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愛悠奮闘記  作者: 蛮族
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昔のお話 最初

あいとゆうが住んでいる神社の裏に生茂る森は日が昇っていようとも夜が味わえるほど暗く静かである。

その森には人と関わりある事を苦手とする者、共存する事を拒んだ者、行くところがなく自然と生きていく為に住みつくモノなど多種多様な種族が存在する。

昔のある争いを除いて森はずっと平和であった。


数年前の出来事であるが、それはほんの少しの小さな火であった。感情を持つ者なら恐らく誰でも抱く小さな小さな憎しみという名の火。その火が近くのもう1つの火と重なり少しずつ大きり、森を包むほど大きな炎となっていった。炎はやがて森の外へと行き山の下にある街へと進んでいった。魔物の群れが人々を切り裂き、砕き、潰し、人の軍勢が魔物を斬り、罠に嵌め、葬った。争いは長引きどちらかの勢力が滅びるまで終わらない。そう誰もが覚悟した。それで構わないと。

しかし、予想は善い方向で裏切られる。まさにお互いが最後の特攻を行おうとした時、空が光り、1人の少女が降りてきた。巫女装飾を来た黒髪の少女は言った。

「私は神の使いだ。この世界は滅んではいけない。この争いを止めに来た。」

魔物達も人々も皆信じられずにいた。あと数歩互いに近づけばこの争いは終わる。止めるも何もない。皆そう思った。

しかし、1匹の魔物と1人の人間が気づいた。(なぜ我々は皆少女の話が聞こえているのだ)と、幸いにも気付いた1匹と1人は両勢力のリーダーであった。両雄獲物を掲げ進軍を止める。

人間が問う

「なぜ今更干渉する。もう終わる争いだ。役目などない。」

魔物が吠える

「そうだ!遅すぎる!干渉するのであれば幾らでも機会があっただろう!」

少女は2人の間へと降りゆっくりと語り始めた。

「神は干渉するつもりはありませんでした。争いとは犠牲が出る。」

少女の話を遮り魔物が再び吠える。

「そうだ!我々は本来いた住処を人に追いやられ森で過ごしていた!生きていく以上資源を巡り占領するのは致し方なしと甘んじて受け入れたのだ。」

魔物が事の発端を説明する。

「だがどうだ!人は我々を山へ森へと追いやり更に森さえ我がものにせんと資源を取っている!」

魔物の話を聞き人は言う。

「ならお前達は違うと言うのか?牧場の家畜を襲い。我々の食料を奪っていただろう。」

冷静にしかし内に怒りを秘めた言葉であった。

「何が牧場だ!勝手に土地に家を建て誰の物でもない動物達を自らの物のように言ってぃむぐっ…」

魔物が言い終わる前に少女が魔物の口を押さえた。

そして、2人の目を見て、ふうとため息をつく

「静かにしなさいよ!耳元で騒がれたんじゃたまったものじゃないわ!」と2人より大きな声で叫んだ。

2人は先程までの少女の印象からは出てこないであろう口調に思考が困惑した。

その2人に再びため息をつきながら少女は話す。

「2人が言いたい事はわかるわ。ギマ…あー神様から話は聞いているの。とりあえず私の話を聞いてもらっていいかしら?」

使者と言うにはあまりにも砕けた話し振りにまだ思考が追いつかない2人。

少女の「いいの?駄目なの?」と2度めの確認で頷く程度の思考が回復した。

2人に確認を取った少女はすっと最初に現れた時の表情に戻る。

「神様はね、2つの意見が出た時、必ず2つの意見同士をぶつけて自分達で解決させているの。今回ここまで干渉がなかったのはそういうこと。」

「なら…」

と人が言おうとしたが魔物が止めた。

「人よ。今は黙して聞こう。」

魔物がそう言い人は何故お前に指図されねばならぬと思ったが言葉にはしなかった。

「…でもね今回はそうはいかなくなったの。このまま争いが最後までいけば世界が滅んでしまうのよ。」

少女が言った言葉を2人は信じられずにいた。

世界が滅ぶ?そう言ったのか?

「滅ぶだと!」「幾千年続いてきたこの世界がか!?」

2人は聞かずにいられなかった。

ありえない、広い世界のほんの一部の争いだ。それで世界が滅びるだと?

2人の戸惑いは少女にも伝わった。

少女は話す。

「そう、ほんの世界の一部のよくある争いでしかないの。でもね貴方達は嫌な時期に争い始めてしまったの」

「時期だと!?」

「ええ、今はね大地の創造神の生まれ変わりが誕生する期間なの」

「大地の創造神?」

「そうよ、この世界で人や魔物、植物や動物が生きていく上で欠かせないこの大地を作れる者」

新たな情報に人も魔物も更に混乱していく。

「丁度貴方達が始めたの争いの最後の猛攻。その戦っているこの戦場。私が今立っているここにその子が生まれるの。」

「生まれるだと?」「今からか?」

「だからここで争いが起こってしまうとその子が生まれた時に巻き込まれて死んじゃう可能性があるのよね。」

意味がわからない。生まれる?この戦場には女はいない。目の前の少女を除けばだが、それに何もないこのだだっ広い荒野で生命が生まれるだと?

