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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ノーマルルート
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これでひと安心?

 ドーナツさんの手のひらの上、透き通った虹色キャンディ。親指と人差し指で輪を作ったくらいの大きさのこれを食えと彼は言う。


 マナの実だか何の実だか知らないけれど、これ、口にしても大丈夫なんだよね? 思わず助けを求めて先生の方を見ると、頷いて講釈を始めてくれた。


「マナの実とは、それを摂取した者の魔力を僅かながらに回復させてくれる物で、そのメカニズムは……」

「ごめんなさい、もういいです」

「………………え?」


 とんでもなく長くなりそうだったので、わたしは先生の目の前にあるキャンディをひょいっと取り上げて、ビニールをむしり取りパクッと口の中に入れた。甘酸っぱさが広がって、「あ、これ美味しい!」と思った瞬間、心臓がドックンと大きく一回跳ねた。


「んっ……!」


 頭が後ろに引っ張られるようにしてよろめいた。

 一歩、二歩、後ずさりしてバランスを取ろうとしていたところ、背中にトスンと当たるものがある。何にぶつかったんだろうと振り向くと、ゼリーさんがわたしの肩を両手で支えてくれた。


「…………」

「あ、ありがとう……ございます」


 いかめしい顔して黙っているけれど、本当はとても気にかけてくれている……のかな? 何を考えているのか読めないけれど、その赤い目は怒っているようではなかった。


 そんなわたしたちに気づいていない様子で三人は何か言い合っている。


「だから、ちょっとでも回復するんだから、舐め続けてればいいんだろ?」


 と、ドーナツさんが言えば。


「マナの実は貴重なものです、若枝の騎士ともあろう人間が、そのように無責任なことを言わないでいただきたい」


 と、先生が反論し。


「かき集めればいいじゃないですか~、王様の財力で~」


 と、蜂蜜くんがにこやかに無茶を言っていた。

 あっはっは~、腹が黒いだけある。


 エクレア先生が「そういう問題ではありません!」と一人眉を吊り上げていた。思わず他人のふりをしたくなって遠くを見詰めていると、まだわたしから離れようとしないゼリーさんが、ちょっと横にずれてわたしを見た。


「平気なのか」

「へ?」


 キャンディの棒が口から突き出しているわたしはすごくマヌケに見えるだろうな。それは嫌だと取り出そうとすると、「そのままでいい」と止められた。


「たった今ふらついたのは、魔力が急に回復したせいだろう。かなり大きな波を感じた」

「なに?」

「もう補給は必要ない。これからは自然回復するはずだ」

「…………。ええっ!? じゃあ、わたし、キスしなくていいの!?」

「ああ」

「やった~! よかっ…………ぅっ」

「急に動くんじゃない。変化が大きすぎて負荷がかかっている。……よりかかれ」

「でも……」

「いい。少し休め」

「あ……」


 ブレザーよりも硬い制服に頬が押し当てられる。

 頭ごと抱え込まれると、なんだか窮屈なような、安心するような変な気持ちになった。


 じわ~っと頭の中に広がっていた痺れみたいな不快感のせいか、まぶたが重く感じて目を閉じてしまう。こんな風に、大きな男の人から抱きしめられたのなんて、きっと昔のこと過ぎて覚えていない。お父さんに抱きついたりなんて、いつからしなくなっちゃったんだっけ?


 少しだけ、もう少しだけ、こうしていたいなぁ……。






 とかなんとか思っていたら夜だった。

 夜なんですけど! ベッドでぬくぬく寝てたんですけど!! 


 真っ先に薄暗い部屋のカーテンを開けて空を見た。太陽は沈みかけていた。

 まさかと思って全身を確かめる。


 制服、着てる! 靴、履いてる!! なんでだよそこは脱がしていいよ!!

 ポニーテール、そのままっ! 痛いわ!! 逆に!!


 見回すと、ベッドと鏡台しかないこの部屋は、それでもわたしの部屋と同じくらい広かった。ここに本棚と勉強机とテレビを置いて、ローテーブルとクッションを置いたらちょっと手狭でかわいい、女の子の部屋になると思うんだ~。


 カーテンはできれば、今のやつみたいに風景が描いてあるような、なんか気取ったやつじゃなくて。ハートが散らしてあったり、星の柄のやつでいい。ベッドはなんとお姫様みたいなレースのカーテンが垂れ下がっているので、これはこのままで……。


「って、やってる場合か! 夜じゃん!!」


 思い出そう、最後に何があったのか。

 わたしはなにしてたんだっけ?


 そう、ドーナツさんから飴をもらって、舐めていた。

 エクレア先生はそれをマナの実だと言った。

 それからゼリーさんは……「魔力は回復した」と言って、抱きしめてくれた。


 「っあああああああ!!!」


 それから、寝ちゃったんだ、わたし。

 飴くわえたまま!! あのひとたちにだらしない寝顔を見られて!! こんちくしょう!


 ひとしきりのた打ち回って考える。

 ここはどこだろう。そしてわたしは帰れるんだろうか? 


 ベッドの脇にはわたしの学生鞄とクッキーもあった。

 そっと中身を覗いてみると、ノートに教科書に筆記用具。スマートフォン。他には制汗スプレーやらリップクリームの入ったポーチやら。


 とにかくキスは免れた。けど、これからどうなっちゃうんだろう。

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