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16話 花摘みのお時間です&ボガード観察日記

「受付嬢さん怒ってたなーアレなー」


「魔鏡の近くですし、安全とは程遠いですしね〜」


 依頼は受理されたが多分受付嬢さんには嫌われた。出来るだけ安全な依頼を出そうと思ったら入り口とはいえ魔鏡に入る依頼を受けるって言い出すんだもんな。

 止めてくれたが俺の意思が硬いとわかると……悪いことしたなぁ。


「マスター。マスター用の12本集まりました」


「ん、ありがとう。ほんじゃ帰るか」


「はい。『フライ』」


 もう依頼の虹色チューリップ3本は確保した。

 俺用ってのは、虹色チューリップは錬金術に使う素材なんだ。作れるものは主に染料だな。

 あと割とうまいから食用にもなる。天ぷらがオススメだ。


「いつもこんなに簡単な依頼なら良いんですけどね〜」


「運良く魔物が出てこなかったからな。万が一出てきたらと思うとやっぱり手が出ないんだろう」


 でもユメハの言うことはわかる。ただ行って帰るだけでお金がもらえるんだからな。報酬を四人で分けると旨くないけど、手頃な依頼をもう一つ二つ受ければ十分な稼ぎになると思う。


 あ、街へ帰る時は低空飛行で行くし、大男とローブがいない分速くなるから……もう見えてきた。

 いくらなんでも速すぎると思うがこれが本職魔術師の本気だと思ってほしい。


「よし、適当にゴブリンやボガードでも狩ってから帰るか。じゃー各自散開っと」


 リアンはノリが良くニンジャのようにシュッと消え、アミラはそこそこの速度で走り、ユメハは狂気的なメイスを取り出して歩いて森に消えていく。


 ……ユメハの奴だけ別ゲーしてないか?

 こう、ジェイナントカの金曜日みたいな。


 ま、まあ俺も行こうか。

 武器は最近なじみになってきた双盾刃(ロマン武器)で。



 ▼



 ボガードというのは、オークより小さくゴブリンより大きい。レッサー(小さいほうの)オーガをまた小さく弱くした感じの、中途半端な生き物だ。体形はビール腹のような腹に筋肉質な手足をして、顔はオーガ系の鬼種。繁殖力はちょうどオークとゴブリンの真ん中辺りと、こうして特徴をあげると劣等種というより混合種(キメラ)みたいだな。

 あと手先がゴブリン程度に器用だから木を削って棍棒を作ったり火をつけたりも出来るところが凄いな。

 特に知能が優れていて、人語を少し理解し喋ることができる所から、チンパンジーよりは賢いと言える。


「こう考えてみると凄い種だな。魔族の祖先はもしかしてボガードだったり?」


 魔族というのは人類の敵……と言うわけでもなく、どっちつかずな存在だ。

 争ってる所は争ってるし、共存してる所は共存している。まあ一種の部族のようなものだな。

 ……と、ああ、魔族な。

 魔族は魔物から進化したと言われている人だ。知能も人間並みってか魔物的特徴があるだけの人間だな。近年では獣人や竜人は亜人として扱われているのに、魔族はなぜ魔物と言われるのかと議論になっている。

 それと同時に、これまたややこしいが虫人という種類もいるのでこの世界は曖昧だ。

 魔物の中にも|ワーウルフやウェアウルフ《二足歩行の狼》と狼の先祖返りした獣人などもいるので、また身体的な判断基準が難しい。


 魔族は、基本的には魔法に長け身体的にも人間を上回っているので上位種といっても過言ではない。が、繁殖力が弱く数が中々増えない。しかもある程度レベルが上がると上昇率が下がるからレベルが高くなれば人間とそう大差無くなるどころか一部は抜かされるという若干可哀想な種類だ。


「魔族とボガード。魔族には色々な種類がいるから、ボガードの魔族だって探せばいるハズだよな」


 魔族に進化した?魔物はその長所をさらに伸ばすので、凄い職人向きの種族が生まれる筈だ。

 ビール腹で、手先が器用で、知性も高い……。

 そこで俺はふと思った。


「あれ?これドワーフじゃね?」


 もしかしたらドワーフも昔は魔族だったのかもしれない。



 閑話休題(ドワーフは妖精種です)



