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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:ジェロニモ
254/280

ゼリーさんと子どもたち

 泊めてもらう立場なのに、ゼリーさんを床で寝かせるなんて! と思ったんだけど、「慣れてる」って言われてしまった。元々、この村の子どもは床に雑魚寝形式なんだとか。ベッドに寝るのは女性とかお年寄りらしい。


 だからって言って、気にならないワケじゃないんだけど、アイビーさんたちも笑ってるだけだし、わたしも受け入れるしかなかった。


 わたしが案内されたのは、ゼリーさんの妹さん、クロッカちゃんのお部屋。ゼリーさんが結界の内側に取り残された後に生まれたから、お互いに顔を知らないの。ゼリーさんに至っては、クロッカちゃんの存在自体知らなかったんだよね。


 でもクロッカちゃん、火の精霊のところに修行に出てしまったから、もうこの村にはいないの。会いたかったのに、残念だなぁ。


「それにしても、十歳で家を出るなんてすごい。寂しくないんですか?」

「あの子には特別な才能があるからねぇ。修行は若いうちからやる方が身につくって言うし。寂しいけど、それがあの子のためだから……それに、二年で帰って来るしね!」


 アイビーさんは晴れやかに笑う。


「そんなことより、お湯もらってらっしゃいな」


 お湯をもらうって、外のお風呂に入っておいでってこと。この村はとても小さくて、全部で五十くらいしか家がない。だから、お風呂もお湯を一気に沸かして順番で入るし、ご飯も一緒。漁も一緒。だから、時間が大事なの。なんだか毎日が臨海学校みたいだよね。


 ゼリーさんとふたりで湯どころへ行く。

 村の入口は地下に潜る形だったけど、家のあるスペースは屋根のない拓けた土地にある。マフィンさんと話をした広場や湯どころ、食堂は天然の屋根の下にあって、村の人たちの憩いの場になってるんだって。


「でも、ずっと集団生活って、ちょっと窮屈そうだね」

「寮生活も似たようなものじゃないか?」

「そうだけどさ~」

「この村は風の精霊に愛されている人間が多い。だから皆、思い思いに過ごすことに慣れている。そこまでまとまっては動かない」

「へぇ、そうなんだ」

「俺と同じ髪の色をした人間がそうだ」

「ああ! 確かに多いよね、緑髪のひと!」


 ゼリーさんの言葉に相槌を打っていると、フッと微笑まれた。

 えっ……なに、そんな。ここに来て何だか、ゼリーさんてば、普通のひとみたいに笑うことが増えた気がする。ほんの短い時間しか経ってないのに。


 思わずじっと見上げてしまう。

 そうしたら、ゼリーさんが不思議そうな顔で見返してきた。


「あ。ごめんなさい、つい……」


 燃える火のような、輝くルビーのような、ゼリーさんの瞳。わたしはなぜかその赤に吸い寄せられたように目が離せなくなってしまった。何かを訴えかけているような、わたしの心を見透かすような……。


 ゼリーさんの手が、長い指が、わたしの頬に伸びてくる。わたしはそれを払いのけようとはしなかった。嫌じゃなかったから。心臓がドキドキしてる。わたし、どうしちゃったんだろ。


「あ……。ゼリーさ……」

「お前ら! よそ者だな〜!」

「でけぇ!」

「どっから入ってきたんだよ! えい! えい!」

「ちょ、ちょっと、君たち! このお兄ちゃんはこの村のひとだよっ、蹴らないで……」


 いつの間に集まってきていたのか、幼稚園くらいの男の子たち六人に囲まれていた。しかもヤンチャな彼らはゼリーさんの足を蹴ったり、拳で殴ったりしてる。え〜ん、いきなりこんなことするなんて、すごい悪ガキだよぉ〜!


「嘘だっ、こんなでけぇヤツこの村にはいねーよ!」

「ワルモノ〜! やっつけてやる〜!」

「やめて、お願いだから! ねぇ、ホントにやめて?」


 子どもたちをゼリーさんから引きはがそうとするけど、チビっ子たちはスルッと逃げてしまって捕まらない。悔しい〜、わたしの方が大人なのに!


「邪魔するならお前もこうだぞっ」

「きゃっ」


 拳を振り上げられて、思わずビクッとなってしまう。小さい子の攻撃なんて、当たってもちょっと痛いくらいかもしれないけど、下手に防御したら怪我させちゃいそうなんだもん。


 わたしが戸惑っている一瞬の間に、今まで微動だにしなかったゼリーさんが、わたしに拳を上げた男の子の襟首を掴んで自分の目の高さに持ち上げた。いきなり高い所に持ち上げられた男の子も、周りで囃し立ててた子たちもシーンとなる。


「お、下ろせよっ! お前なんか怖くないぞ!」

「そーだそーだ!」

「……頭から、バリバリと食ってやろうか」

「!」


 まるで地獄の底から響いてくるような低い声に、子どもたちの目が点になる。ポカンと口を開けて動きを止めた子どもたちに向けて、ゼリーさんが歯を剥き出しにして見せた。


「ぎゃああああああ!」

「うわ〜〜〜ん!」

「あ〜〜〜〜〜!」

「こらぁ! 子ども泣かすなぁ!」


 ゼリーさんが子どもを下ろすと、皆連れ立って一目散に逃げていった。


「もう! 大人げない!」

「…………」

「わかりやすくスネてもダメ。でも……助けてくれてありがと」

「ん」


 ゼリーさんは短く返事をしてそっぽを向く。

 まったく。実は子どもっぽいとこがあるんだね。チビっ子たちにとって怖かったろうし可哀想だけど、いいクスリになったんじゃないかな?


 湯どころでシャワーを浴びて、スッキリしてから部屋に戻る。その夜は疲れもあってかグッスリ寝てしまった。もちろん、寝る前に蜂蜜くんとキャンディに手紙を書いてから。


 明日は村の中を案内してもらって、精霊について教えてもらう予定になってる。帰り道へのヒントが見つかるといいなぁ。

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