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07

 アレクはよく自動人形に話しかけている。

 いくらよくできているとはいえやはり魔力で動く人形でしかないのに、まるで会話をしているようイザングランには見えた。

 特によく話しかけている人形にはかってに名前をつけて呼んでいた。

 少女型の自動人形で、それぞれ青ばら、赤ばら、白ばら、と呼ばれていた。

 見た目には差異などないように見える。造形も服装もまるきり同じだ。

 なのに、アレクにはどうにも見分けがついているようだった。

 イザングランはそれが悔しい。


 アレクにできるのなら自分にだってできるはずだ。


 だからイザングランは自動人形達を見かけるたび、観察するようになった。

 ある日は髪を見比べた。

 艶やかな長い髪はどの人形も見事の一言で、違いはわからなかった。

 ある日は顔を見比べた。

 陶器のようにつるりとした肌には傷ひとつ見られない。おそらく自動修復の術式が組み込まれているのだろう。

 ある日は服を見比べた。

 レースやフリルのついた服を着て掃除などやりにくくはないのだろうか。

 何日も様々な箇所を見比べたが、やはり違っているところなど見つからない。一卵性の双子だってもう少し見分けやすいだろう。

 けれど、きっとどこかに違いがあるはずだ、とイザングランは観察を続けていた。そんな矢先、人形達は花飾りを身に着けるようになった。

 アレクの呼び名を体現する青、赤、白の布でできたバラの飾りだ。

 そのおかげでイザングランにも易々と見分けがつくようになった。なったが、その花飾りはアレクが作ったものだった。

 夜にちくちくと何を繕っているのかと思えば、自動人形達の花飾りを作っていたのだ。

 なぜ急に花飾りを作って贈ったのかと聞けば、わずかに口の端をひくつかせ、


「青ばらさん達がイジーに会うたび熱心に見つめられて恥ずかしくて仕事にならないからどうにかして欲しい、って頼まれてさあ」


 と答えた。

 少しずつ肩の震えが大きくなる。


「なんでそんな熱心に見てんのかなーって思ってたらさあ」


 そこで思わず、という風にアレクが吹き出す。


「イジーさあ、青ばらさんたちを見分けようとしてただろ」


 図星を突かれ、イザングランは黙り込んだ。ややあって、


「そんな事はない」


 反論してはみるものの、アレクの笑いは収まらない。

 眉間に皺をよせ、わかりやすく機嫌を硬化させたイザングランの頭をアレクは宥めるよう軽く叩いた。


「だから見分けやすいようにプレゼントした。あれなら熱心に見なくてもわかるだろ?」

「……なんで青ばら、赤ばら、白ばらと呼んでるんだ?」


 見分けられるようになったのはいいが、自分の力でやりとげてみたかったイザングランの心中は複雑だった。それをごまかすための質問だったのだが、半分くらいは純粋に疑問だった。

 始めから花飾りがついていたのならそう呼ぶようになるのもわかるが、そうではない。順序が逆だ。

 それともてきとうに名前をつけて呼んでいただけだったのだろうか。


「ああ、三人ともそれぞれいっとう好きな花が青ばら、赤ばら、白ばらなんだよ」


 よく世話をしてるだろ? とアレクは事も無げにそう答えた。自動人形達の好きな花の名前で呼んだのだと、アレクはそう言う。

 ただの人形に好みがある訳ない、とイザングランは思ったが、アレクがそういうのならあるのだろう、とすんなりと受け入れた。

 アレクなら動物と話せても驚かない。……どうりで猫を侍らせられると思った。


「それで、アレクはどうやってあの三体を見分けてるんだ。見た目に違いなどなかったぞ」

「そうだな。三人ともそっくりだよな」

「そっくりというか、作りが同じなんじゃないか」

「へえー」

「アレク。

 ……別に言いたくないなら、言わなくていい」

「そういう訳じゃねえからすねんなって。別に見分けてねえよ? 匂いが違うだけだって。三人ともそれぞれが好きなばらの匂いがするから、それで」

「……そこまで違うか? 嗅ぎ分けができるとか、おまえの嗅覚は犬並みだな」

「よく言われる。さすがに犬には負けるぞ?」

「勝負したことでもあるのか……?」

「いやねえけども」

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