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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:ジェロニモ
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届けられた報せ

 次の日の朝、目覚まし時計がなくても起きられたことにホッとしながら、貸してもらった部屋で身支度を整えた。ちょうど終わったタイミングでノックがあって、返事をしてドアを開けるとゼリーさんが立っていた。


「おはよう、ゼ……ジェロニモさん」


 名前を言い直すと変な顔をされてしまった。


「だ、だって! 変なアダ名で呼んでたら、恥ずかしいかと思って……」

「別に、気にしない」


 わたしが気にします!

 ゼリーさん本人にはいいとして、ご両親の前でそんな、変なアダ名で呼ぶのはキッツイ! ……じゃあそんなアダ名付けるなって話なんですけどね〜。はい。


「昔もそう呼ばれていた」

「えっ。それってやっぱり、名前が難しいから?」

「…………クラゲばかり見ていたからだ」


 クラゲ……。

 何それハマりすぎ。


 思わず頭に海辺でボーッと体育座りしている小さいゼリーさんが思い浮かんだ。


 クラゲは英語でゼリーフィッシュ。だからアダ名が「ゼリー」だったのね。


「なんかカワイイ」

「……そうか」

「うん」

「そうか」


 ゼリーさんの返事が可愛くて、わたしは思わず声を立てて笑ってしまった。なんだか不思議。こんなに無表情で、こんなに大きなひとなのに、怖いどころか可愛く思えてきちゃうなんて。しかも、ゼリーさんがしゃべらなくても、なんとなく言いたいことがわかってきちゃう。


「ホントに不思議。わたしたち、まるでずっと一緒にいたみたい」

「アスナ……」

「あっ、伝書機! 何アレすっごい派手!」


 窓の向こうに見えたのは、鳥の形をした金色の伝書機だった。それはキラキラと朝日に煌めきながらこっちに向かって優雅に飛んできていた。わたしの指の先をゼリーさんの視線が追っていく。そして、その口から重いため息が漏れた。


 ああ、わかっちゃった。

 アレはきっとカーリー先生の伝書機だ。だってすっごくソレっぽいもん。


 窓を開けてあげると、金色の鳥はゼリーさん目がけてすいーっとやってきて、ゼリーさんの左腕を止り木代わりに羽を畳んだ。かなり、大きい。ゼリーさんだから普通にしてられるんだろうけど、わたしや蜂蜜くんの腕に止まられたら多分バランス崩して倒れちゃうよ。


 クジャクみたいな伝書機がくちばしを開くと、そこからカーリー先生の声が再生された。


『ジェロニモちゃん、落ち着いて聞いてちょうだい。飛行中なら一旦降りて、続きを再生して』


 わたしたちは顔を見合わせた。

 どうしたんだろう、カーリー先生……。まさか、冗談とかじゃないよね? そんな声のトーンじゃなかったもんね。


 わたしは固い気持ちで続きを待った。


『今朝のことなんだけど、アタシたち、そっちへ向かおうと馬車を用意していたの。で、いざ向かおうとしたとき、兄さんたら急に倒れちゃったのよ。

 魔力切れの症状に見えたわ。だから急いで病院に運んで診てもらったの。処置は素早くて的確だった……なのに、兄さん、目が覚めないのよ……! どうしよう、ジェロニモちゃん! もしも兄さんが目覚めなかったら……。ううん、もしかしたら大したことじゃないかもしれない。けど……アタシ、不安なの。だって今までこんなことなかったじゃない? それなのに何で急にこんな……。

 とにかく、すぐには帰ってこられないと思うけど、知らせるだけはしておかないとと思って。また何か動きがあったら伝えるわ。魔力を込めて送り返してちょうだいね。それじゃ』


 そこで再生はストップした。

 エクレア先生が、魔力切れ……。わたしは、チョコが倒れたときのことを思い返した。あのときは、偶然居合わせたゼリーさんがチョコをお姫様抱っこして学校の保健室へ運んだんだ。


 魔力切れを起こしたチョコは苦しそうだったけど、意識はすぐに取り戻した。それに、少しベッドで休んだら回復して寮に戻れたし、次の日もちゃんと授業に出てたの。


 それなのに、先生はどうして目を覚まさないの? カーリー先生が不安に思う気持ち、わかる。ゼリーさんの方を見ると、眉をぐっと寄せて苦々しげな表情をしていた。


「戻ろう、ゼリーさん。帰るだけなら支度はすぐに済むでしょう?」

「だが、お前のことは……」

「帰りたいんでしょう? もう結界はないんだし、来ようと思えばいつだって、何度だってここには来られるんだから! わたしが元の世界に帰る手段を探すのは、またでいいから。だから、今は先生のところへ戻ろうよ。ね?」


 わたしが強く主張すると、ゼリーさんも頷いてくれた。視線で感謝を伝えられている気がするけど、そこはちゃんも言葉にしてほしいかな。


 わたしがそう言いかけたとき、ドアがノックされてアイビーさんの声がした。


「ジェロニモ、アスナちゃん、ふたりにお客さんよ」

「お客さん? 誰かなぁ。今行きま〜す!」


 窓を閉めて居間に向かう。ゼリーさんは伝書機のクジャクを連れたまま一緒に部屋を出る。向かった先にはドーナツさんと、彼そっくりのドーナツさんの父親、マフィンさんがいた。


「おはよう、ジェロニモ、アスナ」

「オルさん! いつこっちへ?」

「昨日の夜にな。先王陛下ともお会いできたよ。それより、朝早いとこ悪いんだが、カップ……ヴィークルを貸してくれないか?」

「えっ」


 部屋に入ってきたわたしたちを見て立ち上がったドーナツさんは、挨拶もそこそこに本題を切り出してきた。ヴィークルでするつもりなんだろう。


「ヴィークルは、今からわたしたちが使うんです。王都に戻らなくちゃいけないから。もし、オルさんの用事が王都に行くことなら乗っていきませんか? 何人まで乗れるかわからないけど」

「えっと、それは……」

「これ以上の問答は不要だ。ヴィークルは我々が接収(せっしゅう)する。鍵を渡してもらおうか」

「そんな!」


 会話に割り込んできたのは、もちろんマフィンさんだった。冷たい表情に冷たい声で、やっぱり偉そうに命令する。でも、ダメだよ。ここは譲れない!


 わたしは一歩前に出て、マフィンさんと対面した。

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