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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:ジェロニモ
250/280

いざ、出発!

 朝早く、わたしは王都の広場に来ていた。ここは、わたしが一番最初にやってきた場所。今日はそこに馬車が二台、一人乗り用の馬が一頭、ヴィークルが一台停めてある。


 二台の馬車とドーナツさんの乗る馬には王国の紋章が、エクレア先生が貸してくれたヴィークルには先生の家の紋章が入っている。


「おはよう、ゼリーさん、オルさん」

「よっ、おはよう、アスナ」


 オルさんが片手を挙げて朗らかに挨拶してくれる横で、ゼリーさんが小さく頷く。このひとはまったく……!


 わたしはゼリーさんの目の前まで歩いていって、手に提げていたバスケットを顔の高さまで持ち上げて見せた。ゼリーさんは目を見開いて少し驚いた顔をする。


「お昼ごはん。一応、作ってきたんですけど」

「お! アスナの手作りか? やった!」

「あ、ごめんなさい。オルさんの分はないんだぁ……」

「えっ」


 オルさんは固まってしまった。ごめんね。

 肝心のゼリーさんはと言えば、ヴィークルの方へ向き直ってゴソゴソしている。何してるのかなと思っていたら、座席からバスケットが出てきた。


「あっ、それ……もしかして、お弁当?」

「カールからだ」

「やっちゃった〜。ごめんなさい、先に聞いとけばよかった〜」

「いや、勝手に作っていたから、多分聞いていても同じだった」

「そっか」


 作ってきたお弁当、どうしたものかとオルさんを見ると、オルさんはパアッと顔を輝かせた。うん、わかりやすい。


「オルさん、コ……」

「オールィド、これはお前にだ」

「えっ」


 わたしが言い終わる前に、ゼリーさんが自分の持っていたバスケットをドーナツさんに押しつける。あれはカーリー先生のお弁当だ。……ん? つまり、ドーナツさんにカーリー先生からのをあげて、わたしのお弁当を一緒に食べるってこと?


「おい、ズルいぞ! 俺だってアスナの弁当が食べたい」

「仕方がないだろう、移動手段が違うんだ」

「そんなの言い訳だ〜!」


 ドーナツさんは文句を言っていたけど、ゼリーさんはそんなのどこ吹く風って感じで、わたしをヴィークルに乗せた。


「オルさん、ごめんね〜」

「今度は絶対だぞぉ!」


 たくさんのひとに見送られて、わたしたちは出発した。ヴィークルは高く高く上がって、すいーっと飛んでいく。下を見ると、馬車がゆっくり動き出しているところだった。


「ねぇ、置いて行っちゃっていいの? オルさんも来てないよ」

「馬車は元々、あの速度で進む予定になっている。オールィドは今、馬の脚に負担をかけないためにゆっくり走らせているが、じきにスピードを上げて追いついてくる」

「そうなんだ。じゃあ、わたしたちが先に行っても大丈夫なんだね」

「ああ。予定通りだ」


 王都を出たヴィークルは、しばらく田舎の風景の上を飛んでいたかと思うと、いよいよ建物も見えない草原地帯に入っていった。険しい山を遠くに見据えて、なだらかなだだっ広い緑の絨毯が続く。


 青い空と白い雲。風がとても気持ちいい。これがただのドライブだったらどんなによかっただろう。いったいどこまで行くことになるのか……。


 心の奥底から湧き上がってくる不安を抑え込むために、わたしはゼリーさんとおしゃべりすることにした。こういうことにはあまり向かない相手だっていうのはわかっているけど、仲が悪いワケじゃないし、もしも返事がなくたって、聞いてくれているだけでも少しは安心できるかなって。そんな軽い気持ちで話しかけてみた。


「ねぇ、ゼリーさん。ちょっとだけおしゃべりしてもいい? べつに無理して返事してくれなくてもいいから」

「……ああ。構わない。特に運転に支障はない」

「よかった〜」


 チラッと見上げた横顔はやっぱりいつも通りの、何を考えているのかわからない無表情だったけど、不機嫌にむっつりしているわけではなくて。遠くを見据える赤い瞳も、こっちをチラリとも振り返る気配もないけれど。


 それでもどこか、わたしが口を開くのを待っているような、話題を探しているような、そんな空気が漂っている気がする。ちょっとソワソワして、でも、居心地は悪くない。


「ねぇ、ゼリーさん。ゼリーさんのいた村、無事に見つかるといいね」

「……ああ」

「村の皆は元気だって、ソーダさんが言ってたよね。ゼリーさんの家族って何人?」

「アスナは?」

「ウチはお父さんとお母さん、わたしの三人家族だよ」

「そうか。俺も同じだ」

「そうなんだ」


 新しく知った共通点に、思わず笑顔になる。同時に、わたしもお父さんたちのことを思い出して、ツキンと胸が少し痛んだ。


「早く、会いたいね」

「ああ」

 

 十二年も離れ離れだなんて、その気持ちを簡単に「わかる」だなんて言えないけど……。それでも、わたしたちは似た境遇だと思うんだ。


 優しい静けさ。

 わたしたちは空の旅を続けた。


「そろそろか」

「えっ?」


 ゼリーさんの声に周りを見回すと、いつの間にか遠くに見えていたはずの高い山がずいぶん近くまで迫っていた。いつの間にか、こんなところまで来ていたんだ。


「やぁやぁ! ジェロニモ、アスナ、待っていたよ!」

「ソーダさん!」

「風のカーテンは君たちを拒まない、そのまま進んでいいよ」


 マントをたなびかせたソーダさんが、ふわふわ浮かびながらわたしたちに言う。大げさな身振りで礼をする姿は、やっぱり役者さんか大道芸人みたい。


「ありがとうございます、ソダール様」

「かしこまらなくたっていいのに! ところで、美味しそうな匂いがするね?」


 鼻が利くね……。

 確かに、そろそろお腹空いてきたかも。でも、お弁当はふたり分なんだけどなー。

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