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 魔獣に吹き飛ばされたアレクは大木にその体を打ち付け、ずるりと地面に倒れ伏す。わずかに手指が動いたのを見て、イザングランは安堵しかけた。

 だが、イザングランは痛みに呻くアレクの声を聞いた。そのアレクに追い打ちをかけようと魔獣が角をアレクに向けた。とたん、イザングランの視界が真っ赤に染まる。

 先ほどまで感じていた焦りも恐怖も霧散して、代わりに腹が焼け爛れんばかりの怒りが体中に満ち、溢れた。

 溢れた怒りは口から呪文となって魔術を編み上げていく。

 身体中に張り巡らされた魔術回路が肌を焼いた。魔術回路に負荷をかけて奔る魔力に魔術回路も悲鳴をあげている。口内に鉄の味がした。魔術回路から弾けた魔力が皮膚を裂いて血が吹き出す。痛みで全身を刺されたようだった。だが、今のイザングランはそれらを知覚しない。

 動かなくなったアレクを脅威ではない、と判断した魔獣が膨れ上がる魔力に反応して、イザングランに向き直った。そしてすぐに頭を下げた臨戦態勢を取って、跳躍する。

 力を溜めて地面を蹴った魔獣の動きが妙にゆったりとして見えて、けれどそれに違和感を覚えずイザングランはしっかりと魔獣に照準を合わせる。

 今のイザングランが放てる最強の魔術を、魔力が暴走して自らの体を傷つけているのにも構わず放った。


虚の暗闇(ダークホロウ)


 イザングランに飛びかかっていた魔獣に暗闇がまとわりつき、魔獣は動きをぴたりと止める。その暗闇が複数回明滅して、消えたあとには体のあちこちに穴が開いた魔獣が立ち尽くし、隻眼でイザングラを睨みつけていたが、覚束ない足取りで一歩、二歩とイザングランに近付き、恨みがましいひと声を残して頭から地面へ倒れ込んだ。

 わずかに痙攣して血溜まりに沈み、事切れつつある魔獣にイザングランの意識はすでにない。大木に寄りかかったまま動かないアレクを一心に見つめていた。

 吹き出した血が眼に入るのにも構わず、魔術回路を酷使し過ぎた反動の痛みも無視して、アレクの無事を確かめようと、足を動かす。

 一歩、また一歩とアレクに近付くたびにイザングランの体は痛みを思い出すようで、なかなか思う様には進めない。

 視界が風に吹かれた水面のように揺れて滲むのが不思議で、瞬きをくり返したが、そのうちに暗闇しか見えなくなった。前に進もうと動かす手足に当たる草木や土の間隔に困惑した。

 地面に倒れ込んだイザングランの眼が、閉じたままになったのだと思い至ったのは意識が閉じるその瞬間だった。

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