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15話 マジメとボーナス依頼

 ギルド登録してから5日たった。

 マッハでFからDへ上がった俺達は、大男や酒場の冒険者のお陰でだいぶ今の常識がわかってきた。


 今の常識を言葉で表すと、


「まるで──そう、まるでYCOの正式版が発売された時みたいだ」


 まだみんなレベルが低く、最前線組と言われるガチ勢も、大男に毛が生えたくらいのレベルしかなかった。俺も30レベルいってたかどうかって頃で、その時サポートキャラのセイクを作ったんだ。


 だとすればスキルと付加効果が8個付きだなんて激レアで、聖剣と呼ばれていてもおかしくない。


 だけどこの常識の中で、常識の範疇に収まり生きるってのは……なんとも窮屈だ。


「ゲームが現実(リアル)になったなら。異世界に来たなら、楽しまなくては損だ。そこにもし最強となれる力があれば、もはや楽しまなければ失礼になる……か」


 誰の言葉だったか。最前線組のガチ勢の誰かから?すげぇいいそうな奴は何人か思い当たるけど。


「──楽しむ、ねぇ」


 それは俺だけが楽しめればいいものなのか。


 独善的に偽善を行い、要らぬ手を出し掻き乱し。恐怖で縛り何か起きれば全て他人の責任へ。誰もそれを責めやしない。

 はっきり言って虫唾が走る。そんな暴君に成りかねない力を持ち、未だどこか実感が湧いていない自分に恐怖する。果たして誰か止めてくれるのだろうか。

 権力に、暴力に、血に酔わないと言い切れるのか。この全能感は、果たしてあっていいものなのか……。


 これまでは考えずに流されるままこの街へきたが、そこら辺をちゃんと考えなきゃな。


 度々思い出そう。この疑問を忘れちゃいけない。



 閑話休題いつになくマジメですね



「早速俺たちはDに上がったわけだが」


 アミラ、ユメハ、リアンを呼び出し今後の方針を決める会をする。


「はい。お館様のランク上げプランが役に立っています」


「あんな機密情報、どこで知ったんですか〜?」


「検証だ」


「検証、ですか」


 ユメハの言う機密情報とは、ギルドの依頼の、ポイントのことだ。

 実はギルドのランクの、F〜Cまではポイント制になっている。一定まで溜まったらランクが上がる仕組みだな。


 で、そのポイントはどうやって稼ぐのか。

 それを昔身内で検証してたんだ。


 まず、依頼をクリアするとポイントが加算される。これはギルド員の言葉からわかっていた。

 肝心なのは依頼に優劣があるか。そしてそれ以外の加点はあるのか。また、減点とされる行為等を検証した。

 わかったことは、依頼に優劣はある。単純に報酬金が良ければポイントが高いというわけではなく、依頼内容と依頼主によってポイントが決まっていた。


 加点はされる。良く働き依頼主の印象が良ければその旨を書かれて加点となる。


 減点は依頼主の印象が悪く、あまり働かなかったり、普段の行いなどでされた。


 その検証結果を元に効率のいいポイントの稼ぎ方……もとい依頼の受け方を教えたんだ。


 ……ぶっちゃけ減点なんておまけで検証したからまだ精度が足りないかもしれないが、別にいいだろう。重要なのはポイントが高い依頼で加点もされる事だ。


 ……いやYCO頑張りすぎだろ。どうやって一人一人の素行なんて点数にしてたんだ。



 長々と語ったがまとめると、今現在ランク上げRTAをしてるって事だ。


「検証云々はどうでもいい。それで、Dランクに上がった俺たちはパーティを組またいと思う」


「パーティですか?」


「そうだ」


 パーティには不定パーティと固定パーティの2つがある。不定パーティはその依頼だけ、あるいはその期間だけなどの不定期に組むパーティの事だ。

 俺たちがする方は固定パーティ。不定も固定もギルドで登録するが、こっちは言うなれば小規模なクランって感じだな。人が決まっていて、入ってる人で依頼を受けてみんなでこなす。


「これまでのようにみんな別々で稼いだ方がお金貯まりませんか〜?」


「ユメハ様、お金を稼ぐのならやはり早くCになった方が良いのではないでしょうか」


「その通りだ。パーティでしか受けれない依頼の方がポイントが高いし、昨日掲示板を見ていたらボーナス依頼があったからな」


「ボーナス依頼?」


「ああボーナス依頼ってのはだな、ギルドがある理由で達成するのが難しいって決めた依頼の事だ。それを達成すればポイントをガッツリ稼ぐことができる上ギルドからの印象も良くなる」


