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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:ジェロニモ
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もう一つの選択肢

 いざ元の世界へ帰ろうというとき、時の精霊、キョウはわたしに言った。


『……静かに、揺らいでいるね。感情を圧し殺して、魔力の暴走を抑えているんだね。まるで杯になみなみと注がれたぶどう酒みたい』


 言われていることは何となく理解できていたけど、意味はまったくわからない。何が言いたいんだろう? わたしは黙っていることにした。


『やれやれ……。じゃあ、帰りたい場所を強く思い浮かべるんだよ。時間もね。だいたいでもいい、強い気持ちが大事だから』

「はい……」


 わたしは丸い鏡の姿をした精霊に向かって返事をした。

 足元に、銀河みたいな渦巻きができていく。


 これで、帰れる……。解放される。そう思うと胸が少し軽くなった。早くひとりになって、自分の部屋で泣きたい。今はもう、それだけが、わたしの望み……。





――本当に、そう?


 わたしの望みは、帰ることなの?

 みんな、わたしが家に帰ることを当然のように言うけど、わたしが帰りたい場所は、本当に欲しいのは、ジェロニモさんがいた時間なんだよ!


 もしも時が戻せたら、もしもあのときあの場所にいられたら、絶対にあのひとを死なせたりしなかったのに!


『アスナ、時間に干渉する気なの? そんなことしたら、もう二度と自分の世界には戻れなくなっちゃうよ』

「キョウさん!? どうして……」

『誰が君を運んでいくと思ってたの。それよりも、早く行き先を選んで。じゃないと、このままどこにも行けずに彷徨うことになっちゃう』


 わたしは躊躇わずに答えた。


「ジェロニモさんに会いたい! もう帰れなくたっていい、ジェロニモさんを死なせないですむ未来が欲しいの!」

『……いいよ。君に力を貸してあげる。けど、覚えておいてね。この一回しか無理だ、やり直しはきかないよ? そして、すべてが上手く行ったら、きっと私のところへ来てね』


 その言葉の途中から、どんどん渦の動きが加速していって、わたしの体は飲み込まれていった。せめて御礼だけでもちゃんと言わないと! わたしは夢中で叫んだ。


「キョウさん! ありがとう……!」

『幸運を、アスナ。君にとっての良い未来は、きっと私たちにとっても良い未来のはずだから……』





 ガクン、と膝から力が抜けて気づいたらわたしは、地面に両手をついていた。視界がぐらぐら揺れてる。頭が痛くて吐きそう。どうなってるの、コレ……。


 息が……!


「アスナ!」


 呼吸もできずにうずくまっていたわたしを抱き上げたのは、力強い腕だった。

 耳鳴りがひどくてほとんど聞こえない耳にもその声は届いた。


 わたしを呼ぶ、声。ずっと聞きたかった声。


「ゼリーさん……!」


 返事もなく、唇を塞がれた。

 それと同時にあれほど苦しかったのがぜんぶ、嘘みたいに引いていく。


 ここがどこなのか、今がいつなのか、何もわからない。わたしはただ、ゼリーさんの腕に抱かれていた。こんなに近くで触れ合うのも、キスも、ぜんぶ初めてのことだった。でも今は、この温かさが、ゼリーさんが生きていることの方が嬉しくて、ただただそれを味わっていたかった。


 何度も角度を変えて重ねれた唇が離れていったとき、わたしは咄嗟に「離れたくない!」と思った。それでゼリーさんにしがみついてしまって、我に返って手を離したとき、ゼリーさんのすごく困ったような目と視線がぶつかった。


「アスナ」

「あ……あはは」

「魔力は、もう、充分みたいだな。……俺の方がちょっと足りなくなってきた」

「えっ? あっ、さっきのってもしかして、魔力切れ?」


 あんなに苦しいんだ……。改めて、シャリをぶん殴りたくなった。チョコにあんな苦しい思いをさせて……!


「ありがと、ゼリーさん。魔力足りる? 返そうか?」

「……いらない」


 なんで困った顔してるかな、このひとは。

 なんだか納得いかないけど、まぁいいや。今は許してあげる。


 ゼリーさんがわたしをそっと下ろしてくれたから、わたしは自分の足で立った。周りを確認してみると、ここはあのゴツゴツした溶岩の固まってできたような島みたいだった。


 近くにクロッカちゃんの姿はない。ということは、クロッカちゃんに会う前? それとも、火口に行くために別れた後?


「アスナ、どうしてここに……」

「ソーダさんから伝書機を渡されて、伝言を聞いたから」

「……ソダール様は」

「いない。他のひとに助けてもらったから」


 辺りを見回してソーダさんを探すゼリーさんに、わたしはニッコリ笑って言った。


「アスナ、俺は……」

「ひとつ!」

「!」


 ビックリした顔のゼリーさんに、わたしは人差し指を突きつける。


「わたしがお城にいる間に、黙ってどこかに行っちゃうなんてヒドすぎ! サイテー!」

「…………」

「ふたつ! わたしのメッセージ、聞いたよね? 告白すらさせてくれないとか、どういうこと? わたしの気持ち、わかってて逃げたの?」

「…………」

「みっつ! ……簡単に死ぬような真似、しないでよ」

「それは……!」


 わたしはゼリーさんにギュッと抱きついた。だってもう、怒ったフリが限界だったから。涙を我慢するのも。


 ゼリーさんの手が、優しくわたしを抱きしめて、頭を撫でてくれた。


「ゼリーさんのばか」

「すまない、アスナ」

「……ちゃんと最初から話して」

「わかった。アスナも、その格好……。それに、どうして俺のことを知っていたのか、ちゃんと話してくれるか?」

「うん。ゆっくりね。まずはクロッカちゃんのところへ戻ろうよ」

「ああ」


 そのとき、わたしの制服のポケットから、強い光が出てきて、わたしたちを包んだ。


「アスナ!」


 いったい、何!? 透けてパンツ見えてたらどうしよう! いやいや、そんな心配してる場合じゃないか!?


 そうしている間にも光は渦巻になって、どんどん色んな光を巻き込んで、やがて銀河みたいになっていった。


 あ、これ、キョウさんからの呼び出しかな?


「アスナ、じっとしていろ」

「大丈夫だよ、だからスカート脱がさないで! これはキョウさんからの呼び出しだから! だから手を離して!?」


 よくわからない状況のまま、わたしたちは渦に飲み込まれた。


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