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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:ジェロニモ
252/280

マフィンさんの話

 ゼリーさんの村は、聞いたとおり山の斜面を削って地下に作られていた。海岸には小さな小屋もいくつかあったけど、それは家じゃなくて、仕事をするための場所なんだって。


 いざ、村に入ろうというとき、その出入口からこちらにやってくる男のひとが見えた。明かりを持つそのひとは、なんと、後から馬で追いかけて来るはずのドーナツさんだった。


「オルさん!?」


 どうしてこんなところにドーナツさんがいるんだろう。ビックリしていたら首を傾げられた。いつもの鎧に新緑のマント。でも、あれ……? よく見たら、髪の毛が黒い。


「オルさんに似てるけど……オルさんじゃ、ない?」

「オールィドの知り合いか」

「あ、はい。ええっと、あなたはもしかして」

「コーマ=フィン・ドゥーンナッツ。オールィドの父親だ」

「それじゃ、やっぱり生きてたんだ! ジャムのお父さんも!?」


 マフィンさんは驚いた顔をした。


「そっちでは私たちの生存を信じていたのか? もしかして、パルフェイドを探しに?」

「あ、いえ。あの……」

「わかった。とりあえず、中で話そう」


 元々、中へ案内される途中だったわたしたちは、ドーナツさんソックリのマフィンさんについて行くことになった。それにしても……若い! お父さんっていうより、お兄さんって感じだもん。むしろ、そう言われてたら信じてたよ。


「あの、ゼリーさんの家族がこの村にいるので、会いに来たんです。今、呼びに行ってくれてるんです」

「手間は取らせない」


 広いけど薄暗い通路を歩きながら、こっちの事情をマフィンさんに説明しようとする。でも、硬い声で短く遮られた。なんていうか、冷たい……。見た目はソックリだけど、中身はドーナツさんとは別人だ、このひと。


 無機質って言うの? ゼリーさんもしゃべらないし、受け答えは短いけど、マフィンさんと違って嫌な感じはしないんだよね。何気なく隣を歩くゼリーさんを見上げると、肩をすくめられた。今は従うしかないってことかな。


「ここは屋内広場だ。お前たちの待ち人もおそらくここへ向かっている。そこへかけろ、事情を整理する」

「…………!」


 高圧的でヤな感じ!

 上から物を言って当然って態度が気に入らない!


 ムッとして立ち止まっているわたしを見ているのか見ていないのか、マフィンさんはさっさと先に椅子に座った。


「どうした?」

「あの! わたしたちだって事情を整理するのは吝かじゃないんですけど! どうして、そんな風に偉そうに命令されなくちゃいけないんですか?」

「……偉そうに、命令……私がか?」

「そうです!」


 マフィンさんは無言でゼリーさんを見上げる。わたしもゼリーさんの出方を見ている。

 こら、困った顔しない! わたしに味方してくれるんじゃないの?


「そんなつもりはなかった。私はお前……いや、君たちに命令できる立場にない。そう聞こえてしまったなら、それはわたしの落ち度だ。すまなかった」

「頭を上げてください。わかりました。わたしも、嫌な態度取ってごめんなさい」

「今からは、発言に気をつける。……では、今から話してもいいだろうか?」


 マフィンさんは最初と変わらず硬い声に硬い表情だけど、言葉遣いだけは少しマシになった。これなら全然話せる。


 そうなのよ、わたしだって話したくないわけじゃなかったし、マフィンさんの話も聞きたかったけど、あんまりにも態度が悪かったから……!


 でも、まさか、わたしみたいな子ども相手に頭を下げてくれるだなんて。鼻で笑われるのがせいぜいかなとか、失礼なことを考えてしまってた。もしそうなったら、ベーッてしてやろうと思ってたくらい。

 

 マフィンさんが謝ってくれたから、わたしもちゃんとしようと思う。協力しないと、前に進めないしね!


「手短にこちらの事情を話す。聞いてくれ」

「はい」

「私の名は、コーマ=フィン・ドゥーンナッツ。前国王パルフェイドの騎士だ」


 わたしたちは頷いた。

 ジャムのお父さんとドーナツさんのお父さんは、結界を破壊するために旅に出たんだ。でも、失敗した。結界には、触れた生き物から魔力を奪って自己修復する機能がついていた。パルフェさんとマフィンさんが無事だったのはラッキーだったんだと思う。


「五年前、綻びかけていた結界を壊すため国を出た。失敗したときのことを考え、パルフェイドは王位を退いてな。そして、やはり上手くはいかなかった。

 何とか命からがらこの村へ逃げ込むことができたが、今度は帰れなくなってしまった。帰るためには結界をすり抜けるしかない。山をくり抜いて道を作っていた」

「や、山をくり抜いて?」

「そうだ。ただ地面を掘ったのでは、その分、結界も下に伸びてきてダメだった。地下を掘り進むしかなかったが、岩にぶつかるなどして進めなくなったり、何度も失敗してきたのだ」

「そうだったんですね……」


 この五年間ずっと、どうにかして国に帰ろうとふたりとも努力してきたんだ。皆のもとに帰るために。


「それで、君たちがここへ来たということは……シャリアディースは死んだのか?」

「えっ」

「ようやく、オールィドが成功したということか」

「ちょ、ちょっと待って! それって、どういう意味? どうしてオルさんがそんなこと……」

「私がそう指示しておいたからだ。五年とは長くかかったが、仕方がない」

「…………!」


 息が苦しい……。

 まさかオルさんが、そんな命令をされてたなんて。実の、父親なのに……子どもに人殺しをさせようとしてたなんて……!


「アスナ……。すまないが、話はここまでにさせてもらう」


 ゼリーさんがわたしを抱き寄せた。と、思ったら、ヒョイと抱えられてビックリする。


「えっ? わっ、ぜ、ゼリーさんっ?」

「どうやら疲れが出たようだ、連れて行って休ませる。……結界は消えた、戻るならすぐにでも戻れるだろう」

「そうか。一度確かめてからにしよう。ところで、君たちが乗ってきたヴィークルだが、貸してもらえないだろうか」

「……申し訳ないが、それはできない。あれは俺の持ち物ではない。俺たちの後続としてオールィドが馬でやって来るし、馬車も二台着く予定だ。待てないと言うなら、伝書機を貸そう」


 ゼリーさんは胸元につけていた伝書機を外して、マフィンさんに渡した。わたしは子どもみたいに抱き上げられたまま、奥に運ばれていく。


「ちょ、ゼリーさん、下ろして……」

「いいから。しっかりつかまっていろ」

「もう……」


 強引。

 でも、その温かさに安心しているわたしがいた。

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