わたしの魔力、低すぎじゃない?
「置いてくなんてひどいじゃないですか~」
「先に行けって合図したのは自分でしょうが!」
「だってアイツ苦手なんですもん」
戻ってきた蜂蜜くんは開口一番ダルそうにそう言った。心なしか美少女パワーがかげっている。
そんなの知るかと言い返したら、唇を尖らせて視線を逸らされた。だから、「もん」はやめなさいってば、「もん」は!
「アスナさん、アイツのあだ名知ってます~? 狂犬ですよ、狂犬」
「なんでそんなことに」
「ボクがここに来た頃、ちょうど彼が騎士になれるかどうかの入団試験があったんですよ」
へぇ~!
この国には騎士団って四つあるらしい。前にエクレア先生が言ってた。ドーナツさんのいる若枝と、他はそれぞれ剣、聖杯、護符の騎士団なんだって。
「彼の戦いっぷりはもう、すごかったですよ。並みいる敵をバッタバッタとなぎ倒し、たったひとりで騎士団の全員に勝ったんですからね。まぁ、ボクは途中で白けちゃってよく見てなかったんですけど〜」
「全員と? 入団試験ってそんなに苛酷なものなの?」
蜂蜜くんの嫉妬はともかくとして。騎士団と言えばこっちの世界で言う警察官みたいなものなのかな? 高校の部活レベルじゃあるまいし、相当な人数がいるもんなんじゃないの? 蜂蜜くんに聞いてみると、とんでもない答えが帰ってきた。
「だいたい百二十人ってとこですかね〜」
「えっ!」
多すぎじゃない!?
「四つの騎士団すべて合わせてこの数は少なすぎですけど、ここって鎖国してるから戦争もないし、人口も少ないからそんなもんでしょうね。まぁ、だとしてもイジメなわけですけど」
「えっ!?」
「だってそうでしょう? 普通じゃないですよ、あんなの。父親が先王について行ったおかげで騎士団に推薦されたとかいう噂でしたけど、彼はきっちり自分の実力を示しましたね」
「なにそれ! 信じらんない!」
「ま、アスナさんならそう言うと思ってましたよ」
蜂蜜くんはそう言って薄く笑った。
いつも爽やかな笑顔のドーナツさん。まさかこんな陰険なイジメにあっていたとは……。許せないなぁ!
「男の嫉妬は怖いんですよね〜。いいとこの出だし、彼にしか扱えない宝剣も持っていますから」
「宝剣?」
「ええ。あ、やらしい意味じゃないですよ?」
「?」
わたしは首を傾げた。
逆にやらしい意味での宝剣ってなんだろ。
「それは置いといて。彼の剣、精霊を呼び寄せるらしいです」
「それって! えっ、なに、シャリさんが寄ってくるってこと?」
「知りませんよそんなこと」
「もっと早く教えてくれれば、今日そのことについて聞けたかもしれなかったのに〜!」
「もっと知りませんよそんなこと」
どうでも良さそうに言う蜂蜜くん。
まったく! 明日の授業が終わったら、ランチしてから図書館にこもろう。そして、精霊について調べよう。
もし、あんまり良くわからなかったら、ドーナツさんに聞きに行こうかな。精霊を呼び寄せる剣についても聞きたいしね。
ちなみに、図書館に蜂蜜くんを誘ったら、いい笑顔で断られた。
「勉強とか、好きじゃないんで!」
「わたしだってだよ……」
不毛な会話だった。
夕飯を済ませて宿題も終わらせて、わたしはお風呂に入ることにした。寮の部屋についている浴室の湯船にお湯を溜めていく。薔薇の香りのバスソルトを入れて、準備はオッケー。
これで、蜂蜜くんにバレずにステータスを確認できる。
わたしにしか見えないものだとしても、ステータスを読んでるわたしの姿は見えちゃうんだもんね。ふたり部屋だから、タイミングが難しいんだ。
「どれどれ〜」
まず誰のから見ようかな。
ドーナツさんのステータスを見たとき、増えてたのがあった気がするし、新しく書き込みたいこともできたし……でも、まあ、最初は自分のかな。
えっと、鏡を見なきゃいけないんだっけ。それとも、二回目からはみんなのと同じように念じれば出てくる?
ひとまず湯船に浸かったまま、目を閉じて念じてみることにする。
出てこい、わたしのステータス!
いつものようにマヌケな電子音がして、わたしの視界にステータスが現れた。
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【名前】久坂 明日菜
【性別】女
【年齢】17
【所属】日本
【職業】女子高生
【適性】※※※
【技能】お菓子づくり
【属性】ツッコミ
【魔力】3/100(%)
【備考】シャリアディースによって連れてこられた。
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ふ~~む?
【適性】のところは相変わらず読めない。備考も特に増えてないし。どこか変わったところはないかな? よくよく見返してみると、【魔力】のところの数字が1から3に増えている。
「えっ、わたしの魔力、低すぎじゃない? びみょ~! 増えて意味あるのかなぁ、コレ!」
手を振ってステータス画面を消して、口許までお湯に浸かる。さすがに子どもじゃないからブクブクブク~なんてしないけど、久しぶりにそうしたい気分。
ここに来て、もう二週間近くたっちゃってる。それなのに、帰るための情報は皆無。ぜんぜん、てんで、まったくナシ! いやんなっちゃう。
帰れる希望はないのに、結界の秘密らしきものを知ってしまったから、今はそれをどうにかしようとしているわけで……。自分でも馬鹿だなぁと思う。だって、相手はあのシャリさんだもん。最初っからうさんくさいオーラ放ちまくりの、人間じゃない(らしい)、陰険で抜け目のなさそうなあの男!
もしかして、真実を確かめるだけじゃすまないのかな。
わたしにどうにかしろって言われても、さすがに困るよ? ジャムに丸投げするつもりだよ?
「あーあ。わたしにもっと力があって、パパッと解決できたら良かったのに」
ブクブクブクブク……。
こんなことしてる場合じゃないか。蜂蜜くんに見られたりしない今だからこそ、蜂蜜くんのステータスを覗かなきゃ!
わたしは体を起こして、もう一度ステータス画面を呼び出した。




