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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ノーマルルート
49/280

分岐点 3

 三歳くらいのちっちゃな子が、金髪を揺らしながら走ってきてアイスくんに抱きついた。

 男の子か女の子かわかんないけど、笑顔が可愛いね。

 きっと、この子がアイスくんの言ってた精霊くんだ。


「アイス、うまくいったんだね~。よかった~」

「アスナさん、これが光の精霊のルキック・キーク。ルキック・キーク、このひとがアスナさんだよ」

「うん、知ってる~! アイスの記憶で見た子だもん」

「ルキック!」

「よろしくね、アスナ!」

「よ、よろしく……」


 記憶で見たって、なに?

 金色の柔らかそうな髪の毛に、おんなじ金色の瞳のクッキーくん。まるでキューピッドみたいな格好をしてる。これで弓でも背負ってたら本当にキューピッドだわ。


 ところで、わたしが呼ばれた理由が知りたいかな。

 それと、なんか視線を感じるから移動したい。どうも建物の陰から見られてる気がする。


「どこか座って話さない? わたしに何か、助けてほしいことがあるって聞いてきたんだけど?」


 わたしの言葉に、金髪キューピッドのクッキーくんはにっこり笑った。


「あははっ、呼んだのボクじゃないよ!」

「そ、そうなんだ……」

「そういうのはアイスが説明するよ。それにしても、すごい魔力だね、アスナ」

「へ?」


 すごい魔力って……、わたしの魔力って3しかないんだけど?

 それとも、「すごい魔力少ないね」って意味?


「どういうこと?」

「ああ、そっか。自分では気づいてないんだね。君の魔力ってば桁違いなんだ。君が来ただけで、ここの大地が少し息を吹き返したよ」

「えっ……」


 わたしが来ただけで……。

 その言葉はデジャヴ。そういえば、シャリアディースも言ってなかったっけ。わたしが落っこちてきたおかげで、障壁は修復されたって。ふんだんな魔力を持つ、一定の年齢の女の子を待ってたんだって。


 じゃあ、まさか……。

 わたしは自分のこと、魔力がないって思い込んでた。だって、数字が3しかないんだもの。

 もう魔力なんか使い切っちゃって、なにひとつできないんだとばかり思ってたけど!


「わたしに魔力があるの!? ねぇ、それってどうやって測るの!」


 わたしはクッキーくんの前にひざをついていた。金色の瞳に目線を合わせる。


「さあ? わっかんな~い」

「そんな……」


 クッキーはまるっきり普通の子どもみたいに笑うと、走ってどこかへ行ってしまった。

 

「待ってよ!」

「アスナさん、あの……みんながアスナさんに会いたがってるんだ……」

「えっ」


 アイスくんの後ろには、三十人くらいのひとたちがいた。女のひと、怪我をしたひと、お年寄り……みんな汚れた格好で、とても痩せている。そして、みんな首輪をつけられていた。


 そのひとたちの目が怖くて、わたしは一歩、後ろに下がっちゃった。……アイスくんは気づいてないのかな。あの、燃えるような、目に。


「アイスくん、えっと……事情を説明してくれる?」

「ここにいるひとたちは、みんな、奴隷なんだ……。強制的に働かされていて、この首輪のせいで逃げることもできない。だから、アスナさんに助けてほしくて……」


 アイスくんは自分の首輪を触りながらそう言った。

 助けるってどういうことか聞きたかったけど、ゆっくり言葉を選ぶようにしゃべるアイスくんがじれったかったのか、後ろのひとたちの中から男のひとがひとり、出てきてアイスくんを押しのけた。右腕の動きがぎこちないひとだ。怪我をしてるのかもしれない。


「あんた、この輪っか外せるかもしれないんだって? 魔力を込めりゃ、これは外れる。けどここじゃ、魔力ほどないもんはない。なぁ、これを外してくれよ。そしたらあんた、俺たちの聖女さまだよ、お嬢さん」


