妃殿下って誰のこと?
咄嗟に出てしまったわたしの言葉に、赤髪のすかし男は信じられないという表情をして固まった。なんなんだ、こっちの方が「信じられない!」だよ、自分の吐いた台詞に疑問はないのか!
「ディース、この少女が何を言ってるのかわからないんだが……どういう意味なんだ?」
振り返って長髪お兄さんに尋ねる始末!
「チェンジ! つまり、キスがご褒美とか冗談は口だけにしなさいよ、わたしに触ったらぶん殴るからって言ってんの!!」
「……駄目だ、やっぱり何を言っているのかさっぱりわからん」
そこはわかれ!!!
「まあまあ、オースティアン。彼女も疲れているんだろう。明日になれば気が変わるよ」
「それもそうか。それは悪いことをしたな」
いや、変わらないって。
とりあえず台詞の途中でポップアップしていたんだけど、そんな場合じゃないと無視してきたステータスでも見てみるとしますかね。まずはオースティン、じゃなかった、オースティアンから。
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【名前】オースティアン
【性別】男
【年齢】17
【所属】ジルヴェスト国
【職業】国王
【適性】女たらし
【技能】◆この項目は隠蔽されています◆
【属性】オレサマ・ナルシスト
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オレサマ属性……うん、知ってた!! って、ナルシー入ってんのかい、それであの態度ね。王様だから属性も二つ持ちなの? ふぅん、ゴージャス~~。さて、もう一人のお兄さんは、と。
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【名前】シャリアディース
【性別】男
【年齢】◆この項目は隠蔽されています◆
【所属】オースティアン
【職業】なし
【適性】なし
【技能】◆この項目は隠蔽されています◆
【属性】シャリアディース
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…………なんなの? この生き物。所属がまずおかしいし、属性もおかしい。年齢が隠れてるってことは、もしかして人間じゃない? よくある長寿設定の種族の可能性! エルフ……もしかしたらハーフエルフなのかもしれない。だとしたらきっと水属性だよね、その髪の色と目の色だもん! でも、職業や適性まで【なし】となると本当に、ただの不思議お兄さんじゃないよね、これは。
さて、恒例のステータスも見たところで、ひとつ釘を刺しておきますか。
「言っておきますけど、寝て起きても意見は変わりませんからね。ここまでしてもらって、本当にありがとうございます、でも、それとこれとは別の話なので! あと、わたしは好きでここに来たんじゃないんです、できるなら早く帰りたいんです。わたしが来ることがわかっていたのはどうしてですか? もし帰すこともできるなら、お願いします、家に帰してください!」
シャリアディースという名の長髪お兄さんに頭を下げる。わたしのこの状況をなんとかしてくれる人がいるんだとしたら、それはきっとこの人だと思った。
「頭を上げて、妃殿下。残念ながらそれは、私には不可能なんだよ」
「えっ…………」
ふかのう……不可能。じゃあ、無理ってこと?
「って、ちょっと待った。ひでんかってなに?」
「うん? 妃殿下は妃殿下だよ。オースティアンのお妃、つまり奥さんって意味だよ」
「妃殿下が何かは知ってる。それでなんでそれをわたしに向かって言うわけ?」
「だから、君がオースティアンの奥さんになるからに決まっているじゃないか」
こともなげにシャリア……ああ、めんどくさい!! こいつなんかシャリでいい、シャリで。銀シャリ男だ!
「なにを言ってるのかさっぱりわからないんだけど?」
「面白いね、オースティアンと同じ台詞だ。君たちはきっと似合いの夫婦になるよ」
「ならんわ!!!」
「おやおや」
せめてひと太刀じゃなくて肩でも腕でも叩いてやろうとしたのに、避けられてわたしがよろめくはめに!
「おっと。気をつけろ、アスナ」
「あ、ありがとうございます……」
「……なんで嫌そうな顔をして言う」
すかし男に抱きとめられて、わたしはしょうがなくお礼を言った。変な転び方したら怪我してたかもしれないもん。嫌は嫌だけどしょうがない!
「帰れないの?」
「難しいだろうね」
「絶対に無理ってわけじゃないんだ……」
「別に、帰らなくたっていいだろう。オレの側にいればいい」
シャリさんはわたしを見ずに言った。シャリさんには不可能、でも、他の人にならできるかもしれないんだ。
「教えてください、帰る方法!」
「………………」
「おい、オレを無視するな。妃にしてやると言ってるんだぞ、断わる女がどこにいる」
「ここにいるわー! 誰もがあんたに惚れるとは限らないでしょーがっ、このナルシスト!!」
「ナルっ……、お前、結構ズケズケ言うな……」
ふんっ、わたしは機嫌が悪いのよっ! 話の邪魔しないでよね!!
睨み付けてやると、すかし男は居心地が悪そうにわたしから目を逸らした。っていうか、離れなさいよ、いい加減!!