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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アルクレオ
239/280

試練

 先生が、生きてるかもしれない……!


 すごく細い、蜘蛛の糸みたいな希望だけど、それでもわたしには充分だった。真っ暗に思えていた視界が明るくなるくらいには。


「どうなんだ、ディース。オールィドの言うことは事実なのか?」

「……私にも判断がつかないな。先日までならともかく、ここまで同化が進んでしまっていると、いくら私でも不可能だ」

「そんな……」

「待った。そもそもどうやってアスナと木を分離させたんだ? 実際にやって見せてもらわなくちゃ、ダメだと納得いかないぜ」


 ドーナツさんは諦めなかった。

 シャリアディースに「実際にやって見せてみろ」と食い下がる。確かに、「無理だ」とか「できない」とか、全部シャリアディースが言ってるだけだもんね。


 マカロンさんも頷いて言う。


「私も気になるな。いったいどんな魔法を使った? お前にあって私にはなかった手段、知っておきたい」

「…………」


 シャリアディースは苛ついたような表情を見せた。けど、すぐにため息を吐いた。自分の味方がひとりもいないことに気づいたんだろう。


 シャリアディースが手を振ると、何もない空間からシャボン玉のような泡に包まれた、ひと振りの剣が出てきた。どよめきが広がる。


「俺の剣! 海で失くしたとばっかり思ってたのに……」

「貴様の……? つまり、シャーベを殺したのは貴様か……!」

「落ち着け、カロン! 今はそれどころじゃないだろ?」

「……フン。確かに、殺させたのはシャリアディースであって、その男の意思ではない、か」


 あの、剣……。

 鞘が無くなってしまって、剥き出しの刃が陽の光に照らされて光っている。その刃の白さにハッとして、目が離せなくなってしまった。どこかマナの実を思わせるような、虹色の光彩……。


 触りたい……。

 あの剣が欲しい……。


「この剣は扱いが難しいのだ。アスナを見ろ、まだ近くに寄せてもいない内から魅了されているではないか。精霊を惹きつけ精霊を断つ刃……異界から迷い込んだ禍々しき剣だ」

「アスナ、しっかりして! 飲まれてはダメよ!」

「っ!」


 キャンディに揺すぶられて正気に戻る。

 周りの会話は耳に入っていたのに、頭の中はあの剣に触りたいっていう思いでいっぱいだった。怖い……わたし、いつの間にか操られそうになってた?


 ショックを受けているわたしをよそに、ドーナツさんたちの会話は続いていた。


「親父からもらった剣にそんな力があったなんて……」

「なるほど、精霊を断つ剣だからこそ、暴走した魔力とアスナを切り離すことができたのだな」

「なら、もしかしてあのひとをこの樹木の中から助け出せるかな……。どうだろう、カロン」

「やってみないことには、わからない。ただ……悔しいがシャリアディースの言う通り、同化が進みすぎている今、分離はできないかもしれない」

「そんな……」

「フン、だからさっきからそう言っている」

「コイツ!」

「もう、ちょっとやめてちょうだいよ! アスナちゃんと兄さんのことが最優先でしょ!」

「ディース、少しの間その口を閉じろ」

「やれやれ。八つ当たりはやめてもらいたいな」


 シャリアディースの憎まれ口に、皆の口から怒りの声が飛び出す。加速する言い争い……こんなことしてる場合じゃないのに。


 わたしは、シャリアディースが空中に浮かばせていたドーナツさんの剣を取り出した。柄を握ると、不思議と軽くて、わたしでも充分に扱えそうだった。


「アスナ!」

「大丈夫よ、キャンディ」


 わたしはそれを、先生を飲み込んでいる木に向けた。

 わたしの魔力……。


「先生を、返して!」


 刃を食い込ませた瞬間、激痛がわたしの体を襲った。悲鳴を上げて仰け反るわたしを、誰かが支えてくれる。


「これは……まだアスナと繫がっているというのか!」

「これじゃ、中にいるギズヴァイン先生を救い出すのは……」


 アイスくんがつらそうな声で言う。

 ダメだよ……先生を助けてもらわなきゃ!


「続けて! わたしが痛いだけなら、先生は大丈夫かもしれない」

「アスナちゃん……」

「わたしのことはいいから、続けて。早く!」


 でも、誰も動こうとしない。

 誰も助けてくれないのなら、わたしがやるしかない!


 わたしは必死に手を伸ばした。

 でも、その剣の柄をわたしより先に取った手があった。


「ドーナツさん……」

「任せろ。加減しながら切るなら、経験者の俺がやった方がいい」

「お願い……」

「ああ」


 反対の声もあった。

 止めようとするひともいた。


 けど、ドーナツさんはわたしの意志を尊重してくれた。


 痛み。焼けつくような。

 悲鳴を上げる体と心。


 それでも……!


「いかん、このままでは……。アスナ、私を信じられるか?」


 すべての音も感覚も置き去りになって、わたしの名前を呼ぶいくつもの声が、まるで水中で音を受け取っているみたいに歪んで聞こえていた。その中で、マカロンさんの声だけがハッキリと耳に届いた。


「失敗すればおそらくすべてを失うだろう。だが、痛みに精神を摩耗させられている今のやり方よりは、お前にとっては楽なはずだ。どうする? やってみるか?」


 そんなの、やるに決まってる。

 痛いのに耐えられないわけじゃないけど、痛くないなら、その方がいい!


「いいか、決して諦めるな。必ず見つけるんだ。わかったな?」


 わかった。

 先生を必ず見つけ出す!


 ありがとう、マカロンさん。


「お前に助力すると約束したからな……。さぁ、行け、アスナ!」


 わたしは真っ暗な空間へと落とされた。

 落下していく感覚に心臓が潰れる。


「きゃああああああ!」


 叫んだのもつかの間、わたしは薄暗い森の中で、地面に座っていた。ギュッと首を縮めた姿勢のままで。


「あ、れ……?」


 キョロキョロと辺りを見回す。誰もいない。

 わたしが座っていたのは、舗装はされていないけど、ちゃんと整備された道の上だった。もしかして、この先に先生がいるの……?


 わたしは、立って歩き出した。

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