すべては風の赴くまま?
うう、本当はこれから先のことについてとか、お願いがあって話を振ったのに、クリームくんの生い立ちを聞いて泣かされてしまった……。
この世界、過酷すぎない!?
特に、頑張ってるひとたちの方がつらい目にあってる気がする。
「そろそろ仕事に行く。お前は部屋にいろ、アスナ」
「ま、待って! ひとつだけお願いがあるの……」
立ち上がったクリームくんに、待ったをかけるわたし。
このお願いが、重要なんだよ〜〜〜。
「言ってみろ」
座りもせずに、クリームくんはわたしを見下ろしてきた。視線が冷たい……。
「あのね、ジルヴェストにいる友達に、無事を伝えたいの。だから、伝書機、貸してくれませんか」
「…………」
「ダメ?」
「伝書機って何だ」
「えっ!」
わたしは伝書機についてクリームくんに説明した。途中から座って話を聞いてくれたんだけど、返事は素っ気なかった。
「無理だな。あちらの国まで手紙を届けるのに、現状、風船か何かを使うしかない。あちらは孤島だし、海路は暴れ海竜によって封鎖されている。そして、その空路を使う手段だが、結界によって断絶中だ」
「あうう〜〜〜」
結界は!
もうないんですけど!
そんなことは言えない!
「あきらめろ」
「う〜〜〜。じゃあ、ね、外に出てもいい?」
「…………ダメだ」
「ちょっとでいいから! お願い! 逃げないから〜〜」
「ダメだ。俺様の部屋にいろ」
「ケチっ! じゃあ、見張りの人は部屋の外にいさせて!」
「……俺様の部屋で何をするつもりなんだ? ひとに言えないようなことか?」
「気が散るの!」
クリームくんは「わからない」っていう顔をした。
そこはわかれ!
「外に出してくれないなら、せめてひとりにして! クリームくんの部屋でオルゴール聞きながらお菓子かじって本でも読んでるからぁ!」
「……子どもか」
「子どもでいいもん!」
わたしの主張にクリームくんはやれやれと首を振って、呆れた顔で許可してくれた。
くっそう!
でもこれも、ソーダさんと連絡を取るためなんだ!
アイスくんが来てくれてもいいし! 殴るけどな!
「アスナに何か菓子をやれ。毒が入っていないものをな。この女を殺しても、俺様の損にはならんぞ」
「ここにいるひとたちのことは信頼してるんでしょう? わざわざそんなこと言わなくてもよくない?」
「勝手に聞いているかもしれないヤツに言っているんだ。俺様が憎くとも、この女を殺すタイミングは俺様に任せたほうがいいぞ。この国を少しはマシにしたいならな!」
「死刑宣告やめて!?」
このカス〜!
カス王子もといクリームくんがお仕事に行ってから、わたしはその王子さまの部屋にこもった。部屋の掃除をじっと眺めていたのも、毒殺対策と思うと涙が出てくるよね。
わたしはワゴンいっぱいにお菓子とジュースを用意してもらって籠城だ! 窓を開けてソーダさんを呼ぼう!
「ソーダさぁん! いるなら来て!」
「いるさ」
「いたぁ!」
いたよ!
ギター片手にめっちゃ浮いてる!
「よかった〜〜〜」
「人間ちゃんは、あんまりよろしくない状況みたいだね」
「わたし、アスナです」
「そうだったそうだった」
大丈夫かなぁ、このひと……ひと?
でも、来てくれてよかった。わたしがクリームくんに「殺す」宣言されてもパニック状態に陥らずに済んだのは、こうして、助けに来てくれる当てがあったから。事実、来てくれたしね。
「ソーダさんにお願いがあるの」
「いいとも。だがその前に、君に謝りたいっていう子が来ているよ」
だれ……?
もしかして、アイスくん?
「おいでよルキック。今こそ言うべき時ってやつさ」
「ふえ〜〜〜ん、ごめんね、アスナちゃ〜ん!」
「えっ、なに?」
いきなり足に抱きついてきたのは、アイスくんと一緒にいた三歳児くらいの、金髪の子だった。確か……光の精霊、クッキーくん!
「泣かせちゃって、ごめんね! アイスがひどいこと言ったでしょ? ボク、止めたかったんだけど、どうしたらいいかわからなかったんだよ〜〜〜!」
「あの場にいたの? 見えなかったけど……」
「隠れてたの。本当にごめんね。アイスのこと、嫌いにならないで〜」
……それはちょっと。
無理かな。
クッキーくんを撫で撫でしながら、わたしは何も言えなかった。
「アイスのこと許してあげて! じゃないと、あのまま出られなくなっちゃう〜〜」
「どういうこと?」
その質問にはクッキーくんじゃなくてソーダさんが答えてくれた。
「昨日、アスナが大泣きしていただろう? それがアイスのせいだと知って、クォンペントゥスが怒ってしまったのさ。だから、彼は今、洞窟に閉じ込められているよ」
「ええっ、コンちゃんが?」
「そうなんだよ〜。だから、許すって言ってよアスナちゃ〜ん!」
なるほど……。
それは、ビックリだ。
「わかった、許してあげる。だから、クッキーくんはそれをコンちゃんに伝えてくれる?」
「ありがとう、アスナちゃん! さっそく行ってくるね〜」
「いってらっしゃ~い」
パアッと笑顔を浮かべたクッキーくんは、金色の髪を揺らして、すごく嬉しそうに消えていってしまった。コンちゃん、これで許してくれるかなぁ?
「ソーダさん、あのね」
「おっと待った。説明役は苦手なのでね。ちょうどいい先生をお呼びしたよ、アスナ。闇の精霊、グルニムエマ・カロンさ!」
ソーダさんはパチンとウインクひとつ。
相変わらず、軽い! チャラい!
「あのね、それより、お願いがあるの。わたしの無事を、ゼリーさんに伝えてくれない? 詳しいことはさておき、とにかく、無事だってこと。伝書機は受け取れなかったの。今すぐここを動くことはできないけど、とにかく、ジルヴェストには帰るつもり。それから、向こうのことだけど……ううん、とりあえず、伝えてくれる?」
「お安い御用さ」
「もしかして、ゼリーさんからも同じことを言われてる……?」
「いやぁ、あれからジェロニモには会ってないよ。私も色々忙しいしね〜。アスナの声はよく聞こえるから、ルキックと一緒に来てみたけれどね」
「そう……。何度も来てもらうのは申し訳ないなぁ。伝書機、もう一度飛ばしてくれるように言ってもらっていい?」
「う〜〜ん。この城の作りじゃ、難しいかもだよ。さっきもひとつ、拾ったし。ちなみに、魔力切れでメッセージは消えているよ」
「あるの!? ちょうだい、次の連絡に使うから!」
「いいとも」
リボンチョーカー型の最新機……!
良かった、これで次に連絡したいときに使える!
「じゃあ、私も行くね」
「ありがとう、ソーダさん!」
「ふふっ、すべては風の赴くまま、さ」
その風はアンタでしょうが。赴くまま、じゃなくて、さっさとゼリーさんのとこへ飛んでって!