「ある理由とはなんですか?マスター」


「様々だな。依頼人が原因だったり、目的が原因だったり。まあ、ぶっちゃけた話不良在庫だが売れないのも問題、な依頼だな」


「なるほど」


 面倒な貴族からの依頼だとか……この街だと目標が魔境の森に近くてランクが低い物とかだな。

 ランクが高ければ問題ないものでも、地方によって達成するのが困難だったり、何故かランクが低くつけられてたり……。


「そういった事が要因でギルドも早く片付けたい依頼、と覚えてくれたらいい」


「わかりました〜」


「それで、肝心の依頼はどんな内容なんですか?」


「まあまあ、まずはパーティの申請をしに行こう」



 ▼



「固定パーティの申請ですか?」


 ギルドにやってきた俺たちは最初に担当してくれたあの受付嬢さんの所で!パーティの話をした。


「はい、四人全員Dランクになったのでパーティを組もうかと。何か問題がありますか?」


「いえ、問題はありません。しかし……なんといっていいのでしょうか。若い冒険者の方々は固定パーティを組む事を嫌がるきらいがありまして。珍しいんです」


「はあ」


 気の抜けた返事をすると受付嬢さんがクスリと笑う。


「すみません。若い方は安全、安定より少々リスクがあっても飛び込んでしまいますから。では固定パーティの申請、承りました。そちらにお掛けになってお待ちください」


 促されたので長椅子に座って待とうか。

 すぐさまアミラとユメハが左右を固めてくる。

 何やってんだ二人とも、椅子取りゲームじゃないんだから。

 リアンを見ろ。あんなに落ち着いてるぞ。あ、リアン座っていいんだぞ?


「マスターの後ろをお守りしているのでここを離れるわけには参りません」


 ……さいですか。


「……こういうのを、執事ジョークと言うのでしょうか。マスター、私はちゃんとできていましたか?」


「えっ?そ、そうだな。できてたと思うぞ。執事ジョーク執事ジョーク」


 わっっかんねぇ!?え?何処がジョークだったの!?ジョークなら笑いどころはドコ!?


 はあ……なんか、いやもういいや。

 ……ん?何だアレ?


「アミラさんアミラさん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいか?」


「はいはいお館様、何でしょうか」


「あそこの、女の人何だが」


 赤と金の髪を結ってシニヨンにしている、キレーな女性だ。銀色に輝く鎧に碧いマントを纏って、品のいい装飾がされたショートソードを帯剣しているな。


「はい?ああ、あの方ですね。手篭めにしますか?」


「ブッ!?て、てごっ!?ば、馬鹿!そうじゃねぇよ!」


 聞こえてたらどうすんだ!?急に手篭め云々とか聞こえたら普通に逮捕モンだぞ!?いや、そうじゃなくても頭おかしい奴だって思われるだろ!?


「あ、真面目な質問だったんですね。すみません。それで、あの方がどうかされましたか?」


「はあ……もう、なんで俺の周りにゃ……いいや。もう。聞きたかった事ってのは、彼女、ナニモンだって事」


 鎧とマントの裏側に、見えにくくはなっているが同じ紋章。しかも少しではあるがミスリルまで入ってるよな、あの剣。

 今の常識でいうとめちゃくちゃ凄い剣な筈だ。


「え?貴族の方ですね。あの紋章は……ああ、恐らく近衛兵ですね。王妃や側室、王女様辺りの側仕えの方です。この国では王は聖王と呼ばれるので聖王妃となにかと聖をつけるので、会う機会があればお気をつけ下さい」


 なるほど、なるほど。


「で、なんでそんなエリートがここにいると思う?」


「え?……そう言えば何故でしょう?」


「ちょっと気にならないか?」


「気に、なります」


「だよな。ちょっと様子をみてみようぜ」


 俺たちは野次馬根性丸出しでその女性の様子を伺った。


「あれは……誰か待ってるみたいだな」


「ですね」


 時計──この世界では魔道具として一般的に広まっている物。電池の代わりに魔石にしたものが一般的──を度々みつつ、キョロキョロと目だけを動かして辺りを見回している。

 何か物や人を探している感じだけど動かないってことは……あ、反応があった。相手がきたのか?


「あ、今来た男性と座りましたね。

 ……んー、何言ってるか聞こえないですね」


 耳のいいやつは……いや、『集音』の魔法?……あ、失敗作があるな。


「ドドンと登場ウノさんの秘密道具、【音飛ばし】の失敗作だ」


「わー、って失敗作ですか〜?」


「うん。本来はその場所の音を別の所へ届けるはずが、逆に別の場所の音をその場所へ運ぶ魔道具になっちまった奴だ。多分配線が逆だったんだろうな」


 魔道具には魔法陣のような幾何学的な模様を基盤と導線とするから一本間違ってるだけで上手く効果が現れてくれないんだよな。コレはその線を繋げる場所を反対にしたか、変なところが繋がっていなかったかのいずれかでできた失敗作だ。

