は妥協点として鰻の増量を約束。

 すると一気に目元を緩ませ、「やりぃ」と愉快そうな声を漏らし、意気揚々リビングへと戻っていった。


 妹が台所から去ったのを見送った俺は、そろそろ来る頃合いであろうかと、温めた鰻の一部へとタレを塗る。

 そして卵焼き用のフライパンへ卵を流し込むと、タレを塗った鰻をソッと置き、そいつを芯にして卵を巻いていった。

 実のところ家で鰻巻きを作るのは初めてだが、ある程度形を保った物があるだけに、むしろ楽であるかもしれない。

 もし仮に身が崩れたとしても、卵で隠せるわけでもあるし。


 さて、では次に本命に取り掛かろうかと思ったところで、丁度玄関からチャイムが聞こえてくる。

 どうやらタイミングは完璧。良い頃合いで後輩が来てくれたようだ。



「先輩、お邪魔します。あたしは何をすればいいです?」


「流石に今日は伝わせる気はないぞ。とりあえず座って待っていてくれ、もうちょっとしたら用意が済むから」



 家に入ってきた後輩は、真っ先に台所へ顔を出す。

 彼女はすぐさま手伝うべく袖を捲ろうとするのだが、今回の彼女はお客様。流石に手伝わせるのは気が引けた。


 恐縮する彼女がリビングへ行くのを見送ると、フライパンの中で温めていた鰻を取り出し耐熱皿の上へ。

 こちらもタレを塗ってから、以前に後輩からもらったバーナーを使い表面を炙っていく。

 焦げ目の色と共に立ち昇る強い香り。店の前などを通ると感じる、この何とも言えぬ食欲をそそる香りに、ついつい腹が鳴ってしまいそうになる。


 良い具合になった鰻に満足し、棚から丼を取り出して米を盛る。

 出来ることならば、お重に盛りたいところではある。だがこればかりは家にないため仕方ない。

 それに惜しむらくことに、肝心な肝吸いが無い。

 ただこいつもまた家では難しいため、妥協としてマツタケ風味なインスタントの吸い物で我慢してもらうとしよう。


 それらを一通り用意すると、盆に乗せてリビングへ。

 既に酒や箸など準備万端となっているテーブルにそいつを置くと、後輩は鰻の姿に感嘆の声を上げる。

 しかし後輩とはうって変わって、妹の方は眉間に皺を寄せ、俺を向いて不満気な声を出すのだった。



「兄貴、異議を申し立てる」


「なんだ偉そうに。俺の作った鰻丼に文句をつけるなど、よほどの覚悟が合ってのものだろうな?」



 鰻を指さす妹は、明確にこれには問題があると言い放つ。

 俺が身銭を切り、渾身の意気込みで作った料理。それに不満があると。

 そしてヤツは堂々と、致命的に足りていないその名を口にするのだった。



「山椒が無い」


「…………俺が悪かった」



 確かに。鰻と言えば白焼きにはワサビ、そして蒲焼には山椒が欠かせない。

 見た目には映え、香り良く食欲をそそる山椒。こいつが無ければ怒られるのも当然と言える。


 ただ俺は直後にポケットに手を突っ込むと、中から小さなプラスチック製の容器を取り出す。



「って冗談だよ。ちゃんと買ってあるから、自分で好きなだけかけてくれ」



 一瞬だけ乗ってはみたが、もちろんこいつを忘れちゃいない。陳列棚で鰻のすぐそばに置いてあったため、ちゃんと忘れず用意した。

 俺はまず自身の丼へと、若干大目とも思える量の山椒を振りかける。

 山椒の容器を後輩に、そして妹にと回していると、鰻の持つ熱によって温まってきたためか、フワリと立ち昇る山椒の良い香り。

 ああ、もう辛抱が出来ない。



「とりあえず食べ始める前に一言」



 一通り準備が整ったところで、俺はそう前置きし後輩に向き直る。

 そこで今回は断りこそしたものの、彼女が書いた作品が評価されたことを祝す言葉を発する。

 しかしたった十数秒のそれすら妹には長かったようで、素直に聞こうとしてくれる後輩の横で箸を手に待機していた。



「お前ってヤツは……。まあいい、冷めない内に食うとするか」



 今にも飛びつきそうな妹の姿に呆れを隠さず、俺は話を切り上げると手を合わせる。

 すると後輩もまた辛抱堪らなかったのか、目を輝かせて手を合わせると、一目散に箸を持ち丼へと手を伸ばしていた。

 なるほど、彼女もまた鰻には抗えなかったと見える。


 そんな2人の様子に苦笑しながら、俺もまた苛む空腹感によって丼へ。

 箸を刺し入れると、柔らかな身の部分をアッサリと割り、その向こうにある皮までも箸が通っていく。

 ともすればゴムのようになりがちな皮も、上手く柔らかに仕上がってくれているようだが、肝心なのは味だ。


