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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:ジェロニモ
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言葉にしなさいっ!【バレンタインデー特別編 ジェロニモ】

 今年、連載再開します。次は蜂蜜くんルートです。


 この番外編は、連載再開時に『舞台裏』の方に移しま〜す(’-’*)♪

 バレンタインデー。

 それは恋人たちの聖日。


 日本ではお菓子会社の生存戦略がどうこうとかで、女の子が好きな人にチョコレートを贈る習慣があったんだよね。まぁ、それはもう古くて、自分へのご褒美とか友達と交換したりとか、会社で配ったりとかする口実に成り果ててるわけなんだけど。


 それでもチョコレートがやり取りされることが多い日ではあるよね。建前なんて本当はどうだって良くて、みんな美味しいチョコレート食べたいし、お祭り騒ぎには乗っておきたいんだもん。


 そもそも恋人への贈り物はチョコレートだけじゃなくて、本だったり花束だったり。もちろん男の人から贈ったりもするのよ。今じゃ、男子高校生がスイーツ作る動画投稿したりもするんだからね!


 そんなわけで、バレンタインデーに彼女からチョコレートもらえるなんて確約はありません。ないったらない。でも、まぁ、期待させちゃったのはわたしだという負い目は、あるかなぁ。


 ひょんなことから飛び込んじゃった異世界。お世話になってるこの小さな島国ジルヴェストに、バレンタインデーっていう概念を持ち込んだのは、わたしです……!


「今年もチョコレートの売上が半端ないらしいわよぉ〜? ホワイトデーといい、おカネになるイベントもっとないのかってしつっこいのよね、ウチのジジィ共が」


 ちくちくトゲのある言葉を投げかけてくるのはカーリー先生。今日もヒラヒラなフリルブラウスがお似合いの、フラワーアレンジメントデザイナー。茶色のショートボブは上だけ黒みがかってるプリンちゃん。でも地毛なんだよね。すごいな異世界!


 眼鏡をクイクイってして、嫌味っぽい流し目でこっちを見てくるけど、それに意味なんてないことはすでに知ってる。文句を言いたいのはわたしに対してじゃないんだもんね。


「カール、口が悪いですよ」


 ピシャリと叱るのはエクレア先生。カーリー先生のことを本名で呼べるのは、エクレア先生とご家族くらい。あ、あとは幼馴染みのゼリーさんね。


 エクレア先生もカーリー先生とまったく同じお顔と髪の毛なんだけど、性格は正反対。こちらは今日もかっちりとしたシャツにベスト、スラックス姿でいらっしゃる。本当なら王宮のマナー講師であり、諸外国との外交とその形式を司る部門の重鎮であり、ジルヴェスト唯一の高等学校の講師でもあるんだけど……。


 今は、カーリー先生のミニブーケ作りのお手伝いで、辿々しい手つきながらも健気に頑張っている真っ最中。そう、バレンタインデー直前だからね。


 わたしも同じく、ミニブーケ作ってますとも。お小遣いもらえるし、現物もくれるって言うから。


「だあって、ホントにしつっこいのよ! あいつら、兄さんには言わないのに、アタシにはなれなれしいったら!」

「カール」

「んもう、その名前で呼ばないでったら!」


 カーリー先生はぷりぷりしている。南の島でのんびり暮らしてるわたしにはわからない苦労だなぁ〜〜。


「他人事みたいな顔してんじゃないわよ、アスナちゃんてば。アタシばっかり恩恵受けてって責められてんだからね。そろそろ本腰入れてこっちで商売始めなさいよ」

「え〜〜! 自信ないよぉ、アドバイザーなんて〜〜」

「異世界生まれなんつーアドバンテージがあるんだから、活かさなきゃ損でしょうが! どんなもんだろーが向こうがおカネ出すって言ってんだからいいのよ。だいいち、アンタしか知らない情報なのよ? 嘘だろうがなんだろうがわかんないわよ」

「ううう〜〜」


 そう、こっちの世界に残ると決めたからこそ、カーリー先生やキャンディはわたしが持っている知識を「上手に活用しなさい」と言うようになった。わたしが騙されて食い物にされないように、こっちでの生活基盤を自分で築けるように。


 でもでも、わたしってばただの女子高生なんだよ? 本当は過去形だから、「女子高生だった」が正しいんだけど、でもまだ心は学生なんだも〜〜ん!


