今さら~? って感じ?
エクレア先生、ゼリーさん、ジャム、シャリアディース……全員分のステータスを見てみたけど、特に変わったところはなかった。黒い星ばっかりでタッチできないし。のぼせちゃったからバスタオル巻いてベッドに寝転がっていたら、蜂蜜くんに叱られた。
「さっさと水飲んで、着替えて寝てくださいね!」
「スキンケアして髪乾かしてから~」
「まったく!」
水の入ったグラスを受け取りながら、わたしは蜂蜜くんに聞いてみた。
「ねぇ、シャリアディースのことどう思う?」
「はぁ?」
ものすっごく「何言ってんだお前」って顔をされた。
美少女フェイスが台無しなんだけど大丈夫?
「シャリアディースについて教えてほしいの」
「……べつに、何も言えることないんですけど。諸悪の根源で、とんでもなく強い魔法使いってことしかわかりません。ボクにとっては殺したいほど憎いクソ野郎ですよ……」
「そ、そっか」
さっきの予想が早くも的中なんですけど!
殺意が高すぎる!!
魔力回復のためのキス、そんなに嫌だったんだね。もしかして相手って……。
「で?」
「ひゃっ!?」
「なんで、そんなこと聞くんです?」
「えっ、と……アイツのことを、もっとよく知りたくて?」
「必要あります?」
「あるよ~! えっとね、確か、『彼れを知り己れを知れば、百戦あやうからず』だったかな。隣の国に昔、すごい戦が上手な武将がいたんだって。そのひとの言葉。シャリと戦うにしても、ちゃんと知らなきゃ勝てないかな、って」
わたしがそう言うと、蜂蜜くんは黙ってしまった。
そして、くるっと背中を向けてバスルームへ歩き出した。
「ちょ」
「勝てるなんて、バカみたいなこと思わないほうが良いですよ。ボクはただ、今回のことで国王がどう動くかが見たいだけです。飼い犬に手を噛まれたあの野郎の顔と、ね」
「なにそれ! ジャムを危険にさらすつもりなの?」
「彼なら心配ないでしょう。だって、大事に育ててきた王様なんですから!」
「蜜!」
蜂蜜くんは今度こそ振り返らずに行ってしまった。
それにしても、ここまで怒らせちゃうとは……。もしかして、わたし、とんでもないことに首を突っ込んでいるのかも?
それからずっと、蜂蜜くんとは口をきいてない。タイミングずらされまくって、声をかけることもできないし。授業が終わってようやく解放される。土曜日も学校があるのってツライ! 机につっぷしていたわたしの前に誰かが立つ。
「お疲れ様ですわ、アスナ」
「キャンディ」
「ここの食堂で一緒にランチでもいかがですこと? 今日のメインは珍しく魚料理ですわよ」
「へ~。じゃあ、ご一緒しようかな」
寮のごはんも美味しいけど、魚が食べられるなら今日はこっちにしよう。
キャンディにはもちろんチョコとキャラメルがセットになっている。ついでにふたりにも聞いてみよう。
「ねぇ、シャリアディースのこと、どう思う? なにかアイツのこと知らない?」
キョトンとしていた三人は、ちょっとおいて青ざめてしまった。
「アスナ、こういう場所であまりそういうことは……」
「え? なにかダメだった?」
「シャリアディース様は我が国の宰相閣下ですわ。いくら貴女があの御方と親しくても、人目のある場所でこういうことを話題にすべきではありませんし、もし話題にするならばきちんとした呼び方をなさらないと……」
「あ、そっか。それもそうだね。ありがと」
「いいえ。差し出口でしたわ」
そっか〜〜。
仕事してないように見えて、この国の宰相だったね、そういえば!
