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18話 トン、テン、カン

 ふぅ……。

 一通り魔道具を作り終わったので次は鍛治だな。


 鍛治、といっても一括りにはできない。特にゲームから現実になったこの世界では。

 通常、ゲーム時に主にやっていた鍛治の方法は半分現実、半分ファンタジーなやり方だ。工程に沿って細かいところは省かれ、大まかな『叩く』『曲げる』『伸ばす』といった工程を行い、素材を選んだだけで勝手に削られる鞘や持ち手、関節部位といったところを自分好みに改造して、仕上げて終わりという方法。


 次に完全ファンタジーな方法。これもゲーム時代にあった、所謂コマンド鍛治と言われる方法だ。

 エディット画面で形や色、その他の調整を行い後は自動で作ってくれるものだ。

 魔力を使うしある一定以上の品質は出来ず、武器に付くランクが高いものも作れない。


 最後に、この世界にきて初めて出来るようになった方法。完全手動、現実の鍛治と変わらず、どこも省かれず、その手でやらなければいけない方法だ。

 例えば銃を作る時、いくらリアルなゲームとは言え銃砲身となる部分……あぁ、弾丸が中を通る部分な。その中の螺旋状の部分を作ることは出来なかった。

 物理的にも、システム的にもね。

 でも、この世界ではそれが作れてしまう。

 現に今手持ちの銃を調べてみたら、切れ込みの角度や深さ、回転数による云々がわかってしまうのだ。


 ……昔、銃使いに聞いたんだけど、あのゲームの銃の改造ってミニ四駆の改造と変わらないんだと言ってた。

 既にあるパーツでカスタムを変えたり、少しパーツに手を加えたり。

 そうして自分だけのマシン()を作るんだとか。

 そいつの性には合ってたみたいだけど、その事が嫌で銃をやめた人も多かったとか。



 と、脱線したな。


 これがわかったのは前に鍛治をした時だ。暇で銃を弄ってたらカチャンって言って銃身が逝って──偶然にも真ん中で割れて、中身が見えたからだ。

 ゲーム時に物が壊れると光の粒子として散っていくんだ。断面を見ることは勿論出来ない。


 だが、この世界では残る。

 ……あれ?今なんかオブジェクトマスターとして可能性が広がった気がするが……気のせいか。


 ともかく、こうやって中身を見れるなら、もしかしてと思っていた物が本当にできるようになっていたわけだ。


 ……この流れから銃を作るのかと思われるかもしれないが、今回は作らない。作っても使う奴が居ないからな。


 今回はリアンの短剣だ。絆石を使うから対の物じゃなきゃな。


 決めたデザインは片方だけだから、もう片方は全く同じにするか、別にするかも考えて作らなきゃな。



 まずは決めた方から作るか。


 スタンダードな短剣より、少し幅があるかと言うくらいの厚みの短剣で、刺すことよりも切る、丈夫で長く使えるデザインだ。

 長く使えるって部分は素材が素材、ファンタジー金属だから度外視してもいいんだけどね。

 素材はそうだな、刀身自体はアポイタカラで。持ち手と装飾、あと肝心の絆石をはめる場所は……少し柔らかくてもいいから、銀銅(しろだら)にするか。


 ああ、銀銅っていうのはミスリルと銅……ゲーム内では「ドワーフの銅」となっていた良質で少しの魔力因子の強い……簡単にいうなら、魔力伝導率のいい銅を最高の配分で合わせた合金のことだ。


 色が見る角度や時間によって変わる不思議な金属で、これ単体では使われない。……純ミスリルの方が魔力伝導率が良いからな。

 色は……そうだな『氷の青、明るい黄色、燃える赤、輝く白』って感じだ。


 今回は鍛治スキル等のアシスト無しで作ってみる。刀身からか。

 炉に火を入れ、取り敢えず銅を放り込んでおく。銅や鉄はあらゆる意味で基準になる。今回は融解までだな。


 アポイタカラは、銅が完全に融解する温度になってから初めて入れ、その温度を保つと鍛造出来るようになる。それより上がると直ぐ融解してしまい、それより低い火に当て続けると質が落ちてしまう。

 ファンタジー金属はどれも面倒だけど、こいつはそんなに条件も厳しくないからチャチャッと済ませよう。


 ん、よし、銅が融解したな。

 アポイタカラを入れて火を調整。

 よし、アポイタカラも融解した。




 ……あれ?



