王子さまはひとりぼっち?
出てきた食事はすごくシンプルだった。なんて言うか……茹で卵と茹でたお肉と、生野菜……そして全部テーブルの上で塩かけるだけ……。えっ、嘘でしょ?
「あのさ……」
「何だ」
「なんでもない……」
言いたくないけど、この子がこんなに細くて、年齢以上に幼く見える原因は、この食事にあると思うんだ。イジメにでもあってるのかしらと思うような酷いメニュー。だって、建物の中はこんなに豪華なのに、食事だけ進化しない文明なんてある? お肉も、なんかヌルいし……。
「ねぇ王子さま、これ、美味しい?」
「不味いに決まってるだろ、こんなの豚の餌だ」
「じゃあ、なんで……」
「お前が食堂に降りられないからだろう。だから、こんなメニューしか出てこない」
「いや〜、もっと何とかなるって、普通。ドレッシングとか、ないの?」
「あるぞ。毒が入っているかもしれないけどな」
「…………」
なるほどね。このクソ不味いごはんには意味があるわけだ。凝っていて温かくて味が濃い料理には毒が入っててもわからないから……。まったく、どんな生活してるんだか。
「食堂に行けば、美味しいものが食べられるの?」
「ああ。目の前で作らせるからな。毒見役もいるし」
「ふ、ふ〜〜ん」
毒見役、ね。
わたしも、もしかして……? まさかね!
朝昼兼用のブランチを食べ終わって、クリームくんは歯を磨いて着替えてといった身支度をしていた。それもかなり時間をかけて。それが済んだら女の人が来て、掃除をしていった。そしてそれもずっと監視してる。やりづらそ……。
「この女を適当に着替えさせろ」
クリームくんはそう命令して部屋を出た。そして自分の部屋の扉にいくつも鍵をかけて、どこかへ行ってしまった。わたしは女のひとに連れられて別行動。結局、パジャマで廊下を歩くハメになってるけど、それは仕方がない。
連れて行かれた先で着替えさせられる。何を話しかけても一切返事がないのが怖いよ〜。ふわふわした生地の白い長袖シャツに、青いロングワンピ、その上に薄ピンクのショールをかけられた。下はあんまり伸びない生地のストッキング、靴は焦げ茶色の編み上げショートブーツ。髪の毛はハーフアップにされて、ワンピと同じ青のリボンを結ばれた。
「あの……わたし、これからどうなるの?」
もちろん答えなんてない。
わたしは王子さまを探すことにした。
お城の中をウロウロしてわかったことは、ここはあまりにも人が少ないってこと。ジャムの城と比べ物にならないどころか、所々管理が行き届いていないくらい、働いている人間がいない。
閑散としてるって言葉がピッタリ当てはまる。
しばらく歩いていると、王子さまが癇癪起こしている声が聞こえてきた。
「なぜまだ奴隷たちが送られてきていない! いったい何度目だ!? それに、とっくに工場に火を入れてなきゃいけない時間なのに何ひとつ稼働していないのはどういうことだ!」
怒鳴られている相手は誰だろう。覗いてみると、オジサンが頭を下げてひたすら謝っていた。でも、王子さまはそれすら気に入らないみたい。
「謝罪が聞きたいんじゃない、さっさと仕事をしろ! 魔力値の測定はどうした、まさかそれもまだなのか!? 新兵器の披露式の進捗は? 招待客からの返事はどこまで埋まった? ……お前は部下を働かせることもできないのか。来月にはお前の首が城門に晒されていると思え! さっさと行け、このグズ!」
ありゃ〜。
オジサンは震えながらノロノロと出ていっちゃった。
ギースレイヴンはギースレイヴンで大変そう。クリームくん、まだ12歳なのに。他に仕事ができるひとはいないのかな? 工場が止まってるのは、わたしとしてはホッとするとこだけどさ。
「クソッ、役立たず共が……! もう、目の前まで来ているというのに……」
悔しそうにそう言って、クリームくんはテーブルに拳を叩きつけた。痛そうだ……すごく。背中がまるで泣いてるみたい。
なんか、こんな暴君なのに、わたしのことも奴隷にしちゃった嫌な子なのに……可哀想になってきちゃった。
「おい、そんなところにいないで入ってこい、アスナ」
「あっ……」
バレてた!
こっちを向いた王子さまの目は相変わらず燃えてる火みたいで、ぜんぜん泣いてなんかなかった。仏頂面も相変わらず。
「そろそろお前にも役に立ってもらうぞ」
「わたし? まさか、血を抜いてバラまくの……?」
「へぇ、よくわかってるじゃないか」
ニヤ〜と笑う王子。
ゾゾゾ〜! やだやだ!
「絶対やだ! わたし、抵抗するからね!?」
「フンッ、それはまだ先の手段として取っておく。まずは、我らが仇敵、シャリアディースについて知っていることをすべて吐いてもらおうか」
「きゅうてき? っていうか、なんでシャリアディース? あの国、千年くらい鎖国してなかったっけ……」
なんで当然のようにシャリアディースの名前が出てくるのかな? アイスくんが偵察に来てたから知ってるのかな?
「そうだ。あの結界に守られた島国ジルヴェストは、我らがギースレイヴン国の憎き敵にあたる。およそ千年前、あの男は我らが王族を拐かした」
「かどわかしって……さらったってこと?」
「そうだ。そして、二百年ほど前には、海に暴れる海竜を解き放ち、我が国に甚大な被害を与えた!」
何やってんだアイツ。
「あの男のせいで、この国がどれだけの要らぬ労苦を負ってきたか……。だが、それも終わる。力をつけ、新たな兵器を開発した我々は、あの海竜を屠る……! そして、ジルヴェストに攻め込み、あの男が奪った魔力を取り戻すんだ!」
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