【マップ】に【レーダー】を使って魔物を探す。すると赤点がちらほらと。


 そこへ行きザクッと。また移動してザクッ。もう一丁ザクッ。おまけに「ギョガェェェェン!!」


 チッ、【直感】系スキルを持ってる奴がいたか。薄皮一枚切ったところで飛び去られてしまった。


 ツー……と首筋を流れる血を拭い剣を掴んで大ぶりで切りかかってくるゴブリン──多分上位種だな──を一刀の元斬りふせる。盾だけどね。


 一応倒した魔物はアイテムボックスの中に入れてある。


 と、そんなことをしているとすぐ近くに赤点の反応。

【神眼】で見てみると、ボガードさんじゃないですか。


 ……ちょっとボガードに興味を持ってしまった俺は、その時何を考えていたかのか観察を始めていた。






 〜ボガード観察日記 ①〜


 そのボガードは木があまり生えていない、野営に良さそうな少し広い見晴らしのいい場所に住んでいた。

 動物の皮を敷き、火を焚き、穴を掘って水を貯める場所を確保していた。


「こうしてみると、原住民みたいな生活だな」


 動物の皮が二枚敷かれていることから、二体で住んでいると思われる。

 一応皮などで腰巻程度の衣服も作っているらしく、やはり器用で知能が高い。


 ボガードの中にはゴブリンを配下とするものもいるので社交性がありはやり上に立つだけの知能があるのだろう。


 と、ボガードがゴソゴソし始めた。


「ん?あれは……木の枝か?ずいぶん太いな」


 長さは1m、女性の胴回り程の太さの、もはや丸太と呼ぶべき者を取り出した。

 それを自らの爪で引っ掻いて削って、節を引っ張ってめくっていく。


 ガリガリ……ガリ……ガリガリ……ベリッ……ベリィィィッ……ガリガリ。


 木屑を量産しながらドンドン削っていく。その迷いのなさに何故だか俺は惹かれていた。

 その目は鋭く光り、寸分の狂いをも許さない。その耳は無駄な音の一切を排除し、些細な音の違いを聞き分ける。

 その爪はミリ単位でわかるほど感覚を研ぎ澄まさせ、その腕は時に大胆に、時に慎重に動かされる。


 まさしく、『職人』であった。


 俺が見入ること数十分。棍棒のような……いや、まさしく棍棒が出来上がっていた。

 仕上げが出来ないため凹凸があるが、手の皮の厚いボガードならササクレも気にならないだろう。

 ボガードは満足げに頷くと、その棍棒を握り太陽に掲げ目を細めた。


 ……まっ、眩しい!なんだあのボガード!スッゲェ親近感!


 そんなことを思っていると、もう一体のボガードが現れた。

 最初にいたボガード……いや、彼には名前をつけてやろう。

 君の名前は、(つくる)君だ!


 造君はドヤ顔をしながら別個体のボガードに棍棒を見せつける。

 うん……!造君!中々の出来だよ!そして握り部分に皮か蔓を巻けばもっと良くなるよ!


 別個体は頬に傷があって中々のイケメンだ(多分)。造君は少し顔が小さく、童顔だな(よく知らないけど)。


 別個体はその棍棒をマジマジと見、目を瞑ってウンウンと頷いた。そしてクワッッと目を開けるとドヤ顔をしながら背後からある物を取り出した。


 それは、骨だった。70センチ程の骨の先端は尖っていてとても鋭い。しっかりと持ち手部分らしき部分に布の切れ端が巻かれていて人間の目からしてもしっかりとした武器だとわかる出来だ。


 くッ……!?ま、まさか、そんな凄いものを……!つ、造君、大丈夫か!


 造君は目を見開きその骨の槍を凝視していた。握り部分、その切っ尖、全てを舐めるように見て、顔を歪ませた。


 そして固く握手をし、別個体は真剣な眼差しで、造君は悔しそうな顔で互いを見つめあった。


 つ、造君のライバル!ライバルなんだね君は!

 造君だけを贔屓するのは良くない。だから君は今日から琢磨(たくま)君だ!名前の通り、造君と切磋琢磨して技術をみがいてくれ……!


 造君と琢磨君は互いの作品を交換し、焚き火に腰掛けて論議し始めた。


 ここはこうした方がいい。これは良いな、取り入れよう等と、互いを尊重し高め合う素晴らしい関係。まさしく親友……!



 これ以上は、野暮だ。俺はそっと離れていった。



 ──観察終了──



 あ、あぶねー。もう少し居座っていたらアミラ達が来るところだった。そうなったら造君達は……!

 造君、あまり人間を刺激せず、狩られず過ごしてくれ!この世界は君に厳しいけど、頑張ってほしい……!

