ちょっとお茶しに?
「な〜に、ふたりだけで通じ合ってんですか〜?」
「わっ! ちょっと蜜!」
「ビックリした……」
いきなりヌーッと顔を出してきたからビックリした! 蜂蜜くんが間に割り込んできたから、アイスくんと繋いでいた手を離す。なに? 邪魔しに来たワケ?
「それで、今度はどんな冒険をして帰ってきたんです? キャンディさん、詳しいこと何も言わずに出ていっちゃうんですから」
「伝書機か何かで聞いたの?」
「いいえ? 寝てるとこズカズカ入り込んできて、アスナさんは昼まで寝かせるから予定を組み直せって。言うだけ言って行っちゃいましたよ」
「あらま。男の子の部屋に無断で入っていったらダメだよねぇ?」
「アスナさんもやりそう……」
なんだとう〜。
「やりますよ、アスナさんですもん」
「こらぁ! ふたりとも!?」
ハリセンがないから握り拳を振り上げたら、ふたりとも笑って逃げるフリをした。まったく、仕方ないんだから!
それからわたしたちは喫茶店に入ることにした。今日はもう、お城に招待されることはないと思うし。スイーツでも食べながら、これまでの話やこれからの話をしようかなって。
マカロンさんが帰るための道を示してくれたこととか、帰るための魔力が溜まったこととか……。
蜂蜜くんは、わたしと同じ立場で、異世界からやって来た。でも、わたしと違って元の世界に帰りたいわけじゃないらしい。
でも、シャリアディースが支配していたこの国にもいたくないって言ってた。アイツがいなくなった今、ここに残るかもしれないし、残りたくないかもしれない。ただ、ギースレイヴンのことがあるから、今すぐここを出たら、魔力不足で体がつらくなるかもしれない。移動手段もないし。
なんて、わたしひとりで考えるより、本人に聞こうかなって思ったんだ。今なら、アイスくんがいるから、精霊の力も借りやすいしね。
というわけで、まずはジャムを助け出した経緯から説明することにした。夢で火の精霊、シフォンさんに出会ったこと、それから一緒に歩いて氷の国まで行ってきたこと。
「へ〜〜。歩き詰めはキツかったですね〜。階段とか。ボクなら帰ってます。というか、まず行きませんし」
「蜜ちゃんヒドイ。言うと思ったけど」
「ジフが協力しているのもすごいけど、楽せずに自分の足で歩くなんて、アスナさんはすごいよ」
「ありがと。まぁ、それで、シャリアディースとは戦ったわけでも何でもなくて、ただ話をしただけなんだけど……アイツもね、きっと最後まで迷ってた気がするんだ。じゃなきゃ、とっくにジャムの体にオースティアンさんの魂を入れてたはずだもん」
あのときはカッとなって、シャリアディースのことを責めちゃったけど、実際のところはどうだったんだろう? そして、アイツはどこへ消えちゃったんだろう。……お城にいたら、さすがに笑うけど。
「アスナさんは考えすぎなんですよ、いつも。未遂だろうがやっちゃったもんはやっちゃったもんなんですから、アイツは罰を受けるべきなんです。今までしてきたことを考えたら、死刑が当然ですよ。同情してやる価値もない」
「蜜ちゃん」
「……僕は、死刑には反対だけど、罰を受けさせるべきっていうことに関しては、このひとと同じ意見かな」
「それはそれは、援護射撃どうも。でも、君はまず、自分の国の事を考えるべきでは?」
「考えてるよ。処刑なんかさせないけど、あのひとたちは早くあの立場から降りた方がいいって思ってるから……。この件が終わったら、僕も動くつもり。成功するかは、わからないけど……」
「ふぅん。ま、頑張って~」
蜂蜜くんてば、大人気ない……。
アイスくんは、クリーム王子と女王陛下の命を守るために行動するつもりなんだね。偉いなぁ。ふたりはそのまま、難しい政治の話を始めちゃったから、わたしはケーキを楽しむことにした。仲がいいんだか悪いんだか、口ゲンカしながら楽しそうだし。歳の離れた友だちっていうか、先輩と後輩、みたいな? ちょっと微笑ましいよね。