 なるほど、このひとたちはわたしの魔力がほしいんだ……。なんだか、気持ちが重くなる。


「……全部で何人いるの」

「さぁな。千か、それ以上か」

「せん……!」

「全員じゃなくたっていい、ほんの何十人かでいい。そうしたら、あのクソ生意気な王子殿下をぶち殺して全員解放できる!」


 おじさんがそう言うと、アイスくんが叫んだ。


「なっ、は、話が違う! 誰も傷つけないって言うから、僕は……!」

「うるせぇ、お前は黙ってろ!」

「アイスくん!」


 アイスくんが捕まるのが見える。でもそれはすぐ、押しかけてきたひとたちの向こう側へ消えてしまった。みんな、わたしのことを「聖女さま」だなんて呼んで、わたしの足元に座り込んで神様でも拝むみたいにしている。


 なにこれ。こわい。

 どうしたらいいの? 


「やめて、やめてください! わたしは聖女さまなんかじゃない!」


 叫んでも、誰も聞いてくれない……。


「どうか、首輪を外してください! お願いします!」

「この土地をどうにかしてくれぇ!」

「聖女さま! 聖女さまぁ!」


 前も後ろも囲まれて、わたしは気持ち悪さで吐きそうになる。

 頭が……割れそうに痛い。どうしちゃったんだろ……。


「待って、黙って! もうやめて……。ねぇ、先にアイスくんを離して! そうしないとわたし、何もしないからね!」


 わたしは痛む頭を押さえながら言った。

 すると、アイスくんを押さえ込んで膝をつかせたひとたちが振り返った。


「けど、こいつは王子の命令であんたを引き渡そうとしていた奴なんだぞ?」

「えっ……」

「違う! アスナさん……!」

「黙れ、裏切り者!」

「王子はあんたの心臓を取り出して、血を撒いて大地を浄化する気さ! そうしたらもっともっと俺たちから毟り取れるからな!」

「そんな……」


 アイスくん……!

 わたしを、殺すつもりで連れてきたの……!?


 泣きそうに顔を歪めたアイスくんの赤い瞳と目があった。


「違う! 僕は……僕は……!」

「黙らせろ! さぁ、聖女さま、試してくれよ。この首輪を外せるのか、外せないのか」


 もし、外せなかったら……?

 それに、外せたとして、そうしたらこのひとは王子を殺すつもりなんだよね? そんなことの手伝いなんて……。第一、首輪を外した後で解放してもらえる気がしない。ずっとわたしの魔力に頼って、利用し続けるつもりなんじゃないの?


 ここで「首輪を外したら帰らせて」ってお願いしたとして、それに頷いてもらえたとしてよ? このひとたち、わたしとの約束を守ってわたしを帰してくれると思う?


「あなたたち、きっと奴隷として酷い目にあってきたんだよね……」

「そうだ!」

「そうよ! お願い、助けて!」


 わたしの足元から、声がする。

 わたしはフラフラする頭をまっすぐに起こして、リーダーっぽい男を睨みつけた。


「つらかったでしょうね。……でも、そのつらさがわかってて、わかってるのに、今度はわたしのことを奴隷にしようとしてるんだよね?」

「ちが……」

「違わない! 外せたら今度は土地の魔力を回復させてほしいって言うんでしょ? 外せなかったら、わたしを王子に差し出して自分たちの待遇を改善してもらうつもりのくせに! そっちの勝手な事情を押しつけないで! それに、できたとしたってわたしはその首輪は外さない…………わたしは、人殺しの手伝いなんてしない!」


 わたしの言葉に、わたしの足元に座り込んで土下座までしていたひとたちが、波が引くようにいなくなった。リーダーがわたしの前へ進み出てくる。


「……そこまで言って、無事に帰れるとでも?」

「わたしの利用方法なんて、知らないくせに。王子に突き出すなら、そうすれば?」

「痛い目にあわされてぇのか!」

「そんなことしたら、きっとわたしすぐ死んじゃうね! 女子高生のひ弱さをなめないでよ! 現代日本から来たんだから、すぐに病気になるし、ホントにすぐに死んじゃうんだから!」

「な、何言ってんのかわかんねぇよ……」


 わたしにもわかんないよ!!


「まあいい。手始めにこいつを処刑する。話は後にしようや」

「……!」


 リーダーの目がアイスくんに向けられていた。

 わたしは……


▶【止める】

▷【止めない】

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