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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ノーマルルート
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先生、起きて〜?

 蜂蜜くんに起こされたのはお昼近くだった。ベッドの上は何故か花びらだらけでビックリ。集めて捨てようとしたところで、シャーベットさんから教えてもらったことを思い出して、適当なカバンに詰めた。これ、わたしの余った魔力だわ。


 キャンディの部屋のクローゼットから私服を借りて、一階に降りていく。授業が再開した学園の寮には、わたしたちしか残っていなかった。蜂蜜くんも珍しく男の格好で、背が同じくらいのアイスくんと並ぶとまるで友だち同士だった。


 お昼ご飯は材料だけいただいてパッと作る。ありあわせのものだったけど、ふたりとも喜んで食べてくれた。


「アスナさん、料理もできたんですね〜」

「美味しい……」

「ただの野菜炒めだよ、それ」


 簡単なものしか作れないよ?

 それでも美味しいって言ってくれるのは嬉しいね。


 伝書機のおかげでホウレンソウ、報告・連絡・相談はスムーズで、わたしがエクレア先生のお見舞いにちゃんと行けるよう、蜂蜜くんが時間を調整してくれていた。


「というわけで、病院に行きますよ。そろそろ迎えが来ます」

「わかった。洗い物終わらせとくね」

「て、手伝うよ」

「ありがとう、アイスくん」

「チッ」

「蜜!」


 行儀が悪い!

 なんやかやありつつ、わたしたちは迎えに来てくれた馬車に乗って病院へ向かった。キャンディはお城から戻って来ないから、三人になっちゃったけど。


 エクレア先生の病室は、花に埋もれていた。ゼリーさんはじっと黙って座っていて、カーリー先生は椅子で寝てしまっていた。


「来たか」

「ゼリーさん! エクレア先生は?」

「……希望はない」

「どうして? 結界がなくなったせいで魔力切れを起こしたんじゃないの?」


 ゼリーさんは静かに首を横に振った。その言葉の続きを待ったけど、この無口なひとはここでも無口だった。ええい、もう!


 わたしは花を掻き分けてベッドまで行った。ぐったりしたエクレア先生は顔色が悪くて、酸素の吸入器みたいなものを取り付けられていた。もしかして、かなり悪いの……?


「ボクがドクターに聞いてきましょうか?」

「待って。カロンが、やっぱり、魔力切れの仮死状態だって。魔力を吹き込めば目が覚めると思う」

「……すでにやっている」


 ゼリーさんのすごく低い声に、アイスくんは飛び上がって、蜂蜜くんは逃げた。……おい!?


「魔力を吹き込んでも、ダメなの? ゼリーさん、何か知ってるの?」

「…………」

「べつに教えてくれなくても、わたしは先生に魔力吹き込むけどね。シャリアディースのせいで仮死状態になってたジャムが、同じ方法で目を覚ましたし」


 ゼリーさんがようやく顔を上げてわたしを見た。わたしはこのために作ってきた紙筒を見せて、エクレア先生の枕元に立った。


「それは何だ?」

「魔力を吹き込むための筒だよ。キスしなくても、これで大丈夫!」

「…………」

「まぁ、見てて」


 わたしは筒の端をエクレア先生の口に突っ込んで、息の代わりに魔力を送った。ジャムのときみたいに。ゼリーさん、アイスくん、それに蜂蜜くんが覗き込んでくる。


「……おい」

「起きないですけどぉ?」

「しっ! いいから見てて」


 わたしの言葉に、三人とも息を止めた。いや、息はしなよ。しばらく何の反応もなかったけど、エクレア先生の眉がピクッと動いたかと思うと、苦しそうにうめいた。


「アル!」

「ん〜〜。なんですかこれは。邪魔です……」


 エクレア先生は体に巻きつけられていたコードとかをポイポイ取っていった。寝ぼけてるのかな、目が開いてない。眼鏡を探す仕草を始めたから、わたしはそれを取って渡してあげた。


「先生、はいコレ。眼鏡ね」

「ありがとう。……アスナさん?」


 先生は目を見開いて、わたしを見上げた。驚いてる驚いてる!


「やっほ〜、先生。おはようございます。もうお昼過ぎたけど。お腹空いてません?」


 ヒラヒラ手を振ってみる。先生はベッドの上に上半身だけ起こして座ると、わたしの手を掴んできた。


「アスナさん! 急にいなくなって驚きましたよ。いったいどこへ行っていたんですか? 拐われたのじゃないかと、私たちがどれほど心配して……、……あれ? ここは、どこですか?」

「先生、わたし、無事に戻ってこれました。先生こそ、急に倒れて意識不明って聞いたからビックリしちゃいましたよ?」

「そうでしたか……では、ここは病院ですか? どうしてこんな、花だらけなんでしょうか」

「それはほら」

「ああ、カール……。とにかく、一度仕切り直さないといけませんね。少しお待ちいただけますか?」

「もちろん! それじゃ、後はゼリーさんに任せて、わたしは帰りますね。わたしも、心配かけちゃった分、説明しないといけないから」


 わたしが舌を出すと、エクレア先生は笑った。


「そのうちお城で、全員そろっての説明会でも開かれたりして」

「その方がわかりやすくていいかもしれませんね」

「でも、それってなんか、違う気がする……」


 先生は壇上に立つの得意そうだけど、わたしは違うんですけど?


「それはともかく、アスナさん」

「はい」

「おかえりなさい。あなたの元気なお顔が見られて嬉しいです」

「ありがとうございます。アルクレオ先生こそ、おかえりなさい。目が覚めて、ホントによかった!」


 先生はわたしに手を差し出してきた。握手をして、病室を出る。そして、ゼリーさんもわたしの手を握って頷いた。


「アスナ。……ありがとう」

「どういたしまして!」


 あとはお城、だね。

 今までのことをぜんぶ説明し終わったら、わたしは、この国を離れる……。さよならは寂しいけど、わたしにはわたしの居場所があるんだから。


「アイスくん」

「うん……」


 アイスくんは頷いて、わたしの手を握った。

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