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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:ジェロニモ
258/280

分岐点 5


▶【わたしはジャムの婚約者よ! わたしの言うことを聞いて】


「待って!」


 わたしはクルリと後ろを振り向いて、ゼリーさんを見上げた。戸惑いに揺れる赤い瞳をじっと見つめる。このひとを行かせちゃいけない……改めてそう思った。


「やっぱりダメ、ゼリーさんを行かせられない! ゼリーさんはわたしと一緒に王都まで帰らなきゃ!」

「アスナ……」

「お願い、行かないで!」


 思わず手を伸ばしていた。それが触れるより先に、ゼリーさんの大きな手に包み込まれて引き寄せられた。指先で、厚い胸板を感じる。


 わたしとゼリーさんが互いに口を開きかけたとき、マフィンさんの不機嫌な声がわたしたちを現実に引き戻した。そうだ……最難関がまだ待ってるんだった。


「おい。そうはさせないと言っているだろう」

「いいえ、行かせない! わたしの言うことを聞いてもらいます。わたしは……陛下の婚約者だから」

「…………何?」

「わたしは国王陛下、オースティアンの婚約者なの。だから、わたしには護衛が必要だよ。先生がわたしにって、ジェロニモさんをつけてくれたんだから」


 マフィンさんの眉間に深くシワが寄る。まるで全身から殺気が放たれているみたい。わたしはそれに負けないように顔を上げて胸を張った。


「……パルフェイドの開いた宴席では、一度も見ない顔だが」


 マフィンさんの言っている意味がわからない……。

 どう反応すればいいのか迷っていると、ドーナツさんがマフィンさんの前に出て口を開いた。


「親父。アスナは別の世界から来たんだ」

「別の世界?」

「シャリアディースに無理やり連れて来られたんだ。それで、帰り方がわからないところを陛下が保護した。アスナのことは、ギズヴァイン先生が陛下直々に任されてるし、先生が自分専属のボディガードをアスナにつけたっていうなら、それには理由があるはずだ」

「…………」

「親父が伝書機を受け取ったのは夜中だろ? アスナたちに連絡が来たのはさっきだって言ってる。それなら新しい情報を元に判断するべきだと思う。アスナたちは王都に戻りたいんだ、それなら俺たちだけでも先を急いだ方がいいんじゃないか?」


 ドーナツさんの提案に、マフィンさんは黙って考えているようだった。わたしたちは息を飲んで答えを待つ。そして……


「了解した。婚約者殿、ありがたくヴィークルをお借りします。王都へ戻られるのであれば、馬車よりも昼過ぎに着くヴィークルを使われる方が早いでしょう。もしかすると、パルフェイド先王陛下がご同乗されるかもしれません、それでも良ければどうぞヴィークルをお使いください」

「それじゃ……」

「ジェロニモはそのまま貴女のお側に。我々はこれから陛下の捜索に行ってきます」


 やったぁ!

 わたしは心の中で拍手喝采した。


 言うが早いか、マフィンさんはマントを翻して行ってしまった。ドーナツさんはわたしたちに軽く手を上げてそれに続く。わたしも手を振って見送った。


「まったく……無茶をしたな」

「だって〜」


 呆れたようなゼリーさんの声にわたしは思わず抗議した。ドーナツさんの後押しもあってどうにか助かったけど、あのままじゃシャリアディースの居場所を探すハメになってたんだよ? アイツ性格悪いから何言ってくるかわからないし、逆らえない状態で説得とか無理ゲーすぎるでしょ。


「……助かった」

「うん」

「……ありがとう」

「うん!」


 わたしたちは顔を見合わせて笑った。心配そうに部屋の外から様子を窺っていたゼリーさんのご両親もホッとしているみたい。笑顔になったアイビーさんがお茶を淹れてくれたので、わたしとゼリーさんはふたりで作戦をすることにした。


「馬車とヴィークルとソーダさん、どの手段が一番早いかと言ったら、やっぱソーダさんだよね〜」

「……風の精霊様をいったい何だと思ってるんだ」

「ギターの上手いお兄さん」

「…………」


 わたしの即答にゼリーさんは半眼になる。いや〜、だって、実際にそんなイメージなんだもん。


「捕まらなかったらそのときはそのとき、馬か、王都から来るヴィークルで帰ろう? ジャムのお父さん、先に挨拶しといた方がいいかな?」

「先代の国王、か……」


 ゼリーさんの声が心なしか沈み込む。これはもしかして、会いたくないのかな? そりゃ、すっごい偉い人だもん、わたしだって会うのは緊張するけどさ。そういうのとは、なんか違う気がするんだよね。


「会いたくない? 避けた方がいいならそう言って。何とかしよ?」

「……権力者が相手だと、逆らえないからな。それに、今のアスナの立場上、会わせたくないのは事実だ」

「わたしの、立場」


 どゆこと……?

 わたしが頭をひねっていると、呆れたようにため息をつかれた。うぐぐ……既視感(デジャヴュ)


「お前は今、国王の婚約者なんだぞ。先の王にとっては、息子の嫁になるかもしれない女だ」

「あ〜」

「ウッカリして変に気に入られたら困るだろう」


 確かに!

 とはいえ、避けて通っていいものなのかな?


 わたしは……


▶【挨拶は後回し。できるだけ関わらない方向性で】

▷【そうは言っても避けてはいられないよ】


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