 前からアミラ達が走ってくる。


「お館様、探しましたよ」


「ああ、すまん」


 まだ見ていたい思いに蓋をして、俺たちはいつもの日常へ帰っていった。



 ▼



「は、はい。確かに虹色チューリップ三本、確かに。……ではこちらはギルドが責任を持って依頼主に届けさせていただきます。よろしいですね?」


「はい」


 面倒を避けるためだな。


「では納品書にはサインさせていただきます……はい、お疲れ様でした。こちらが報酬の銀貨1枚です。もしかしたら追加報酬があるかもしれませんが、あまり期待はしないでくださいね」


 やっぱり美味しくないなー。一応十日分……四人だと二日と少しだな。魔物に会ってたら危なかったし、怪我なんてしたら完全に赤字だ。


 ボガードや、まだ受けられないけどオークの討伐依頼なんかは、

 ボガードは基本三体からで銅貨5枚。一体でも引き取ってくれるけど、安くなって銅貨1枚と半銅貨5枚。三体以上で売るのが基本みたいだ。一番多く稼げるのが三体だから、小出し小出しにしてくる人もいるそうな。

 オークは一体で銅貨4枚と一気に跳ね上がった。それだけオークが危険って訳だ。

 あそこにある六体の依頼だとすこし多めの半銀貨2枚と銅貨5枚。ただしオークの肝が無傷でなければいけないと。

 条件を見ると安いな。銅貨を7か8、多くて半銀貨3枚ないと受ける人少ないと思うぞ。

 レッサーオーガもCランクだったな。オークよりすこし高いくらいか。


 これらの魔物の適正価格は勿論強さが大きく影響するが、他にも繁殖力や分布地、群れを成すか否か、知能の高さ、厄介さなどが加わり最終決定となる。


 例えばスライム。繁殖力が強く物理が効きにくい。そしてゼリーのような体のくせに力が強い事が何よりも厄介だが、縄張りから滅多に出ないためCランクになっている。これが縄張りからチラホラと出るようならBに格上げされるだろう。

 例えばレッサーオーガ。これもCランクの魔物だ。力がとても強く、物理、魔法がある程度効きにくい。極め付けは生半可な剣で斬りかかろう物なら刃を筋肉で止められることだ。だが頭が悪く繁殖力もそこまでない。一体で行動することが多いためCに分類されている。


 そうそう、魔物を倒したら討伐証明として指定された部位を切って持ってくるんだ。それで数を示す。それとは別にコアとなる魔石も売れるから、さっき言ったボガード一体の値段も実際には銅貨2枚(魔石分半銅貨5枚)になる。まあ魔物によって魔石の大きさも質も違うから値段も変わってくるんだが。



「それにしても、造君達のせいで創造意欲が刺激されちまったなぁ」


「ツクルクン?どなたでしょうか?」


「私も存じませんマスター」


「ん、ああ、気にしなくていいよ。それよりついでで狩った方は?」


「ゴブリン18、ボガード6、レッサーオーガ1ですね。少ないです」


「手加減してそれだろ?なら十分だ」


 ゴブリンが五体まとめてで銅貨2枚、一体だと半銅貨4枚だな。ゴブリンの魔石は要らないから売るとして、まとめの方が銅貨5枚(魔石は半銅貨1枚な)、三体バラで銅貨1枚の半銅貨5枚。合わせて銅貨6枚、半銅貨5枚っと。


「あ、ゴブリンの上位種が三体混ざってました」


 あー計算がややこしくなる。えー……ホブゴブリン、ゴブリンより少し強いゴブリンだな。でも所詮はゴブリン。

 ホブゴブリンの価格は……ボガードと同じ値段か。ただし魔石はゴブリンと一緒。

 なら半銀貨1枚と半銅貨3枚。


 ボガードも魔石売って半銀貨1枚と銅貨1枚、半銅貨2枚。


 レッサーオーガの魔石は使うから討伐証明だけだな。Dランク冒険者がCランクの魔物を狩ってもお金はもらえる。ポイントもパーティを組んでれば入る。一体で銅貨5枚か。美味い美味い。


 しめて銀貨1枚、半銀貨2枚、銅貨6枚、半銅貨5枚が今日の稼ぎだ。


 普通の冒険者は朝から夕方まで粘るから半銀貨4枚あたりか。ゴブリンとは戦わず、ボガードやオーク、レッサーオーガに対象を絞ったりすると5枚はかたいな。

 ただ、打ち上げ代や武器防具の手入れ、宿代ですぐ消える。

 何にしても稼ぐならCランク以上からって事だな。


 ボーナス依頼もこなしたし、このままちょくちょく依頼受けてたら数日中に上がるだろ。依頼の厳選もするしな。


 Cランクに上がったら一回帰りたいな。何でもいいから作りたいけど、作るなら本気でやりたい。


 ……いや、魔道具ならいけるか?最近トンテンカンばかりだったからな。またごちゃごちゃした説明になるけど、覚えたい人だけ覚えればいい事だしな。

 それに魔法にも触れるから体系とかもわかるだろ。


 色々考えて、少しワクワクしながら帰路についた。

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