 割った鰻と少なめの米と一緒に頬張る。するとふわりとした食感の身とタレの甘辛く芳ばしい香り。それに脂の甘みが直撃してくる。



「……ああ、ケチらなくて良かった。やっぱ高い鰻は美味い」


「先輩、感想が直球すぎます。でも本当に、鰻巻きもとても柔らかくて」



 ついつい無意識に、思った事が口を突いてしまう。

 柔らかく脂の乗った鰻は、それなりに良い値段がしたものの、口に入れれば後悔がまるで残らない。

 すぐに突っ込みを入れてきた後輩が言うように、少々直球に過ぎたかもしれないが、ウソ偽らざる本音だ。


 それに彼女もまた、一応同意はしてくれるらしい。

 鰻丼に続いて手を伸ばした鰻巻きを、美味しそうに頬張っていた。



「本当に、すごく柔らかいです」



 初めて試した方法だったが、上手く皮の固さが取れている。

 もっともここ最近の市販されている鰻は、皮の固さをなんとかするべく色々と試行錯誤しているそうなので、そこが主な理由かもしれないが。


 丁寧に黙々と食べる後輩、丼を持って男らしく掻き込む妹、そして茶を飲みまったりする俺。

 合間合間に口休めとして漬物を食べ、汁をすすって一息つく。

 そして再度鰻。次いで口に流し込むのは、妹が買ってきたちょっと良い酒。……実に堪らない。


 普段は安価な食材を工夫して作ることが多いが、たまにはこういう贅沢も悪くはない。もちろん普段のも、あれはあれで楽しいのだけれど。

 対面に座る後輩もまた、たまの贅沢に表情が綻んでいる。

 なので悪戯心を起こしそれとなく指摘してみると、彼女は少しだけ照れた様子を見せた。



「というよりも、鰻を食べること自体がもう何年ぶりかで」


「そいつは良かった。こうして準備した甲斐があったってもんだ」



 後輩はそう言って、再度丁寧に頭を下げる。

 どうやら自身がここまで祝われるとは思っていなかったらしく、こうして妹と一緒にご馳走を用意したことを、いたく喜んでいるようだった。



「むしろこっちこそ礼を言いたいくらいなんだがな」



 俺は鰻もほどほどに、グラス製のおちょこへ冷酒を注ぐ。

 二人分入れた片方を後輩に渡し、礼を言うべきは自身の方であると告げる。



「先輩があたしに……、ですか?」


「毎度コイツの相手をしてくれるだけで、俺としちゃ十分に礼をする理由があるってもんさ」


「そのくらいでしたら喜んで。楽しんでやっていますから」



 小声で俺は、妹の相手をしてくれることの感謝を告げる。

 別段社交的ではないとまでは言わないが、基本的にインドア趣味で休日には家から出ない妹だ。

 ネットゲーム上での友人は居るようだが、正直それだけだと心配になるというのが兄貴としての本音。


 なので実のところ俺は、知り合って以降は度々顔を出してくれるこの後輩に対し、ひとかどのどころか相当な感謝をしている。

 それに創作を続けるという点でも、同好の士である彼女の存在は、強いモチベーションとなってくれていた。

 そういった点も含め、むしろ感謝してもしきれないほどであり、ある種頭が上がらないとすら思えるほど。


 なので密かにそのことを気にはしていたのだが、後輩曰くむしろ妹の相手をするのは好ましいとのこと。

 毎度妹の部屋で楽しそうにやり取りをしているのが聞こえてくるため、おそらく彼女の言葉に嘘偽りはないのだと思う。

 むしろそういう点も含め、ありがたいと思っているのだが。



「助かるよ。これからまだまだ世話になりそうだ」


「先輩の頼みであればなんなりと。妹さんの件以外でも構いませんよ?」


「コイツ以外でか? ……ああ、そういえば」



 彼女はそう言って、いまだ鰻巻きと日本酒に集中する妹に聞こえぬよう、小さく囁きウインクをする。

 そう言ってくれるのであれば、少々お言葉に甘えさせてもらうとしよう。

 俺は身を乗り出してソッと彼女に近寄ると、実はかねてより聞いてみたかった件を、今が絶好の機会とばかりに問うのだった。



「読者の反応の読み方なんだが……」


「兄貴、プライドはどこにいった」



 すると俺たちの話をいつの間にやら聞いていた、妹がジトリとした視線を寄越す。

 俺はそんな妹の視線に若干気まずさを覚えながらも、苦笑をする後輩に、恥を忍んでアドバイスを求めるのであった。


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