 他にも爆音になってしまった【拡声器】などがある。

 ……ケータイや無線機って難しいって感じたよ。


「じゃあ、この本来はスピーカー部分がマイクになってしまったものを向こうに放り投げて」


 ぽいっとなげて上手く机の下に落とす。続いて消音の結界を張って魔道具の音が周りに漏れないようにする。


「ポチッとな」


「……」


 言ってて恥ずかしくなってきた。

 特にウィンウィンとなったりするわけでもなく、静かに音を拾う。


『なあ、本当に王族の命令なんだよな?』


『そうです。それと、聖王族です。お間違えなく』


 よしよし、ちゃんと機能してるな。


『……わかったよ、聖王族な、それで、あの依頼をクリアしたら?特別報酬とか、そいつらが聖王族に謁見だとか』


『特には。姫様のワガママでできた依頼ですので兎にも角にも急いで遂行して欲しいと言うのが此方の願いです。そちらは冒険者を使い依頼を達成し、こちらはそれを受け取り報酬を渡す。後は何もありません。それが冒険者というものでしょう?』


『確かにそうだが……使うっていい方はよしてくれねぇか。冒険者は俺たちのパートナーだ』


 ふむ、この男はギルド職員だろうか。依頼がなかなか達成できなくて、催促しに来ていると。


『……すみません。癖になっていて。どうしてもその様な言い方になってしまうのです。国にとっては人も物も、資源ですから』


 お、ちゃんと謝る。腐敗してない良い貴族だな。いや、近衛になるなら性格、性質も吟味されるか。


 二人は解散すると、男性はギルドのカウンターの向こうへ。近衛の女性はギルドを出て行った。


 さてさて、心当たりがあるなぁ。

 なんだったか。ギルドが早くこなさなきゃいけない依頼。


「どんな依頼なんでしょうね」


「さあ〜」


「……マスター?」


 ボーナスもボーナス、めちゃくちゃポイントが入るいい依頼じゃないか。


「なあ、俺の言ったこと覚えてるか?」


「はい?」


「何のことですか〜?」


 思わず笑みを浮かべてしまう。もっと締まりのある顔になれ。静まれ俺の顔……!


「ボーナス依頼。思ったよりポイント入るかもしれないぞ」


「……マスターが言っていた依頼ですか」


 そう、俺が見つけた依頼の依頼者はこの国の騎士爵の貴族だった。多分あの女性か部下かだろう。姫様とやらのワガママを聞くためにわざわざ(てい)を気にして下の者の依頼にしたんだな。そして依頼品を依頼者が受け取り姫に渡すと。


「それが滞っている。姫様は依頼者を急かし、依頼者はギルドを急かす。ギルドは冒険者に頼むも断られ、報酬金も多分あげられないんだろうな。依頼者は自腹を切っているとみるか。

 リスクの割にリターンが少ない。ギルドも焦っているからボーナス依頼にしたって感じか」


「でもそれって、ポイントとボーナス依頼の事を知ってる冒険者でなければ価値はわかりませんよね?」


「ああ、だから目につけた冒険者には喋ってるんじゃないか?コレを受けると昇格が早くなるってな事をさ。……教えてもらえるなら俺たちの検証は何だったんだって感じだけど」


 なんかやるせ無いな。せっかく頑張ってポイント表とかも作ったのに。全部バラされちゃうわけだろ?


「それで、どんな内容だったんですか?」


「ん?ああ、ボーナス依頼の内容なー。たしか、魔鏡の入り口に群生してる虹色のチューリップを三本、採取してほしいって依頼だな。他所では崖とかに生えてるけど、ここは平地に生えてる。行くのは簡単だし、特別な採取法もない。普通はCランクの依頼だけど、崖を登る危険がないし、魔鏡の入り口とはいえ普段は安定している場所だからDランクになったんだな。

 ……まあ、人が入らないから安定しているんだけど」


「Dランクの依頼なので報酬も美味しくない。魔鏡は危険。だから誰もやりたがらないと」


「そうそう」


 うんうんと一人で頷いていると、誰かぎ近づいてくる気配。素早く魔道具を切ってアイテムボックスの中に入れ、結界を消して自然体を装おう。


「ウノ様、お待たせいたしました」


「あ、できましたか?」


 受付嬢さんだったか。

 固定パーティに登録してもらった事の感謝を述べて注意点をいくつか聞く。



「ありがとうございました」


「いいえ、仕事ですので」


 ニコニコと笑顔を向けてくる受付嬢さんはやっぱりデキる大人の女性って感じでカッコいいな。業務用の笑顔だけど。


「では、早速依頼を受けられますか?」


「はい」


「畏まりました。では……」


 あらかじめ持ってきていた依頼書を数枚めくってる。やる事が早いな。


「ああ、もうやる依頼は決まっているんです」


「そうでしたか。どの依頼でしょうか?」


 パラパラとめくっていた書類を直してニコリ。うーん、余裕の対応だな。この人に迷惑はかけちゃダメだなー。いや、基本的に人に迷惑かけちゃダメなんだけどな。


「ええ、この依頼です」


 スタスタと掲示板に歩いていって先ほどのチューリップ採取の依頼を取り受付嬢さんに見せる。


「Dランク、パーティ推奨。条件はクリアしてます。受理してくれますよね?」


「……」


 あ、笑顔が凍った。

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