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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ノーマルルート
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どこいっちゃったんだ蜂蜜くん?

 結局、ジャムのやつは帰ってこなかった。

 ということは、それについて行ったドーナツさんもいないってわけ。シャリさんに見送られて、わたしは用意された馬車に乗った。


「じゃあ、わたし帰るね。宿題もあるし」

「まあ、仕方がないね。何かメッセージはあるかな?」

「特にはないかな。お疲れさまって伝えて。あと、シャリさんは仕事しなよね」

「確かに伝えるとしよう!」

「仕事は?」

「では、また来週。さようなら、妃殿下」


 シャリさんは手を振って馬車を出発させた。

 うん、誤魔化しやがったな、あのヤロウ。


 しっかし、何だかどっと疲れが出た気がする。

 この一週間ずっとテストのために勉強漬けだったし、そのテスト結果は思わしくないし。

 そもそも、異世界に来てまでなにやってんのって感じ。


 だからって、気分を切り替えていかにもゲームっぽいこの世界にのめりこむ気にもなれない。

 魔法だの結界だの、精霊だのステータスだの……。

 いったい何から調べていけばいいのかすらわからない。だいいち、わたしをここに呼び寄せた張本人のシャリさんすら、わたしを帰すためのやり方がわからないって言うし、そもそもあのヤロウはわたしを帰す気がないし!!


「もうっ! わっかんないよ!」


 一人きりの部屋で叫んでみても、どうしようもないってわかっちゃいるけど......。


 ん? あれおかしいな?

 一人きり?


「あれ。蜜ちゃん遅いな」


 そう、この部屋はふたり部屋。腹黒い笑顔の毒舌暗殺者、蜂蜜くんがわたしのルームメイトなのだ。

 夕飯のときも食堂に来なかったし、どこで何してるんだろう。


「ま、朝までには戻ってくるでしょ、さすがに」


 今のわたしはお風呂あがり。髪も乾かしたし、ぬくぬくお布団でゆっくりするんだい。

 そんなわざわざ探しに行ったりなんて、ねぇ?


「…………」


 わたしは首までスッポリお布団に入って目を閉じた。

 そのまま、考え事を続行する。


 やっとテスト期間が明けたんだから、ここからは放課後を使ってもっと色々調べものができるんだもん。この島を覆ってる結界の話も気になるし、ジャムのお父さんのことも気になる。そういえば、シャリさんが精霊なのかどうかも確かめてないや。


 そうそう、チラッとしか見てないけどいつもと雰囲気の違うエクレア先生のこととか、気になることってたくさんあるんだよね。何から調べようかな~。


 なんて。

 知らんぷりしようと思ったけど、やっぱり気になる!


「ん~~! しょうがない、ちょっとだけ様子を見に行きますか~」


 パジャマの上にコートを羽織って、わたしはこっそりと部屋を抜け出した。お行儀の良い子たちばっかりなのか、廊下はとても静かで誰もいない。宿舎を出て中庭へ。大まかに見て回って、声もかけてみたけど、彼を見つけることはできなかった。いったいどこまで行っちゃったんだか。


「こぉら、そこの不良娘!」

「ひゃいっ!」

「ダメじゃな~い、こんな時間に外に出ちゃ~!」

「ご、ごめんなさ……先生!?」


 振り向くと、そこに立っていたのはエクレア先生だった。でも、なんかいつもと違う。

 腕組みをしてツンと唇を尖らせて、なんだか可愛い感じだわ。わーお。


「あら、アンタその格好、パジャマじゃないの! いくらなんでも風邪ひくわよ、早く部屋に戻んなさい」

「え、あ、はい。ごめんなさい」

「ほらほら、一緒に行ってあげるから」


 エクレア先生は、わたしの背中を叩いて宿舎の方へ向かわせた。

 それにしても、この変わり様はどうしちゃったんだろう。夜だけ性格変わっちゃうとか?

 いやいやまさか。


 チラッと盗み見した先生は、眼鏡も髪型も、服のセンスもいつも通りだったけど、やっぱりどこか違うみたい。香水が違うせい? ううん、目許とか唇とかがツヤっぽい。

 っていうか、オネェ言葉だよねぇ? ゼリーさんもいないし。


「あの……」

「女生徒ばっかの学校でしょう? 警備はしっかりしてるんだけど、一応見回りしてんのよ。でも、見つかったのが兄さんじゃなくてアタシで良かったわねぇ」

「えっ! じゃあエク……アルクレオ先生の弟!?」

「そうよぉ? あら、アタシのこと何も聞いてないの? まったく、しょうがないわねぇ、ジェロニモちゃんったら! アタシの名前はカールよ。でも、可愛くないからこの名前はキライなの。親しみをこめてカーリー先生って呼んでちょうだいね~」

「あの」

「それで、さっきも言ったけど、アルクレオとアタシってば双子なの。あっちが兄で、アタシが弟。まんまでしょ~? よく言われる~!」

「ちょ」

「ジェロニモちゃんも一緒に三人、まるで兄弟みたいに育てられてきたワケ。アタシと兄さんの仲がぎくしゃくしちゃってからもジェロニモちゃんとは連絡取り合ってたから、アンタのこともちゃんと知ってたわよ、アスナちゃん。アタシの授業はフラワーアレンジメントで二年生からだから、まだまだ顔を合わせる機会は少ないと思うけど、校舎ですれ違ったら声かけてよね~。あ、それから」

「まだあるんかい! めちゃめちゃ喋るなっ!?」

「えっ」


 めちゃめちゃ喋るな!? カーリー先生!!

 口を挟む隙がなかった!

 エクレア先生とは全然違う。双子なのに。

 っとと、いけない、相手は先生だったや!


「いや、すごい喋りますね、びっくりしました」

「そうなのよ~、アタシってばつい、相手の返事も待たずにぽんぽん喋っちゃうの~~。だから、言いたいことがあるときには今みたいにぶった切っちゃっていいわよ。あ、もう着いてたわね。寒い中ごめんなさいね~~」

「いえ、それはいいんですけど」

「じゃ、またねアスナちゃあん。兄さんにヨ・ロ・シ・ク」

「あ、はい」


 まるで嵐みたいなおしゃべりだった……。

 結局、蜂蜜くんは見つけられなかったし、部屋にも帰ってきていないし。やれやれ、心配にはなるけどとりあえず明日にしよう。置手紙もないし、どこに行ったか見当がつかないんだもん。


 カーリー先生を追いかけて相談しても良かったけど、それが蜂蜜くんの立場を危うくするかもと思うと二の足を踏んでしまう。余計なおせっかいをして、彼の邪魔になったら多分めちゃめちゃキレられるだろうし、嫌みを言われるに違いない。


 疲れてしまったわたしは、もう全部明日の朝に考えることにして、おとなしくベッドに入ったのだった。

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