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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ノーマルルート
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ゼリーさんの裏事情?

 校舎裏の林を抜けて、建築途中なのか廃棄されたのか、崩れた石柱が並ぶ廃墟まで連れてこられた。

 ゼリーさんはわたしを降ろすと、またも無言で見下ろしてきた。


「言ってくれなきゃ、わかんないんですけど! 何なんですか?」

「…………」

「ちょっと!」


 ここまできてだんまりとか!

 あんまりな態度に腹が立って、抗議しようとしたわたしを、ゼリーさんは柱に押し付けた。

 まさかの、壁ドンならぬ柱ドン。びっくりして声も出ない。


「……もう、結界に関わるな」

「どうして」

「…………」

「やだって言ったら?」


 わたしとゼリーさんは睨み合った。すごい圧を感じる……でも、負けるもんか! こっちは、帰れるか帰れないかがかかってるんだよ! 何ひとつ説明しようとしないクセに、わたしを退かせられると思うなよぉ!


「…………はぁ」

「よし!」


 勝った!

 根負けしたゼリーさんは目を逸らして溜め息を吐くと、わたしの目の前からどいてくれた。

 さぁて、それじゃあ詳しく教えてもらおうじゃないの。


「教えて。何がダメなの? ……もしかして、口止めされてる?」

「ああ」

「あンの酢飯野郎!」

「?」


 やっぱりシャリのせいじゃんか!

 アイツ、どこまでも邪魔してくるなぁ! そんなにわたしをこの国から出したくないワケ?


 まあ、シャリさんはジャムとわたしを結婚させたいんだから、邪魔してくるのも当たり前っちゃあ当たり前なんだろうけどさ。迷惑極まりないんだよね!


「一番最初に、わたしに結界についての話をしたのはシャリアディースだった。結界に関わるなってどういうこと? この国の結界は、わたしが来たことによって修復されたんだって、シャリさんは言ってた。だったら、べつにもう、誰かを遠ざけたり、隠す必要ってないんじゃないの?」


 わたしの言葉にゼリーさんはまた溜め息。

 何だろう、この、「何にもわかってないんだな」みたいなやつ~。

 ハッキリ言ってくれればいいのに!


「あのね、わたしは別の場所からここに無理やり来させられたの! 帰る方法を探してるの! ジェロニモさんは知ってるの? 知らないでしょう? 知ってるはずのヤツは教えてくんないし、自分じゃまだどこから調べていいのかもわかんないし……だから、せめてジェロニモさんが知ってることくらいは教えてよ!」

「…………」

「結界の外には別の国があるんでしょう? もしかしたら、そこに帰れる方法があるかもしれない。この国で見つからなかったら、わたしは結界を越えて探しに行くよ。そのために、もっと詳しく知りたいの。この国の結界が、何のためにあるのか、何を守ってるのかは知らないけど、調べようとすることすら許されないなんておかしいよ!」

「……何が、守るだ」

「え?」


 ぶわっと風が吹きつけてわたしの髪を巻き上げる。

 それと同時にゼリーさんの体も、一瞬、二倍くらいに膨れ上がったような気がした。これが殺気というやつなんだろうか。わたしは足に力が入らなくなって、その場に座り込んでしまった。


「あれが守っているものなど、何もない。あるとすればあの化物の妄執だけだ……!」

「っ!」


 すごく低い、本気で怒った声に、わたしは思わず首をすくめていた。

 じんわりと涙まで浮かんでくる。


 この怒りは、わたしに向けられたものじゃない。

 そう、頭ではわかっていても、心と体が追い付かない。


「それ~、アスナさんは関係ないじゃないですか~。八つ当たりですよ~?」

「誰だ!」

「蜂蜜くん!」

「蜜ちゃんですよ~。今はね」


 間延びした声が降ってきて、わたしとゼリーさんは辺りを見回した。そしたら、いつの間にいたのか、石柱の上からストンと蜂蜜くんが降ってきて、わたしをかばうように左手を広げて立った。右手はと言えば……物騒なナイフを握っている! こら、暗殺者!


「蜜! それダメ!」

「ダメじゃないです、護身用です~」

「そんなゴツイ護身用があるか! べつに何もないんだから! 納めておさめて!」

「ちぇ~」


 ゼリーさんは丸腰なのに、アンタはナイフとか、どういう神経してるの!

 敵とかじゃないんだからね!


「……アスナ、すまなかった」

「ううん、びっくりしただけです、大丈夫。ほら、蜂蜜くんも、もういいから」


 頭を下げるゼリーさんに、わたしは「何でもないから」と手を振ってみせた。

 そして、なおもわたしの前にとおせんぼみたいに立ってる蜂蜜くんを脇に引っ張る。


「だって、アスナさん腰抜けちゃってるじゃないですか~。女子高生を怒鳴りつけて脅かすとか、男として恥ずかしくないんですか~?」

「いいから!」


 情けないことに、蜂蜜くんの言う通り、わたしはまだ立てないでいた。

 いつも無口無表情のゼリーさんでも、さすがにバツが悪そうだ。


「本当に、すまない。……だが、やはり俺では力になれそうにない。今、奴を裏切るわけにはいかないんだ」

「ふぅん、何やら事情がありそうですね~」

「何で蜜ちゃんが言ってんの。それわたしのセリフじゃない?」

「細かいことはいいじゃないですか。ボクだって同じこと思ったんですもん」

「もんじゃないんだよ、もん、じゃ」


 アンタもう23でしょうが!


「……医務室まで、送っていく」

「いえいえ~、彼女はボクが面倒みるので、帰っていただいて構いませんよ~。腰が抜けちゃったアスナさん連れて帰ったら、言い訳が大変でしょう? それとも、どうしてこんなことになったのかまで含めて、雇い主に報告、します~?」

「…………」


 これは……。

 もしや「黙っててやるからとっとと失せろ」的なあれでは?

 というか、黒いな蜂蜜くん。これは黒蜜……黒蜜だね! 美味しそう。きなこかけたい。


「ほら、さっさと帰ってくださいよ。彼女の味方じゃないのなら、思わせぶりなこと言わないでください。所詮、貴方は『帰る場所を見つけた』者、そういうことでしょう」

「…………すまない」


 なんか、よくわかんないうちに話がまとまったらしい。

 ゼリーさんはわたしを気遣うように、何度か振り返りながらもひとりで戻っていった。


「彼、やっぱ脅されてるんでしょうね~」

「そうね~。今は(・ ・)裏切れない~、みたいなこと言ってたしね~」

「ですよね~」


 わたしと蜂蜜くんは顔を見合わせてそう言い合った。


「今日は災難でしたね~」

「まあ、ね」

「とりあえず、戻りましょうか。それで、ちょっとだけボクの話を聞いてもらってもいいですか?」


 わたしの答えは、もちろん「イエス」一択。決まってるよね。

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