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魔術学園寮で同室になったやつがおかしすぎる。  作者: 結城暁


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 アレクはうん、と大きく伸びをした。長い間しゃがんで作業をしていたものだから足が痛む。しかしその痛みもすぐに消えた。体の丈夫さだけには自信がある。

 冬の気配は遠退き、春の陽気というには汗ばむ季節になっていた。もうすぐ夏休みだ。それが終わればアレクは二回生になる。

 誰も彼もが進級できる訳ではないコールズ学園だけれど、教員からこのままならば無事進級できるぞ、と言ってもらえたアレクは、だからアルバイトに精を出していた。

 今日は草むしりのバイトだ。時々見つかる薬草などの素材は採集許可をもらっているのでアレクはけっこう気に入っている。いい小遣い稼ぎになるのだ。一人で黙々とする作業も苦ではない。無心になれるのは好きだった。

 いつもなら読書をしながらアレクの作業風景に溶け込むイザングランと休憩をするのだが、今日はマデレイネとミゲルに付き合って図書館で勉強会をしているため一人での休憩だ。

 マデレイネとミゲルは来季から選択授業を増やすのでそのために追い込みをしていた。二人に教えるイザングランをアレクも手伝おうとしたが、自分一人で十分だから自分のために時間を使え、と図書館から閉め出された。

 閉め出されたというのは語弊があるかもしれない。イザングランはアレクのためを思って二人の教師役を買って出てくれたのだから。仲間外れにされたみたいでちょっとだけ寂しい思いをしたのは内緒だ。


「少しくらい手伝わせてくれてもなあ」


 ため息と共に独りごちて、アレクは茶を飲んだ。

 普段飲んでいるより甘めのそれは甘党なイザングランでも飲み易いようにアレクがブレンドしたものだ。いつも一緒にいるものだから今日もついつい甘めのものを淹れてきてしまったのだ。習慣になっちまったなあ、と再び独り言をこぼした。

 アレクはどちらかといえば辛党で甘いものは好んで食べるという訳ではないのだけれど、イザングランに付き合って甘味を食べる機会が増えているせいか最近では茶菓子に甘いものを選ぶこともしばしばだ。逆にイザングランは甘くないものに挑戦しては眉間にシワをよせている。

 眉根をよせて渋い顔をしたイザングランを思い出し笑いしたアレクはおやつを口に放り込んだ。やはり甘い茶菓子を用意してしまっていて、アレクはなんとも言えない気持ちで咀嚼する。口の中が甘くなってしまった。

 苦味のある草をちぎって口に含む。本当は洗った方がいいのだが、大丈夫だろう。たぶん。胃腸の強さは自慢だ。

 口内をすっきりさせたアレクは立ち上がった。草むしりのあとは食堂の手伝いが入っている。共通メニューの仕込みが済んでしまえば好きなものを作っていいのでやはり気に入っている仕事だ。

 がっつり肉でも食おうかな、と肉料理を脳内に思い浮かべる。イザングランは肉の塊より、と後ろを振り返った。


「イジーはハンバーグのが好……」


 もちろん振り返った先には誰もいない。タイミングがいいのか悪いのかひゅう、と風が吹いて草むらとアレクの髪を揺らした。


「…………」


 まあいっつも一緒にいたもんな、と一人で納得してアレクは草むしりを再開させた。誰に見られたわけでもないのに羞恥と、なぜだか悔しさとが湧いてくる。

 その場にいないイジーに声をかけてしまうのは実はこれが初めてでもないので、深く長く吐いたため息には呆れも多分に含まれていた。

 イザングランはアレクにくっつきすぎ、アレク離れができない、とマデレイネとミゲルにからかわれている時があるが、自分も大概だった、と顔の熱を振り払うようにスギナを根ごと引き抜いた。

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