 ▼



 思ったよりもアシストがないのは厳しかった。まさか火の温度から勉強することになるとは……。


 よし、大体掴めてきた。最初は戸惑いはしたものの、元々やってたことだからな。これで掴めてなかったら正直自信なくすな。


 再度銅を入れて完全な融解をさせる。そして炉に入れる風を調節して温度を安定させて、アポイタカラを投入。この温度なら……よし、大丈夫。次は鍛造だ。

 鍛造は……まあトンテンカンテンする事だ。形の整形の意味もあるが、叩いて金属を強靭にする意味合いもある。

 ……この時点でわかる人は流石はファンタジーと言うだろう。本当の鍛治と言ってもご都合だ。


 アポイタカラは鍛造可能状態の時、青く鈍く輝く。

 その青い板を叩いて叩いて叩いて……整形しながら度々強く打つ。温度が下がってきたらまた火に入れる。

 出して叩く。入れる……を繰り返し、何とか形が出来てきた。

 ここでノミを取り出してきて溝を入れる。中央に一本、そこの半ばからV時に刃まではいる溝。そして刃の付け根に沿う形で周りを囲む。

 刃の付け根に穴を開けて、すこし盛り上げて強度をとる。


 溝を入れ終わったら温度が下がるのを待ち、焼き入れを行う。アポイタカラは火が入った状態である特殊な液体に浸すとその品質以上の質に仕上がる。数値化されてない強さが上がる感じだ。

 ……かと言って焼き入れは下手をしたら脆くなってしまう。


 ジュゥーーっと液体を沸騰させ冷やされていくのを見ながらぼんやりと思う。


 あー……疲れた。




 次は銀銅だな。

 これは銅が鍛造可能となる温度の少し上だ。ただ銀の方がミスリルだから、火にかけてる時少し魔力を送る必要がある。

 まあウチの炉は勝手に貯蔵してある魔力を送ってくれる高級な奴だから俺がやらなくていいんだけど。


 アポイタカラに比べれば簡単だし、何より柔らかくて加工がし易かった。一つは捻りあげて糸にして、もう一つは半分にカットして少し丸く、そして革が引っかかるように加工する。


 ……一つ誤算だったのは、銀銅の針金は細くても割と固く、そして剛性が凄かった。

 捻り上げたからか?何はともあれ、加工はしやすいんだけど……どうしよう、凄く使いやすい素材を見つけてしまった。

 アミラのブローチの金糸もこっちに変えたいな……。


 まあ糸のことは置いておいて。


 あ、そうだ鍔の事忘れてた。


 鍔はなるべく硬い方が良いから……アダマンタイト、は重すぎて重心が崩れるからヒヒイロカネかなぁやっぱり。色も深い青の刀身に錆色の落ち着いた鍔だからメリハリもあるんじゃないだろうか。


 ヒヒイロカネは……うん、取り敢えず炉の火を最高まで上げる。

 そして決まった分数を数えて取り出し、いつも使うハンマーではなくバカでっかい身の丈ほどある方のハンマーで打つ。この時は前衛職にジョブを変えて整形とか気にせず思いっきり叩かなきゃいけない。


 そうして叩くうちに柔らかくなっていき、ようやくいつものハンマーで振りかぶって加工が出来るようになる。で、予定してある位置に小さく穴を開けて、俺の判を押し当て叩いてマークをつける。


