新しい恋の予感?
わたしとジャムを海岸まで送り届けてくれたシャーベットさんは、手を振って波間に消えていった。コンちゃんへの伝言はいらないって。断られちゃって残念だね、コンちゃん。
シャーベットさんが完全に見えなくなって、わたしがカプセルの中のジャムを起こそうと覗き込んだとき、そっと隣に影ができた。チラッと見ると、シフォンさんだった。
「目的は果たせたみたいだね」
「うん。友だちも魔力切れで仮死状態だったけど治るって。シフォンさんのおかげだよ。連れて行ってくれてありがとう」
「ううん。それより、シャーベが目覚めたみたいで、私は嬉しい。アスナを連れて行ってよかった」
初めから、そういう目的もあったのかな。でも、言わなかったってことは、期待してなかったってことなのかも。結果としてどっちも大満足なんだし、オッケーオッケー。
「シフォンさん、わたしたちをマリエ・プティの寮まで送ってもらえる?」
「もちろん。そのつもりで来たから」
やっぱり? じゃなきゃここで顔を見せたりしないよね。
カプセルの中で、ジャムが間抜けな声を上げて伸びをした。ようやく起きるのか、このねぼすけは!
「んあ……アスナ?」
「おはよ、ジャ厶。聞きたいこと、いっぱいあるだろうけど、とりあえずお茶にしよ?」
「ん……」
眩しそうにわたしを見上げた「眠り姫」ならぬ「眠り王」は、寝ぼけ眼をこすりつつ起き上がった。朝の光のせいで透き通った髪が金のモップみたい。ダルそうにしている様も格好よく見えるのは得だなぁ。
「イケメン……」
「オレサマナルシストだよ?」
「顔がいい」
「聞いちゃいねぇ」
そんなだから恋愛で痛い目見るんだよ!
シフォンさんをジャムに紹介すると、ハイパーお愛想モードでめっちゃキラキラしい挨拶をしていた。シフォンさんてば若返ってわたしと同い年くらいになってるし! でも、髪の毛に隠れて顔がまったくわかんない状態だったし、ぜんぜんちゃんとしゃべれてなかった……何のために若返ったんだか!
海岸まで来たときとは逆に、焚き火から寮の蝋燭まで飛んだ。シフォンさんは逃げるように帰っていった。……だから、何のために若返ったの!
「シャワーでも浴びてサッパリしたいな」
「えっ。着替えなんてないから我慢してよ」
「オレはべつに全裸でもいい」
「張り倒すよ?」
「おお、怖い怖い」
ホントに殴ってやろうか、コイツ。
「キャンディ起こしてくるから、待ってて」
「ああ。あ、迎えを呼ぶから、伝書機も頼む」
「伝書機ならこれを使って。声も入れられる最新のヤツよ。ギズヴァイン先生はちょっと、今は対応できないみたいだから、それ以外のひとに頼んでね」
「わかった」
ジャムは一瞬、けげんな表情になって頷いた。仕方ないよね、先生は倒れちゃってるもん。そういえば、今日、お見舞いに行くんだった。ジャムを目覚めさせたのと同じ方法で、先生も目を覚まさないかなぁ?
「アスナ」
「きゃっ!?」
階段に足をかけたとき、ジャムに後ろから抱きしめられた。
「ジャム! ビックリするじゃない」
「アスナ……ありがとう」
「……どういたしまして」
急に抱きついてくるなんて……いったい何事?
ともかく、わたしはキャンディの部屋へ戻って事情を話すことにした。ちょうど良く、もしくは不幸なことに、キャンディはすでに起きていた。
「アスナ……!」
囁き声なのに、怒ってるのがよくわかる。目を三角に吊り上げたキャンディがわたしを待ち受けていた。
「ごめ〜ん、色々あって!」
「また夜中に抜け出すなんて! もう、いい加減に」
「待って、あのね、ジャムが帰ってきたの!」
「えっ」
「今、下にいるの。お城からの迎えを待ってる」
「お兄様……!」
キャンディはすっ飛んでいってしまった。積もる話もあるだろうし、一番の情報通はキャンディだし、このままお任せしちゃおうかな。わたしの足はもう限界だし! 朝まで頑張ったし! シャワー浴びて寝ちゃお。
わたしは軽く体だけ洗って、パジャマに着替えて寝ることにした。時間になれば、誰か起こしてくれるでしょ、たぶん。




