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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ノーマルルート
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王子さまのお家事情がフクザツすぎる?

 ここに来て二日目の朝。

 今日は食堂で食べるから、あのマズイ冷えたお肉は出てこない! と、いいなぁ〜。


 心なしか、お付きのひとたちの態度も柔らかくなっている気がする。どこかの窓が開いているのか、風を少し感じた。


 風といえばソーダさんを思い出す。外に出たいなぁ……そしたら、ソーダさんに会えるかもしれないのに。クリーム王子に頼んでみようかな? オルゴール直してあげたからか、ツンツンしてるけどトゲトゲしくない感じだし。


 そうそう、あのオルゴールのメッセージは、クリームくんの亡くなったお父さんからのものみたいで、すごく感動していた。一緒に入っていた写真……いつか、返さなくちゃね。


 でも、どうしてあんな写真が入っていたんだろう。

 普通、そこはクリーム王子のお父さんの写真を入れるとこじゃない? どう見たってアイスくんの親戚……もしくは、アイスくんのお父さんの写真に思えるけど。


「ついたぞ」

「あ、はい。わたしが開けるのね」


 木のドアを開けたら、美味しそうな匂いが漂ってきた。大きな食堂の真ん中に、大掛かりな移動キッチンセットがあって、そこにシェフっぽいひとが立っている。


 本当に目の前で調理してくれるんだ!


 席についたらさっそく、卵が割られてかき混ぜられて、ふわふわのオムレツになってお皿に盛られた。わぁ……すごい!


「美味しそう! いただきます!」


 ナイフでひとくちサイズに切って口に運ぶと、とっても美味しい! あ〜〜〜ん! 最高!! ふわとろのオムレツが作れるのはシェフの証だよね〜〜〜!


 久しぶりの、っていうか昨日の朝ぶりの食事だ〜〜〜!

 焼いたベーコン、オニオンスープ、クリームパスタも出てくるの? 嬉しい! 美味しい〜!


「おかわりは好きなものをお申し付けください」

「じゃあ、もうひとつオムレツください! あと、オレンジの盛り合わせも」

「かしこまりました」


 幸せ〜〜〜!


「朝からよく食うな」

「昨日のブランチから食べてないからね!」


 反論すると、「それもそうだな」と軽く返された。

 わたしが美味しく朝食をいただいている間、クリーム王子はゆっくり、何もかもぐちゃぐちゃの細切れにして食べていた。しかもどのメニューも一度そのぐちゃぐちゃ状態で味見をさせている。めっちゃ毒を警戒してるな!


 なんていうか、食欲なくなるからクリームくんの食事風景はこれから先も見ないでいよう。今はとにかくオレンジ食べたい。


「クリームくんもオレンジ食べなよ」

「…………?」

「王子さまに言ってんのよ」

「クリームくんとは?」

「クリエムハルトって名前だから。ほら、長いし」

「馬鹿か貴様は。きちんとクリエムハルトさまと呼べ」

「え〜〜〜? いいじゃない、親愛の情だよ」

「一方的に押しつけるな。だいたい、最初に俺様の上に落ちてきたときは、カスだの何だの言っていたろう」

「だってあのときは態度が最悪だったんだも〜ん」

「俺様の態度は今も変わらん」


 そうかなぁ?

 けっこう話せるようになってると思うけどぉ?


 オレンジ、受け取ってくれたしね。

 もっとちゃんと食べて、もう少し太れ! あと運動して大きくな〜れ!


 食後に美味しくないお茶を飲みつつ、ゆっくりする。

 気になることはたくさんあるけど、どれから聞こうかな……。


 さっきのオルゴールのこともあるし、まずはクリームくんのお父さんについて聞いてみようかな?


「王子さま、さっきのオルゴールなんだけど、あれって王子のお父さんからの贈り物なんだよね? どんなひとだったの?」

「…………。そうだな」


 お?

 もしかして話してくれそうな流れ?

 てっきり、「お前には関係ない」で済まされるかと思ったのに。


 うつむきがちに言葉を選んでいたクリームくんは、まっすぐわたしに向き直った。


「まず、最初に言っておくが、我々王族の暮らしは市井の者とは違う。私を育てたのは乳母と教育係で、それすら頻繁に入れ替わった。兄も姉もいたが、それもすでにない。会ったことすらない。実の母親とも、数えるほどしか顔を合わせたことがない。そして、触れたことは一度もない」


 うわぁ……。壮絶……。


 えっ、ていうか、自分のこと「私」って言った?

 普段の「俺様」しゃべりは演技だったのかな……。


 肩肘張ってない今のクリームくんは、なんだか、とても頼りない小さな男の子にしか見えないや。それも、とても寂しそうな。


「そんな中、父とは比較的こまやかな交流があった。あのひとは、十三年前に反乱を起こそうとした少数部族の王で、失敗して処刑されるはずだったところを女王に気に入られて助命された」

「えっ?」

「自らの身と引き換えに、率いていた部族の、反乱に加担していなかった者たちの命を助けてくれるよう嘆願した。女王は約束を守り、そして、私が生まれた。父は城に軟禁されていたが、会うことは許されていた。……まぁ、そう頻繁にとはいかなかったがな。私を抱きしめてくれたのは父だけだ」


 そ、それは……!

 なんて言ったらいいのか……。


「父の髪は私によく似ていて、眼はとても赤かった。……この目がもっと赤ければ良かったのに。そうすれば、母上も……」

「クリームく……」

「まったく、つまらん話だ。父はもう死んだのだから。そろそろ一年と半になるか。それで、他に聞きたいことは?」

「ううん、ないよ。お話、聞かせてくれてありがとうね」

「べつに」


 そう言って横を向いたクリームくんの顔は無表情で、何を考えているのかまるで見えなかった。辛くないわけ、ないと思う。しかも、お父さんが亡くなったのもほんの少し前のことだ……。


「立ち入ったこと、聞いてごめんなさい」

「謝ることはない。皆、そういう話を俺様に聞かせてくるというだけだ」


 なんだと!

 それはちょっと……周りの皆さん!?


「父は毒殺されたらしいしな。警戒しろということなのだろう」

「だからって……。なんか、みんな、酷いよ……」

「……どうして、泣く?」

「泣いてないし!」


 さっきから目許をぐしぐしと手でこすってたこと、バレてたかな。バレてるよね! うう、止まれ、涙!

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