表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:ジェロニモ
256/280

分岐点 4

「……何の真似だ?」

「親父!」

「下がれ、オールィド」


 マフィンさんが無表情でわたしを見下ろす。助けてくれそうだったドーナツさんは、マフィンさんに突き飛ばされて一歩下がった。本当はわたしも下がりたかったけど、そういうわけにはいかない。


 足が震えているわたしの背中に、ゼリーさんの手が添えられる。わたしは深呼吸して姿勢を正すと、マフィンさんの目をしっかりと見て抗議した。


「ヴィークルを持っていかれるのは困ります。前にも言ったとおり、あれはわたしたちの持ち物ではなくて、ギズヴァイン先生からお借りしたものなんです。それに、わたしたちは今から急いで王都に帰るところだったんです。ギズヴァイン先生が倒れたっていう知らせを、さっき伝書機で受け取りました」

「えっ、先生、倒れたのか!?」


 慌てたように言うドーナツさんに、わたしは無言で頷いてみせる。マフィンさんの方は顔色を変えずに言う。


「ヴィークルがギズヴァイン卿の持ち物なのは知っている。本人から了承も得た。そちらの事情は理解したが、こちらも譲るわけにはいかん。陛下を拐ったシャリアディースの居場所の、おおよその見当がついたのだ。ヴィークルの鍵を渡せ」

「っ! 家族が、倒れたっていうのに! どうしてそんな冷たいことが言えるんですか!?」

「その男はギズヴァインの家族ではないだろう。ただの使用人だ」

「!」


 頭を、ガツンと殴られたみたいな、そんな衝撃。

 思わずよろめいたわたしを、ゼリーさんが支えてくれた。


「問答はもういい、我々にとっては陛下が第一だ。それに、ギズヴァインから得ているのはヴィークルの使用許可だけではない、その男についてもだ」

「どういう、ことなの……」

「ジェロニモ・スレーン、今からお前の所属は一時的に王室警護部隊となる。私に与えられた権限により、お前に陛下捜索の任に就くよう命ずる」

「待って! そんなのって……」


 ゼリーさんはシャリアディースと契約してるから、アイツに命令されたら逆らえないのに!

 わたしは思わずゼリーさんを振り返っていた。ゼリーさん、すごく険しい表情をしてる。それに、何だか苦しそう。シャリアディースのこと、言わなくちゃいけないよね……でも、知られたくないことだったらどうしよう。どうしたらいい?


 声に出さずに問いかける。

 ゼリーさんは首を横に振って、わたしより一歩前に出た。


「その任、辞退させていただくことは、できないでしょうか。ヴィークルは元々ギズヴァイン卿の持ち物であり、お渡しすることに異論はありません。ですが……」


 そうだよ、ヴィークルは先生のお父さんの持ち物でも、ゼリーさんはそうじゃない。命令されても従う義務はないはず!


 ドーナツさんも真剣な表情で頷いて、マフィンさんの反応を待っている。わたしたちの気持ちはひとつだった。


 けど……マフィンさんの答えは……。


「ダメだ。ジルヴェストのすべての国民は、王室のいかなる要請にも速やかに応えること、それが規則(ルール)だ。そこに例外はない」

「お願いします、待ってください! 例外がないなんてこと、ないと思います。だって、ひとにはそれぞれ事情があるもの。ジェロニモさんを連れて行かないでください。せめて、今は……。お願いします!」

「断る」


 深く頭を下げたところへ、間髪入れずに冷たい声が降ってきた。このひと、ガチガチで融通が利かないタイプなんだ……。しょうがない、あまり使いたくなかったけど、最後の手段に出るしかない。


「ジェロニモさんは、わたしの護衛を務めてくれているんです!」

「それが何か?」

「護衛がいないと困ることになると思いますよ。だってわたしはジャムの……」

「もういい、アスナ。よせ」

「でも!」


 「ジャムの婚約者だから」って続けようとしたところを、ゼリーさんに遮られた。本当は婚約者じゃなくて婚約者候補だけど、そうでも言わなきゃマフィンさんは納得してくれないでしょう?


 それなのに、ゼリーさんはわたしを止める。紅い瞳が、「やめてくれ」と訴えかけてくる。でも、このままじゃゼリーさんは、シャリアディースと戦いになるかもしれない。アイツに逆らえないのに敵対したら、どうなるかわからないのに!


「護衛をつけたのはギズヴァインだろうが、王室の命令はすべてにおいて優先される。……君の身柄は私が預かろう。危険な目には遭わせない。それで充分だと思うが?」

「わ、わたしには、目的があって……」

「そうか。王都に帰らないならば、後からくる騎士に君を託すとしよう。とにかく時間が惜しい、ジェロニモ・スレーン、今すぐオールィドと共に行け」

「…………」


 有無を言わさない厳しい口調。

 やめさせるチャンスは、今しかない。でも、どうすればいいの?


 わたしは……


▶【わたしも一緒に行きます!】

▷【わたしはジャムの婚約者よ! わたしの言うことを聞いて】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