2人が思考を巡らせていると。大地から先程見た光が浮かび上がってきた。

「こ、これは…」

光は少しずつ強くなり地面から抜け、少女の前まで浮かび止まる。

少女が光に両手を優しく入れる。

すると光が小さくなっていく。

眩しさに目を細めていた2人は光が消えたのを確認する。

そして、2人は少女の手に小さい赤ちゃんが抱き抱えられているのを見た。

「この子がそうなの。大地の創造神の生まれ変わり。ね?本当だったでしょ?」

少女が2人に言う

「これで私の神様からの命は終わり。だからここからは私個人の話よ」

話?この子は神の使いで役目を終えた。何をしようというのだ。

息を呑み少女が話すのを待つ2人。

少女は2人の顔を見てニコッと笑い言った。

「この争いはここまでよ」

終戦宣言であった。

「ふ、ふ、ふざけるな。貴方が神の使いである事もその手の子が創造神の生まれ変わりと言うのも信じよう。しかし、役目はもう終わったのであろう。ならば邪魔立てしてくれるな。」

「そうだ。気持ちは有り難いがそれは無理だ。生きている限りまた同じ争いは続く。神の言う通り自分達で解決する。」

魔物と人が言う

一度止めが入ったとはいえ争いの真っ只中である

「貴方の気持ちはわかる。神の使いなのだ。慈悲の心で被害が大きくなる前に止めたいのであろう。」

「我々を魔物は共存など無理だ。これ以上無抵抗で住処を荒らされるのは御免被る」

「それは人々とて同じ。だからこそ根絶やしにせねばならぬ」

収まりつつあった負の感情が再び蘇る。

そうだ。許してはならぬ。滅さなければいけない。

2人の感情を理解した少女は言った。

「わかったわ、でも争いは終わり。ここで終わるのよ。」

「何が終わる!どう終わらせる!分かり合えぬ種族なぞ今どのような形で終われど滅びぬ限り再び争いは起こる!なら、もう子が苦しまぬよう!争いになどいかぬように!今!確実に!終わらせねばならぬ!」

紳士に対応していた人が我慢ならぬと吠えた。心から出た平和への渇望であったのだろう。

「駄目よ。確かに私に決める権利はない。だから話だけ聞いてほしいの。」

人は答えない。

魔物は静かに待つ。

沈黙があった。ほんの数秒であっただろう。しかし、3人は何十分にも感じた。

「何を提案する」

人が驚き声の主へと顔を向ける。

沈黙を破ったのは魔物であった。

「貴様何を…」

「人よ、私は待つ。今は止まっているが少女が帰れば争いは始まる。そうなればこの距離だ。お互いの首でも跳ねて終わりにもできよう。ならば待とうではないか。」

魔物はそう言い黙り込んだ。

人は困惑した。

待つだと?何を待つと言うのだ。

人は迷った。しかし憎い魔物が待つと言うのだ。なら今この瞬間、少女が帰るまでは待とう。そう思った

「わかった。聞こう、話を」

2人は少女が神の使いであるという事を踏まえて待つと言う選択をとった。

2人の決意を聞き少女は話す。平和への道を

「貴方達が争いになるのはお互いの領域に行き来できてしまうから。だからもう区切りましょう。所謂境界線を作るの。そして、その境界線に私がなるわ。」

「境界線だと?」

「はい、もう行き来できぬよう私が管理します。貴方達が争わぬように。」

「何故そこまでする」

「だって、せっかく生まれたのに土地を作るだけなんてかわいそうでしょ。」

少女はそう言いながら手に乗っている子を子供をあやす母親の様に撫でる。

少女の提案を聞き2人は考えた。

考え、決断した。

「わかった。我々人はそれでいい。これ以上犠牲は出したくない。」

「こちらもそれでいい。」

人と魔物はそう言いお互い睨んだ後、振り返り帰っていった。


荒れ果てた荒野に少女と子が残された。

「はあ…ここまで干渉しちゃったしこの子の世話も私がしなくちゃいけないんだろうなぁ。でもあのまま争っていたら便乗して世界戦争になるってギマが言ってたし。止めるかどうかは任せるなんて言っておいて止めなきゃいけないタイミングで行かせるんだから!もう!」

少女は自分の主である神に悪態をつく。

「それにしても、この子よく寝ていられるわね。なんて悠々自適な子。そうだ。育てるんだから名前が必要よね…うーん。名は体を表すって言うし。名前は「ゆう」にしましょう。」

少女がそう言うと、先程まで寝ていた子が目を開けパチパチと瞬きした後キャッキャと笑い少女へと手を伸ばした。

「あ、名前決めたから起きたの?それとも偶然?まあいいわ、ゆう私の名前はあいって言うの。これからお姉ちゃんが育ててあげますからねー」

少女が子を抱えて山の方へと歩いて行った。


これは少女あいとゆうの出会いと始まりの話である

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