 それに、さっきもチラッと言ったけど、普段はゼリーさんと島でのんびり暮らしてるんだよ〜。ふたりだけの家で。


 ちょっと行ったところにあるゼリーさんの生まれた村では、ごはんも生活必需品もみんなで採ってみんなで作って、みんなで分け合うの。だからお金は要らないんだよね〜〜。


 魔力がムダにたくさんあるわたしは、なにひとつ生活に困らないし。王都までもひとっ飛びだし、なにより、村で手に入らないものはエクレア先生が何でも揃えてくれるから、苦労なんてしたことないのよ〜〜。


「兄さんが甘やかすから〜〜」

「カールこそ。私はちゃんと知っていますよ」

「むぐぐ……!」


 そう、カーリー先生もキャンディもジャムも、みんなわたしたちに不自由がないか気にかけてくれて、事あるごとに何でもかんでもくれようとするから、むしろどう断るかを考えるのに頭を使うかな。ぜいたくな悩みだけど。


 そのおかげで、村の子どもたちはずいぶん色んなことを知ったし、勉強したいって言ってる。王都に留学してる子もたくさんいるの。ジルヴェストに今までにはなかった、小学校とか中学校なんかも各地に建ってる最中なんだ。


 王都や別の村から、海辺の村に引っ越してくる人も増えた。もちろん、受け入れるのは村の暮らしにちゃんと馴染める人だけ、なんだけどね。お試しもしてるし。ジャムのお父さんなんかは月イチで来てるよ。馴染み過ぎじゃない?


 おっと、話が逸れた。


 そんなわけで、のんびり島暮らしをやめて、王都で実業家(キャリアウーマン)しないかって誘われてるところ。イベントプランナーとか?


 王都は王都で、好きなんだけどね〜。


「ドレス着てお化粧してパーティーして、楽しいじゃないのよ。アタシと一緒にイベントやりましょうよ〜。芸術祭してパーティーして、音楽祭やってパーティーして、お酒飲んでパーティーすんのよ」

「パーティーしすぎじゃない?」


 カーリー先生、ただれすぎじゃない? 大丈夫?


「いいじゃないのよ! 似合うんだから! ジェロニモちゃんだって着飾ったアスナちゃん好きでしょうよ」

「もう、カーリー先生ったら!」


 あ、ゼリーさんはさっきからずっといるよ。黙って作業してるだけ。ずっと黙ってるだけ。なのに、ゼリーさんは目線を上げて珍しく口を開いた。


「何もつけていないアスナのほうが好きだが」

「ちょっ……!」

「やっだ、ジェロニモちゃんのエッチ!」

「ジェロニモ……」

「ばか〜〜!」


 スパーン! と気持ちのいい音が決まる。咄嗟に飛び出す、ハリセンもどき。ミニブーケを包むワックスペーパー、シワになってないかなぁ、もう!


「……なぜ」


 なぜもクソもないわい!

 その後は、エクレア先生のお説教をBGMに、ミニブーケ作って解散した。今日はエクレア先生のお家にお泊まりだけど、わたしはゼリーさんとは別のお部屋をもらった。


 別にわたしがワガママ言ったんじゃないからね? エクレア先生がさも当然のように別のお部屋にしただけだから。ゼリーさんの部屋は残してあるわけだし。


 それに、ナイショでチョコレート作るには、とっても都合のいい場所の部屋に通されたんだよね。ご丁寧に、「厨房の器具も材料もお好きにどうぞ」とまで言われて。これはアレだね。明日のバレンタインデー、期待されてるね?


 そりゃまあ、期待には応えますとも。ただし、あくまでも贈り物のひとつとして、だよ? だから、誰彼構わず渡すわけじゃないんだから!