 危ないことは無かったがただ疲れるだけの作業だった。




 完成したそれら三つを合わせてみる。微調整もせずにぴったりとハマるのは俺のセンスだな。ふふん。

 銀銅の針金を持ち手に巻きつけ、鍔に開けた穴に通して刀身の方の溝に沿わせていく。

 そして特殊な半田ごてを当てて半液状化させて固め、固定した後に持ち手に革を貼り、巻きつけていく。

 付け根に空いた穴に絆石をはめて、その周りを半田ごてと銀銅で埋め固めて固定した。



 よし、完成だ。


 思ったよりも品がいい感じになり、飾るだけでも価値が出そうだ。

 で、これじゃあまだ絆石の効果が出ないから、対の物を作らなきゃな。



 ▼



「リアン今時間あるか?」


「マスター。私になにかご用事でしょうか」


 執事として仕事をしていたリアンを見つけ、見せたいものがあるからと時間を都合してもらった。


「それでマスター。私に見せたい物とは?短剣のことでしょうか」


「ふっふっ、それは……あ、うん、そうなんだけどさ」


 ちっ、勿体ぶろうと思ったのに……。


「ほれ、そこの木箱に入ってる。開けてみな」


 白樺の木で作られた長い木箱。中にはワタとシルクの赤い布が敷かれ、その上で二本の短剣が待っている。


 ……店で展示する時使われる奴を引っ張り出してきたんだ。凝って作ったなら最後まで凝りたい性なんだよ。いいだろ。


 スッと音もなく蓋が外れ、中から二本の短剣が出てくる。鞘の上からでもわかる、すこし厚めの短剣と……というか、最早すこし短いブロードソードだなアレは。と──エストックの刀身をそのまま短くしたような細い刀身の短剣。


 刀身の長さは二本とも同じくらい、家庭に良くある万能包丁二つ分位の長さだ。短剣って、普通の剣に比べて短いって意味合いだからな、こんなもんだ。


「どうだ?抜いて確かめてくれ」


「……YES。マスター」


 リアンが鞘を腰に……ああ、執事服だからベルトが無いんだよな。

 ほれ、細い型の武器も吊るせるベルトな。


「ありがとうございます」


 ベルトを変え、武器を固定する。腰の横で鉄がブランブランしてたら痛いからな。しっかり可動域を制限しておかないと。


「では」


 無難に左右につけた短剣を手をクロスさせて抜剣する。

 シャランと静かな音を立てて抜き放たれる青い刀身。右に厚い短剣、左に細い短剣を装備したリアンが短剣をマジマジと見つめる。


 あ、細い短剣の方の絆石はどこにあるのかというと、柄頭にはめる形にした。流石にエストックのような細い刀身に穴開けて埋め込むわけには行かないからね。


 細い短剣の説明をもう少しするなら、その特徴的な鍔だろう。拳を包むかの様に広がった鍔は切る時に邪魔になる。だが、盾の役割を果たし、突く分には邪魔にはならないだろう。

 もう一つ、一部分だけ鍔から刀身の方に伸びる鉄の棒も特徴と言ったら特徴だろうな。3本並んだそれは、相手の剣を受け止めたり、絡め取る事ができる。等間隔ではないから、相手の剣がどんな厚さでもある程度対応できる。


「さて……こっからだな。リアン、その武器に名をつけてくれ」


 絆石の効果が現れるには所有者を決める必要がある。所有者を決めるのに一番手取り早いのが名付けだ。

 ……短剣の形が全く違うし、絆石がある場所も違うからちゃんと対と認めてくれるかが心配だな。


「……YES。マスター…………」


「ん?どうした?」


「マスター。名付けの仕方がわかりません」


 ……え?


「……その武器の名前はこれだと思いながら、命名と言って、その後にその名前を言えば良いだけだぞ」


「そうではありません」


「んん?」


 え?システム的な事じゃないのか?


「私は名をつけた経験がありません。ですのでどう言った名前が良いのか、わかりません」


 あー、そっちか……。


「……いや、なんでも良いんだぞ?しっくりくる……だとか、なにかを関連付けるとか」


「……関連、付ける」


「おう、例えば……いや、言わない方がいいか。それでイメージが固定してしまったらダメだからな」


「……」


 その場で目を瞑り思考を巡らせるリアン。

 手の中で弄ったりしながら考えてるリアンと、机にもたれかかって腕を組んでる俺……なんか気まずいな。静寂が痛いし、どうしたらいいんだ……。


 二人共目を瞑り悩んでいた。

 一人は真剣に。一人は、割とどうでもいい事で。

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