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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:ジェロニモ
262/280

王都へ!

 掻き鳴らされるギターの激しい音に、わたしたちは全員ビックリして振り向いた。ソーダさんは片膝を立てていた姿勢から立ち上がると、ニッと笑ってみせた。


「話は聞かせてもらったよ!」


 そりゃそうだ。

 だってさっきからずっとそこにいたじゃん。


「君たちはきっと、私に頼みたいことがあるに違いないね! さぁ、言ってみるといいよ」

「じゃあ、お城まで連れて行って」

「いいとも!」


 いいんだ。

 行きとは違って一瞬で戻れるね。


 それはさておき、ソーダさんが送ってくれるとなるとすごく助かる。ゼリーさんもホッとしてるみたい。


「ソーダさんありがとう! いつも助けてくれて、感謝してる。ホントだよ」

「いやいや、どういたしまして! さっそく行くかい?」

「うん!」

「すまないが、少しだけ時間をくれないか」


 そこに待ったをかけたのはパフェさんだった。そうだ、パフェさんにはまだ事情を説明しただけで、準備してもらう時間とかは全然取ってなかったもんね。


「すぐに済む」


 そう言うとパフェさんはパンパンと手を叩いた。すると、庭に並べた机に座っていた子どもたちが顔を上げる。そういえば、ずっとおとなしく待ってくれてたんだよね。


「皆、先生は今から出かけなきゃならなくなった。だから今日はもう、学校はおしまいだ。家に帰りなさい」

「せんせー、どこ行くの?」

「先生も自分の家に帰るんだよ。でも、すぐに戻ってくる。明後日には必ず、皆へのお土産をいっぱい持って戻ってくるから」

「おみやげ? やったー!」

「ぜったいだよ!」

「気をつけて行ってきてね!」


 笑顔の子どもたちに囲まれて、パフェさんは皆を抱きしめ返したり頭を撫でてやったり、嬉しそうに別れを惜しんでいる。それを見て、なぜだか心がチクチク痛んだ。


 ぼんやりしていたせいかな、ゼリーさんが後ろからわたしを支えるみたいに肩を抱いてきた。わたしはそっとその手に自分の掌を重ねた。


「アスナ」

「うん……ありがと」

「疲れが出たのか」

「ううん。ちょっと……ジャムのことを考えてた」


 パフェさんを囲む子どもたちの年齢は、ジャムが置いていかれた歳かそれよりも小さいくらい。ああやって楽しそうにパフェさんと触れ合っていたのは、本当ならジャムだったんだよ。そして、それはゼリーさんの姿にも重なる。


 わたしは自分で言うのも恥ずかしいくらいお父さんっ子だったから、もし自分がジャムの立場だったらと思うと、すごく嫌な気持ちだ。だって、嫉妬しちゃうもん。ずるいじゃん、こんなの。ジャムのことは置き去りにしたのに、この子たちには「すぐに戻ってくるよ」なんてさ。


 たとえそれが子どもたちを悲しませないための言葉だったとしても、わたしは嫌だ。

 マフィンさんもだけど、我が子を置き去りにするようなひとは、好きになれないな……。


「やあ、待たせてすまなかったね。もう大丈夫だ、さっそく行こう」


 パフェさんがわたしのおかしな様子に気がつかなくてよかった。ソーダさんの風に包まれて、わたしたちはジルヴェストのお城まで一気に飛んだ。中庭に現れたわたしたちを驚きの表情で出迎えてくれたのは、キャンディのパパだった。


「パルフェイド! それに、アスナちゃん! いったいどうしたの? 何があったんだい?」

「アガレットさん、おはようございます。あの、色々あって、話すと長くなっちゃうから説明はまた今度にさせてください。わたしたち、アルクレオ先生のところに行かなくちゃ」

「説明なら私がしておこう。アスナたちはアルクレオのところへ急ぎなさい。アガレット、アルクレオは今、どこにいるのかな」

「え……ギズヴァインくんなら病院にいるけど……」

「ありがとうございます!」


 わたしはぴょんと頭を下げてさっそく歩き出した。任せてって言ってくれてるんだし、いいよね? キャンディパパが呼び止める声がした気がしたけど、気にせず走る。


「アスナ」

「けっこう時間かかっちゃったね! 早く行こう!」

「場所、わかるのか」

「あ」


 パッと足を止めたわたしに合わせて、ゼリーさんも立ち止まる。そうだった、その問題があった。


「わかんない……」


 ゼリーさんは「やっぱりな」って顔をして、それからフッと笑って頷いた。


「だが、あそこから離れられて助かった。あのひとに捕まると長い」

「やっぱり? じゃあ、走って正解。ゼリーさん、病院に案内して。どうやって行く?」

「ねぇねぇ、おふたりさん。何かお忘れじゃない?」

「あ!」


 ソーダさん、まだ帰ってなかったんだ。

 あんまり走るのに向かない舞台衣装みたいな、吟遊詩人の格好をしたお兄さんは、どことなく息を切らしているように見えた。


「ありがとう、ソーダさん。もしまだ甘えてもいいなら、先生のお見舞いにも一緒に来てくれない? シャリアディースが魔法で何かしたんだったら、精霊であるソーダさんに見てもらえば、どういうことかわかるかもしれないし」

「ん~~。いいけど、役に立てるとは思えないけどな。だって、そういうのはカロンの領分だもの。私が見たところで……。まあ、でも、一緒には行こう」

「やった! ホントにありがとう!」

「いや~、はっはっは」


 へらっとして頼りなく見えるけど、それでもやっぱりいてくれると安心するもん。わたしたちはもう一度風に乗って、先生の入院している病院へ急いだ。入ってすぐの受付で病室を聞いて、部屋の前まで行く。


 うう、緊張するなぁ。

 覚悟を決めて、わたしはドアをノックした。

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