「じゃあ、もしかしてジャムのことも、国王陛下って呼んだほうがいい?」
「もちろんですわ」
「でも、キャンディはジャム……陛下のこと、お兄様って呼んでるよね?」
「あれは! 最初のときは貴女のことをよく知らなかったからわざとああ言って様子見をしてみたのですわ。悪かったと思ってましてよ。二度目は、あのときは近くにアスナしかいなかったからですわ。もう……イジワルでしてよ?」
「あはは、ごめんごめん」
キャンディがほっぺをピンクに染めてむくれる。かわいいなぁ。これで恋の相手が女の子じゃなければ……ううん、わたしじゃなければ完璧なのに。
「陛下ね、陛下。若いし、あんまり威張ってないから忘れちゃうんだよね。実際、ここの政治ってよくわかんないしさ。そういえば、この前のお茶会のとき、陛下ってば途中で大臣に呼ばれて仕事に行っちゃったよ。遅れてくるくらいなら休めばいいのにって言いながら。だから、小さい国だし仕事もゆったりなのかと思っちゃった」
「あら、それは……」
「オルさんがすっごい怒ってたなぁ」
わたしがそう言うと、キャンディの表情が曇った。
あれ? わたし何か変なこと言っちゃったかな? と、わたしが聞き返そうとしたとき、誰かがわたしの肩に手を置いた。
「それは聞き捨てなりませんね」
「先生!」
「その話、詳しく聞かせていただけませんか」
おおう……先生が指で押し上げた眼鏡がキラーンと光っている。
こ、これは、ものすご〜く怒ってない?
わたしは慌ててコクコクと頷いた。そして、思い出せる限り正確に、月曜日のお茶会でのことをエクレア先生に伝えた。
「その不届き者が誰だかわかりますか?」
「わかんないです。けど、オルさんが陛下についていったから、相手が誰か知ってるはずです」
「ありがとうございます。急いで街へ向かわなくては」
「えっ、オルさんに会いに行くの?」
それなら伝言をお願いしたいな。あ、いや、手紙のほうがいい? それともやっぱ、ついていっちゃう?
「いいえ、彼にも都合があるでしょうから。伝書機を貸してもらうためです」
「デンショキ?」
「ええ。お恥ずかしながら私の魔力では動かせませんので、自前の伝書機を持っていないんですよ」
「あら。でしたら、私の伝書機をお使いになってくださいませ、ギズヴァイン先生」
「ええっ? いや、しかし、それでは職権乱用になってしまいますから……」
「そんなことはございませんわ。今は放課後ですし、丸っきり知らない仲ではありませんもの、個人使用の範囲ですわ」
「それなら、ありがたくお借りします、アーシェイくん」
なんだかよくわからないけど、魔力で動くマギテック道具の話をしているのかな? 寮にある洗濯機とかみたいな? とにかく、キャンディが持ってるやつを動かして、先生の用事を代わりに済ませてあげるみたいだ。
「皆さん、それではお先に失礼いたしますわ」
「あ、待って。最後に、宰相閣下についてだけ教えていってよ。どんな感じ? どんな風に思ってる? 先生もよかったら答えていってください」
「えっ」
「ジェロニモさんも。シャリアディース宰相のこと、何か知りません?」
「…………」
ゼリーさんが嫌そうな顔をした。まあ、わかるけどさ。弱みを握られてるんだろうし、ここでは言えないよね。ってか、そもそも無口すぎて何も話してくれなさそう。でも、そんなに嫌な顔する?
「少し急ぎましょうか、ギズヴァイン先生。それじゃアスナ、またね」
「そうですね、急ぎましょう。それでは皆さん、また週明けに」
そそくさと席を立っていくふたり。もちろんゼリーさんもその後をついていく。
「ねぇ、シャリアディースについては? ねぇってば〜!」
わたしの声は聞こえなかったふりをされた。
「そ、それじゃ、私たちも……」
「ですわ!」
「ちょい待ち。もうちょっとおしゃべりしよ〜よ。ね?」
逃さんぞ、チョコ! キャラメル!