それも一段落して、わたしはそろそろ自分のことを切り出さなくちゃいけないと思った。椅子に座りなおして、テーブルの上で両手を組む。そして、わたしは蜂蜜くんに向かって話しかけた。
「あのね、蜜。聞いて。わたしね……」
覚悟していたことだったのに、言葉が詰まる。
言わなくちゃ……。帰れる目処がついたこと。帰るつもりだってこと。
お別れしなくちゃいけないってこと……。
「わたし……」
「帰るんでしょう? 知ってますよ」
「え?」
「よかったじゃないですか。ずっと、そのために頑張ってきてたでしょ。この国のゴタゴタも粗方片づきましたし、もう、いいんじゃないですか〜?」
「いいの……?」
「当たり前でしょう。アスナさんの目的は最初から、家に帰ることだったんですから。貴女のことだからどうせ、ボクたちのことを気にしてるんでしょう? お別れを言わなきゃとか、この国が大変なときだからとか、気にしすぎですよ! 帰れるってわかった瞬間に、飛びついてたってよかったくらいです」
「そこがアスナさんのいいところだと、僕は思うよ」
「ただの世間知らずのお人好しって言うんですよ」
「ちょっと! ひどいんじゃない?」
「事実ですよ〜」
わたしが怒ってみせると、蜂蜜くんはニヤッと笑った。
「何だかんだこの世界にも慣れたので、ボクはもう、どこへも行きません。元の世界は大嫌いだし、今さら新しい世界に行っても、慣れるまでが大変そうです。……それに、ボク、彼と一緒に行こうと思ってるんですよね」
「えっ? アイスくんと?」
「ええ。あの国をどうしようって話が出たとき、ボク、暗殺しようって言ったの、覚えてます?」
覚えてるとも。忘れるわけない!
「反乱を企てる連中のやり方とか考えることとか、ボク結構わかるんですよね。だから、そのへんの知識が活かせないかと思って」
「それで、アイスくんに協力しようっていうの?」
「ええ、そうなんです。結界の外に出たときの魔力切れや、移動手段に関しても、彼ならなんとかできるって話ですしね」
「そっか。それなら、よかった……」
肩から力が抜けていく。本当によかった。
「わたしね、帰れるって確信してから、蜂蜜くんのことが気になってたんだ。でも、これまではあんまり考えないようにしてた。先にジャムを助けなくちゃいけなかったし、エクレア先生のことも、何とかしなくちゃいけなかったでしょ? 魔力が足りるかどうか、ぜんぜんわからなかったから、言えなかったの」
「言う暇もなかったですしね。アスナさんが帰るって言えば、キャンディさんがうるさかったでしょうから」
「うん……。でも、キャンディもわかってくれてると思うんだ……」
わたしは、この世界に来てからの親友のことを頭に思い浮かべた。
◎蜂蜜(もしくは黒蜜)君
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【名前】ミッチェン・ガードナー
【性別】男
【年齢】23
【所属】ジルヴェスト国
【職業】暗殺者
【適性】諜報
【技能】吹き矢・◆この項目は隠蔽されています◆
【属性】腹黒
【備考】笑いのハードルが低い・女装癖がある?・魔力が少ない
【偽名】ミシェール・スキットナー
☆ ☆ ★
☆『三年前に別の世界からやってきた』
☆『魔力を奪う障壁の対象者にならないためにシャリアディースと契約し、それに縛られている』
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◎アイス君
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【名前】アイスシューク
【性別】男
【年齢】15
【所属】ギースレイヴン国
【職業】奴隷
【適性】魔法使い
【技能】◆この項目は隠蔽されています◆
【属性】不憫
【備考】精霊の巫女?
☆ ☆ ★
☆『結界を越えて行き来する方法を知っている』
☆『クリエムハルトの異母兄』
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