「とか言いつつ、近々出会いそうなひとの分は作っちゃったけどね〜。ラッピングまで用意してあるのは、さすがカーリー先生だわ。後でちゃんとお礼言っとこ」


 気遣いに対してはきっちりお返しをするのがモットー。


「それで? 隠れてコソコソなにしてんの、ゼリーさん」

「……気づいていたのか」

「まぁね。だって、ほぼ最初からいたし、気づかないハズなくない?」


 ゼリーさんは厨房の入口の陰からそそくさと出てきた。どことなくバツが悪そうにしてる。


 今はラフな白のニットと薄青のポロシャツ、砂色のコーデュロイパンツ姿。風の精霊の加護を受けたエメラルドグリーンの髪の毛ともよく合っている。このニュアンスはたぶんエクレア先生のチョイスかなぁ。


 長身だからゴツめに見えるけど、元々、キリッとした顔立ちと細マッチョな身体つきだから、こういう格好もよく似合う。それに、いかつく見えるのは、実は髪型によるところが大きい。


 そのオールバックも、今は少し崩してある。ゼリーさんのことだから、オシャレのためにではないだろうけど、ちょっと可愛らしさがあるね。


 そんなわたしの旦那さまは、黙ってそっとミニブーケを差し出してきた。


「くれるの? あ、日付が変わったからか。ハッピーバレンタインデー、ジェロニモ」

「……ハッピーバレンタインデー、アスナ」


 ゼリーさんはわたしの手を取って、手の甲にちゅっと口づけした。薬指のリングにも。そして、指の一本一本の指先にもキスを落としていく。


「くすぐったいよ」


 そう言ってやんわり引っ込めようとすると、案外素直に離してくれた。かと思うと、ぐっと密着されてしまう。こんな所では、ダメですがっ!?


「もうひとつ、ある」

「え、何かな……」


 少し不安になるわたしに差し出されたのは、小さな紙箱。たぶんだけど、ジュエリーかな? ゼリーさんの赤い瞳を覗き込むと、無言で「開けてみろ」と頷かれた。


 細いリボンを解いて、掌大の四角い箱を開けると、そこには宝石で出来た四つ葉のクローバーがあった。これは、ブローチ?


「綺麗……」

「アスナ、お前に幸運を。大したものじゃないが、これを見つけたときから、これはアスナのためにあると思った」

「ありがとう、ジェロニモ」


 バレンタインデーのプレゼント、まさか宝石をもらうとは思っていなかった。わたしのために選んでくれたことが本当に嬉しい。なにより、ゼリーさんの髪の毛の色ってところがまた、可愛らしいじゃない?


 お礼に軽くキスすると、情熱的なキスを返されてしまった。ゼリーさんはわたしをじっと見つめる。そして、わたしの背後にあるラッピングの群れをチラッと見た。わたしはそれに気づかないフリをして、ニッコリと笑う。


「ふふっ、大切にするね。帽子につけてもいいし、ストールを留めてもいいし。可愛いなぁ〜」

「……ああ」

「わたしからのプレゼントは、部屋にあるから、また朝に渡すね。楽しみにしておいて!」

「…………ああ」

「じゃあ、おやすみなさ〜い!」

「………………」


 わたしの首筋にスリスリ鼻先を擦り付けて、キスして、抱きしめてきたけど、チョコレートはあえてあげなかった。未練たらしく熱視線を送っていたけど、見ないフリ〜〜。


 ほほほほほ!

 チョコレートが欲しければ、「欲しい」と言えばいいじゃない! べつに〜、「好きだ」とか「愛してる」とか、甘い言葉を囁いてもらえないからイジワルしてるつもりはないけど〜。


 でもさぁ、見つめてるだけじゃ何も手に入らないってことを、いい加減学習したまえよ!


 素直に「アスナからのチョコレートが欲しい」と言えたらあげるんだけど……さて、いつになったら言葉に出せるかなぁ? それまではオアズケだよ〜〜、だ。


「大好きよ、ジェロニモ」

「!」


 いつもいつも肝心なことを黙ってて、したいことして欲しいことをしまい込むクセのついちゃってるゼリーさん。


 でも、これからはそれじゃダメなのよ。

 だからこれは荒療治。わたしにくらい、ワガママ言いなさい!


 欲しい物があるなら、言葉にしてっ!

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― 新着の感想 ―
[一言] ジャムパパが村に馴染んでる報告に笑いました。 みんな幸せそうに暮らしてて良いですね。 うんうん、幸せが一番。 そんでもって、思っていることは言葉にしてもらいたいですよね。 幸せ度が爆上がり…
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