これで決着?
二話続けて投稿しています。こちらが二話目です。読む順番にお気をつけください。
髪の毛を引っ張られたわたしは、またしても床に叩きつけられていた。
痛い! もう! まさかチャームポイントのサイドポニーテールが仇になるとは……。
「オースティアン! なんということだ……、ああ……」
取り乱した様子のシャリアディースが、蓋の開いたカプセルを覗き込んでる。わたし、ちゃんと間に合ったみたい。開いたのは、もしかして死んでしまったオースティアンの方かな……なんか、ひどいニオイがする……。
シャリアディースが放心してる今のうちに、ジャムを出してあげなきゃ。
そっと足音を忍ばせて、もうひとつのカプセルに近寄ったわたしは、さっきと同じようにボタンを操作してカプセルを開けようとした。
「やめるんだ、アスナ」
「邪魔しないで!」
「変な開け方をしたら、オースティアンが死んでしまう」
「えっ!?」
ぞっとした。
え、まさか……。
「ジャムは!?」
「……無事だよ。こちらを残してよかったな、アスナ」
「は~~!」
し、心臓が……止まっちゃうかと思った……。
わたし、もう、立てない……。
わたしがへたり込んでいると、シャリアディースがカプセルのボタンを操作し始めた。これ、任せて大丈夫なヤツ!?
「ちょ、ちょっと! それ……!」
「安心しろ。もう、私がオースティアンを傷つける理由はない。……なくなってしまった」
「…………」
信じていいんだろうか?
そう思ったけど、すでにボタンは操作されてしまっていた。さっきと似たような、空気の漏れる音がしてカプセルの蓋が開いていく。わたしはフラフラしながら立ち上がった。カプセルの中で眠っているジャム……こっちのオースティアンがジャムだっていう保証は、ない。けど、信じるしかない。
「ジャム……起きて、ジャム」
声をかけても、揺すってみても、オースティアンが起きる気配がない。これはいったい、どういうこと? わたしはシャリアディースを強く睨みつけた。
「どういうことなの!? これ、ホントにジャムなんでしょうね?」
「ああ、間違いない。だが、魔力切れで仮死状態になっているんだ」
「仮死状態? 魔力切れで?」
「ああ」
う~ん、どういう意味かよくわからないなぁ。
「それってどういう状態なの? ちゃんと教えてくれないとわからないよ」
「この世界の人間は、魔力が切れかかると大変な苦痛に襲われる」
知ってる。チョコが発作を起こしたのを見たもん。
「そして、やがては衰弱して死に至る。何度も危機的状況に晒され、力尽きるようにな。だが、私は人間を仮死状態にする方法を確立した。……ただ、何もかも世話してやらなければ死んでしまうのが難点でね。私はそのため、オースティアンをこの繭の中に入れておいたのだよ」
「繭……。あ、ちょっと待って。今、そこから出しちゃったでしょう? このままだと、ジャムは死んじゃうんじゃないの」
「察しがいいね」
コノヤロー!
「じゃあ、早く何とかして!」
「ふっ、なら、君が魔力を吹き込んでやればいい。唇から、ね」
「!」
そういうことか!
どうして魔力切れのときにキスで回復するのかって話、エクレア先生は体液の摂取がどうのこうの言ってたけど、人工呼吸の要領で魔力を吹き込んでただけなんじゃないの?
「シャリさんがやんなさいよ」
「遠慮する。私はもう、ここを去るしね」
「勝手なことばっか言って!」
「ほら、早く魔力を吹き込んで。ちなみに、口を開けさせて息を吹きかけたくらいじゃ魔力は入っていかないからね」
「エロジジイ……」
「心外だ!」
ポロッとこぼした悪口を拾われて、噛みつかれちゃった。まぁ、ジジイって言われちゃ怒るか。あ、それともエロの方かな。
とにかく、なんとか方法を考えなくちゃ。息っていうより、魔力が吹き込めればいいんでしょう? 部屋を見回すけど、ここには本当に何も置かれてないみたい……便利な道具があるはずもなく……。
そのとき、わたしはピンと思いついたことがあった。
ハリセンよ。ハリセンは紙で出来てる。なら、それをバラしてクルクル巻けば、筒ができるんじゃない!?
とゆーワケでクルクル。
「まさか、アスナ……」
「まさかって? この筒で魔力吹き込むよ」
「……汚いのでは」
「マウス・トゥ・マウスの方が雑菌多いわよ。端っこはちぎってあげるって」
「……ひどい見た目だ」
うるせぇ。じゃあ自分でやれ!
「じゃあ、やるわよ」
紙筒をジャムの口に突っ込んで、もう一方の端に口をつける。恥ずかしいから、息は吹き込まずに魔力だけ流すつもりで……。こんな感じ?
でも、ジャムの反応はなかった。
失敗したかと思っていると苦しみ始めた……。
「ジャム!」
どうしちゃったの!?
なにか、いけなかったんだろうか……頑張って……!
ジャムは、くしゃみをひとつして、また穏やかな表情に戻った。
「…………コイツ、寝てるわ」
ビックリさせないでよね〜。
わたしはジャムをつついた。ウンウン言ってるけど起きない。寝起きワルッ!
「……では、私はもう、行くよ」
「えっ。どこへ?」
「さぁ? 帰る場所など、どこにもない」
「じゃあ……」
「しかし、ジルヴェストにはいられなくなってしまったからね」
「逃げるってこと?」
「そうとも」
開き直ってる……。
止める力はわたしにはないし、このまま帰ったらコイツは……。謝っても許してくれるかは、わからないんだよね。逃げるって言うなら、止められない。
「ジャムに何も言わずに行くの?」
「彼を殺そうとした私に、いったいどんな言葉をかけろと?」
「それもそっか」
「……アスナはどうする。オースティアンの下には残らないんだろう」
「元の世界に帰るよ。決まってるでしょ」
「……私と来ないか?」
わたしの目の前に、白い手袋に包まれた手が差し出された。




