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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ノーマルルート
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どうして険悪になっちゃうの!?

「それに、ジェロニモちゃんは兄さんの命の恩人でもあるしね〜」

「えっ、なんですか、それ」

「あら兄さんてば、覚えてないの〜〜?」


 何それ!

 気になる〜!


 わたしたちはカーリー先生の言葉を待った。


「兄さんてば、ジェロニモちゃんとふたりで遊んでるとき、魔力切れで倒れたのよ〜。ジェロニモちゃんが必死に運んだんだって聞いたわ。そこに宰相閣下が通りかかって、どうにか助かったのよ〜〜」

「……宰相閣下が? まさか城での出来事ではないでしょうに……。なぜそんな所にいらっしゃったんでしょうか。記憶が曖昧です。カールはその場にいなかったんですね?」

「そうよぉ? だって、アタシがジェロニモちゃんと出会ったのは、ウチに引き取られてからだもん。最初にジェロニモちゃんと遊んでたのは兄さんよ」


 わ〜、そうだったの?

 っていうか、あのシャリさんが子ども相手とはいえ人助け……胡散臭〜い!


 そんなわたしの気持ちが移ったわけじゃないだろうけど、エクレア先生も顎に手を当てた。


「ますます、わけがわからなくなりました。カールと一緒にいなかったということは、自宅を離れていた時期ですね。お祖父様と一緒にいたのでしょう。もしかすると、結界の外に誤って出てしまったとか……」

「え、待ってよ兄さん、それってどういうこと〜?」


 カーリー先生が首を傾げる。

 それは、わたしも気になるよ!


「先生、もっと詳しく教えてくれませんか?」

「ええ、そうですね。まず最初に考えたのは、結界の存在についてでした。私はこれまでずっと、そんなものがあるなんて知りませんでした」

「そーね、それはアタシも同じだわ」

「でも、それは私たちが生まれるずっと昔からそこに存在し続けていました。つまり、私が行ったことのある場所は結界の中だけということになりますね」


 そうだよね。結界のことを知らなくたって、絶対に抜けられない、触ったら危ない結界はそこにあり続けていた。


「しかし、ジェロニモの村はその外にあるんです。私たちが出会うためには、私がジェロニモの村に行くしかありません。もしくは、そのすごく近くまで。もしかしたら、結界には小さな穴が……子どもなら通れるくらいの穴が開いていたのではないでしょうか?」

「なるほどね? 小さい頃の兄さんはお祖父様に連れられて、ジェロニモちゃんの村の近くまで行ってたかもしれないワケね! それで、結界の穴から出ちゃったのよ!」

「先生は魔力が少ないから、結界の外で魔力切れを起こしたってことですか?」

「ええ。ジェロニモは私を結界の中へ運び、そこに宰相閣下が通りかかったのだとしたら?」


 わたしは大きく頷いた。


「シャリアディースなら、結界の穴を塞ぐはず! だからゼリーさんは村に帰れなくなっちゃったんだよ!」

「それでお祖父様はジェロニモちゃんを連れて帰って、庭師夫婦の養子にしたんだわ。ジェロニモちゃんが、兄さんの命の恩人だからよ」

「……もしかしたら、そういうことなのかもしれませんね」

「きっとそうだよ!」


 わたしとカーリー先生は大きく頷いた。

 ゼリーさんに当時のことを聞けば、それで答えはハッキリするはず。いや~~、謎が解けるって気持ちいいね!


「疑問が残るとすればただひとつ。お祖父様はジェロニモのいた村に何の用事があったのか、ということです。きっと、そこに村があること自体は知っていたはず。そもそも、この国の人間は“果て”まで行きません。行く必要もなければ行く理由もありませんからね」


 な、なるほど……。

 結界があるって知らないひとが多いのに、間違って触っちゃって蒸発したりとか、「ここに壁があるぞ〜」なんて大騒ぎにならないのは誰も近づかないからだったってこと?


 この国には、この島の地図しか存在しない。国を守る結界のことも、その外にある海や大陸のこと、そしてこの国に攻め入ろうと企んでいる外国のことも知らされていない。国王であるジャムの魔力で人々の生活は成り立っていて、働かなくても生きていける……。


 そして、知らないままに結界に魔力を吸い上げられて、魔力切れを起こして苦しんでいるひとがいる。誰も気づかないけど、寿命を削られて長生きできない。


 すごくイビツ、だよね。歪んでる。

 たくさんのひとが暮らしているのに、誰も海へ出て行かないのも、誰も結界の先について知ろうとしないのも、ぜんぶシャリアディースが仕組んだことなのかな?


 改めて、アイツが怖くなった。


「お祖父様は隠された村のことを知っていたという仮定で話しましょう。お祖父様はそこに何をしに行ったと思いますか? カール?」

「えっ! ア、アタシ? えっと、そうね。調べ物をしに?」

「たとえば?」

「ええっ!? えっと、ええっと……ゴメン降参! っていうかわかるわけなくない?」

「そうですね。わからないです」

「ちょっとぉ!」


 わ~~、エクレア先生、めっちゃ笑顔なんだけど!

 こんな一面もあるんだ~~。


「私は、お祖父様は他の誰にも見つからない隠し場所を探していたんじゃないかと思います。あの頃すでにかなりの高齢でしたし、自分が死んだときのための準備をしていたんじゃないかと」

「死、ってちょっと。兄さん!」

「お祖父さまの手記ですが、どうして父は場所を知らないんでしょう。もしかして、この屋敷はすでに捜索されていて、それでも見つからなかったから私に託したんじゃないでしょうか? お祖父様に一番近かった私なら、見つけることができるかもしれないと思って……」

「何それ! アタシたちのしてたことは無駄だったっていうワケ!?」

「無駄ではないですよ、確認作業です。本の虫干しもできたし、悪いことばかりじゃありませんよ」

「そんなの屁理屈よ!」


 カーリー先生が怒ってる。わたしも、これはちょっと、ムカッとくるかな。

 先生たちのお父さん、ちゃんと言っておいてよ、そういうことは!


「兄さんはお祖父様のお気に入りだったものね……」

「…………」


 あっ、空気が凍った。


「わかった、信じるわよ、その仮説。行ってみましょうよ、ジェロニモちゃんの村まで。そうすれば、答えは出るはずでしょ」

「……今日はもう、遅いですよ」

「なら、明日のアサイチよ。いいわよね、兄さん。アスナちゃんは? 一緒に来る?」

「い、行きます!」

「いいわ。じゃあ、そういうことで」

「あっ……」


 カーリー先生は、止める暇もなく部屋を出て行ってしまった。怒ってるよね、あれは。

 その背中を、エクレア先生はじっと見ていた。そして振り向いて、寂しそうに笑った。


「アスナさん」

「は、はい」

「寮までお送りしましょう。それか、急げばカールが発つ前に一緒の馬車に乗れますよ」

「え、っと……。じゃあ、アルクレオ先生に送ってもらっても、いいですか?」


 先生はちょっと驚いた顔をして、頷いてくれた。

 ふたりで馬車に揺られながら、何も話すことができなかった。途中まで、すごくいい雰囲気だったのにな。先生たちの間に、何があったんだろう。


 明日は、もうちょっと、空気が優しくなってればいいな……。

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