奴隷始めました…?
誰かの苦しそうな声で目が覚めた。
ここ、知らない部屋だ……。
寝ぼけた頭で周りを見回して、ふっと、ベッドの中にもうひとりいることに気がついた。カスタード色の髪の毛……王子様だわ。ウンウンうなされてる。頭をヨシヨシしてあげたら、少し収まったみたい。
今がチャンスかな。
ベッドを抜け出そうとすると、ぐっと抵抗がある。振り向くとクリーム色の王子様がわたしのパジャマを握りしめていた。
「行かないで……父上……」
「……しょうがない、か」
わたしは諦めてベッドに入り直した。クリームくんを安心させるように背中をポンポンして、ステータスを呼び出す。昨日は結局、見られなかったもんね。まずはクリームくんのを確認しようかな。
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【名前】クリエムハルト
【性別】男
【年齢】12
【所属】ギースレイヴン国
【職業】王子
【適性】恐怖政治
【技能】◆この項目は隠蔽されています◆
【属性】暴君
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……いやこれ、まんまじゃん。
なにこの、適性。恐怖政治ってダメじゃん。ああ、でも、国民を奴隷にしてこき使ってるんだっけ?
っていうか12歳……。12歳でこのステータスは、もう色々手遅れっぽいなぁ。どういう教育されてきたのよ?
あと、属性が暴君なのがホントまんますぎて笑えない。その暴君に捕まっちゃったんですけど!
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【名前】久坂 明日菜
【性別】女
【年齢】17
【所属】ギースレイヴン
【職業】奴隷
【適性】※※※
【技能】お菓子づくり
【属性】ツッコミ
【魔力】5/100(%)
【備考】シャリアディースによって連れてこられた・クリエムハルトの奴隷
☆ ☆
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ぎゃ~~~~~~~!
わたし、奴隷になってる~~~~!?
嘘でしょ……こんな、首輪ひとつで……。
わたし、どうなっちゃうんだろう。これが外せなかったら、このままずっと、ここに……?
「そんなのヤダ! 考えよう、どうするべきなのか……」
わたしはステータスを確かめた。所属と職業、それから備考欄が変わってる。嬉しいことに、一度結界の外に出て底を尽きかけていた魔力が、ここにきて一番回復してる! どうして!?
それから、星が増えていた。
白の星ってことは、さらに開いて中を見ることができる! わたしは白い星をタップした。
「これって!」
ステータス画面に表れていたのは、たぶんギースレイヴンの地図だ。大まかでしかないけど、前にシャリさんに見せてもらったのと同じ。わたしがいるのは、この、黒いモヤの中だな……。もうひとつの星には、わたしがいたジルヴェストの地図があった。スノードームみたいな、あの国の。
まあ、そっちはいい。
問題はこのギースレイヴンの地図ね。見えにくいけど、モヤの中に丸い点がある。きっとこれが今いるお城。前に、ソーダさんが連れてきてくれた丘が、地図の一番左端……縮尺けっこう大胆だなぁ。丘の向こうに林があって、その先はすぐ海だったんだね。ここが西に夕陽が沈む世界だとすれば、この地図の上がそのまま北だ。
わたしが連れて行かれた村の位置はよくわからない。建物が書き込まれている場所はあるけど、規模が掴めないもん。わたしもあの村に長くいたわけじゃないし、ちゃんと見て回れなかったから。
兵器を作ってるっていう工場は、この、モヤが一番濃いところかな? できればこの目で一度見ておきたいけど……。わたし、この城から出してもらえるんだろうか? それとも……。
あの奴隷たちのリーダーが言っていたことを思い出す。
『王子はあんたの心臓を取り出して、血を撒いて大地を浄化する気さ! そうしたらもっともっと俺たちから毟り取れるからな!』
…………わたし、殺されちゃうのかな。お母さん……。
じんわり滲み出てきた涙をぬぐう。
ダメ、泣いたら。この子が起きちゃう。それに、今泣いたら、わたしきっと立ち上がれなくなっちゃう。泣くならせめて、もっと安心できる場所で……。
そのとき、クリームくんがモゾモゾ動き出した。やっぱり起こしちゃったのかな。瞼が開くとオレンジ色の瞳が現れる。宝石みたいで、綺麗なんだよね。瞳だけは。
クリームくんの表情が、すぐにギュッと不機嫌になった。
「……貴様、馴れ馴れしいぞ? わきまえろ」
「なっ」
コノヤロー!
「アンタがわたしのパジャマを離さなかったんじゃないのよ!」
「起き抜けに大きな声を出すな、バカ!」
「バカはそっちじゃないの! このカス! カス王子!」
「まだ言うか貴様! その口、縫い付けてやろうか!?」
「そっちこそ!」
黙ってれば可愛いのに!
ったく、まだ子どもだからと思って側にいてあげたのに、生意気!
わたしたちはいがみ合って、それからお互い顔を逸した。カス王子は立ち上がって、それから大きな声を出した。
「あ〜〜〜っ! もう昼過ぎじゃないか! どうして誰も起こしに来なかった!?」
「えっ、そうなの?」
時計を見れば、確かに十二時を過ぎてる。……急にお腹が空いてきたな〜。
「ごはんは?」
「クソッ。着替えて食堂に降りるぞ」
「着替えてって、服は?」
「俺様の服はクローゼットだ、取ってこい」
はぁ? 服持って来いって?
まさか着替えさせろとか言わないよね? なにこのお子様。
「そうじゃなくて、わたしの服は?」
「そんなの知るか」
「はぁっ!? じゃあ、わたしはどうなるわけ? どこでお昼ご飯食べればいいのよ」
「………………」
おい!
カス王子は、枕元のベルを鳴らした。昨日みたいに。
そうすると、部屋の中に軍人さんが入ってきた。
「食事をふたり分、ここに届けろ」
それを聞いた軍人さんは、何も言わずに一礼して部屋を出ていった。ふたり分……わたしの分もあるんだ、一応。
「ありがとね」
お礼を言ったら変な顔をされた。
なんで?




