表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:ジェロニモ
260/280

怪しい雲行き


▶【そうは言っても避けてはいられないよ】


 わたしは迷った。

 確かに、ゼリーさんの言うとおりだ。ジャムのお父さんに気に入られちゃって、捕まっちゃって、「ぜひ息子の嫁に!」って言われることもあるかもしれない。……あくまで、可能性として、ね!


 とはいえ、いない相手と結婚はできないから、実はそんなに心配はしてない。それに、ジャムが帰ってきたら、改めて話をして解放してもらえばいい。


 もちろん、会わないように避けながら帰り道を探すことは可能だと思う。王都から来るっていうヴィークルは諦めて馬車を貸してもらうとか、ソーダさんが来てくれるまで粘るとか。


 できるけど……そんなことばかりしてられないでしょ。まずはちゃんと挨拶して、一緒に王都に帰るかどうか聞く。それからソーダさんを探し出して、協力を取り付ける。これが大人のやり方だと思う。


 なぁ〜んてね。

 生意気かもしれないけど、でも、それがわたしの考えなの。ゼリーさんにそう伝えたら、渋い表情ではあったけど、わかってくれた。


 ジャムのお父さん、つまり先の王様の名前は、パルフェイドさんって言うんだって。……パフェっぽいね。パフェさんでいいかな?


 そのパフェさんの居場所を聞いてみると、ゼリーさんの家とは反対方向にあることがわかった。海岸から一番離れた、この村で一番高い場所。そんなところに家を立てて暮らしているらしい。


「それじゃ、会いに行こう」


 さっそくパフェさんの家に向かうと、なんだか聞いたことのある調子外れなイイ声と素敵なギターの音色が風にのって流れてきた。…………なんでここにいるの、ソーダさん。


「いや〜〜、素晴らしい! ささ、もう一杯」

「あ、どうもどうも」

「他にも歌があればぜひ聞きたいですなぁ!」

「えっ、本当に〜〜? 嬉しいなぁ、じゃあ、もう一曲だけ!」


 そんなやり取りは家の中からじゃなくて庭の方から聞こえていた。わたしたちも庭へ回る。そこには、机と椅子を並べて黙々と勉強する子どもたち、そして壇上でギターを披露するソーダさんと、カップ片手に盛り上がっているイケメンなオジサマひとり。


 どんな状況、コレ?


「やぁ、ジェロニモ、アスナ! どうしたんだい、こんなところで」

「いや、それはこっちのセリフ」


 わたしとソーダさんがそんなやり取りをしている間に、ゼリーさんとパフェさんは互いに挨拶していた。


「君はギズヴァインのところの……。息災だったかい」

「はい。ありがとうございます。おかげさまで私もギズヴァインの皆様も息災です」

「もう十二年になるのだな。スレーン夫妻はどうしている? あのふたりも君が立派に育ってくれて心強いだろう。もう、庭師は引退してゆっくり過ごされているのかな」

「いえ……三年前に養母が亡くなり、それを追うようにして養父も……。正直、別れはもっと先のことだと思っていましたので、ギズヴァイン家の方々も私も、一時期はかなり気落ちしておりました」

「そう、か。残念だな。近いうちに墓前に参らせてもらうとしよう」

「ふたりとも、喜ぶでしょう」


 ゼリーさんが、しゃべってる。

 まるで、普通の人みたいに。


 でも、聞こえてきた内容は、喜べるような内容じゃなかった。ゼリーさんの名字、スレーンっていう家名は、ゼリーさんの元々の名前じゃなかったんだね。養母と養父って言葉が聞こえてきたから。十二年前に結界を越えてこっちに来たゼリーさんは、先生のお家で保護されて、スレーンさん家の養子になったのかな? でも、そのご夫婦はふたりとも亡くなっちゃったんだ……。


 悲しい。

 それじゃ、二回も家族を失ったのと同じじゃん!


 そりゃ、本当の家族にはまた会えたけど、会えるなんて当時は思ってなかっただろうし。すごく、つらかっただろうな……。


 わたしがしんみりしている間にも、パフェさんの話は続いていた。


「それで、君がここにいるということは、奴は君を置いていったわけだ。もうシャリアディースの呪縛からは逃れられたのか?」

「…………」

「答えられないのが、答え、か……」


 パフェさんが苦々しくそうつぶやいて、顎に手を当てて頷く。わたしは思わず声を上げていた。


「あの! すみません、いきなり。でも、黙ってられなくて! 何か、ご存じなんですか? やっぱりゼリーさんはアイツの命令には逆らえないってコトなんでしょうか? これもどこまで、口にしていいのか、わからないんですケド……」

「君は……?」

「あっ、ごめんなさい! わたし、アスナと言います。アスナ・クサカです」


 そう聞かれて、わたしは自分が自己紹介もしていなかったことに気がついた。勝手に会話に割り込むのも失礼なのに、名乗ってもいないなんて、さらに失礼だよね! でも、パフェさんはわたしのことを知っているみたいだった。ウンウン頷いて握手を求めてくる。わたしはその厚い手を握り返した。


「そうか、君がジェムの選んだ婚約者か。私がオースティアンの父、パルフェイドだ。よろしく、アスナ」

「オースティアンさんにはお世話になっています。どこにも行く当てのないわたしに、親切にしてくれました」

「シャリアディースのせいでここにやって来たとも聞いている。奴は強大な魔法使いだが、お世辞にも善人とは言い難い。巻き込まれてしまった君には深く同情するよ」


 その口調から、何と言うか、重みが感じられた。生まれたときからアイツが側にいるって、どんな気持ちなんだろう。きっと、すごく……ううん、想像できないくらいひどいんだろうなぁ。


「しかし、奴に契約で縛られているとなると厄介だ。ともすると命にかかわることもある」

「わたしも、それを心配しているんです……!」

「……フィンの言っていた民間人とやらがジェロニモだとすると、まさか、オールィドを単独でいかせはしないだろうから……。フィンの奴、勝手な真似を!」


 パフェさんは眉間にギュッと力を入れて厳しい表情になった。


「フィンさん、オルさんと一緒にヴィークルでシャリアディースの居場所を探しに行きましたけど……。そこにジャム、ええと、オースティアンさんもいるだろうからって」

「まったく! 奴を殺したら、フィン自身の命とてどうなるかわからんというのに!」


 えっ、それってどういうこと?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