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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アルクレオ
237/280

悲しい再会


▶【ここに残る】


 わたしは……

 その手を取ることはできない。


「アスナちゃん?」

「ありがとう、クッキーくん。でも、クッキーくんに負担はかけられないよ。それに、こんな時間に行っても、また、迷惑になっちゃったら……」


 先生の本当の気持ちを聞き出すために行くのに、こんな時間に押しかけたら逆効果な気がする。わたしが飛び出してきちゃったのも、わたしが感情的になっちゃって、先生とちゃんと向き合えなかったせいだもん。


「それに、今はちょっと、頭の中が混乱してて……先生に会っても上手く話せそうにないの。さっきのアイスくんとマカロンさんの会話も、少しだけど、聞いちゃったし。……わたしのやろうとしてることはムダなの?」


 わたしはマカロンさんに向き直った。

 見上げるほど長身になってしまった闇の精霊は、それでも前と変わらない表情でゆっくり首を横に振った。


「ムダにはならない。精霊になれば、記憶は残れど人格は消え、まったくの別人となってしまうだろう。だが、私が責任を持って新しいお前にあの男を助けさせる。約束しよう」

「そう……。それなら、いいの。……ありがとう」


 ホッとしたら何だか疲れちゃった。

 ついさっきまで寝てたのに、どうしてかな。


「アスナさん、よかったらお風呂に入ってゆっくりしてきたらどうかな。ギズヴァイン先生のお宅には、明日、僕が必ず送っていくから」

「せっかく回復した魔力も散ってしまった、少しでも休んで魔力を溜めるといい」


 アイスくんとマカロンさんにそう言われて、わたしはふたりに従うことにした。クッキーくんはギュッとわたしに抱きついて、マカロンさんをずっと睨んでたけど。





 朝、目が覚めたとき、何故だか泣いていた。

 ぼんやりして、頭の芯が痺れているような、そんな不思議な感覚の中わたしは朝食を摂って身支度を整えた。


 新しい服に袖を通す。アイスくんがわたしのために用意してくれたのは、オレンジ色のシフォンのワンピースドレスだった。焦げ茶色のチョーカーと、同じ色のハイヒールを履く。


「アスナちゃん、笑って。大丈夫、きっと上手くいくよ!」

「うん……ありがとう、クッキーくん」


 クッキーくんに手を引かれて、わたしは先生のいるお屋敷へ戻った。マカロンさんとアイスくんも一緒に。少し遠くから眺めるお屋敷は、何だか余所余所しい感じがする。


 わたしは緊張しながら近づいていった。

 お屋敷の門まで来たとき、たくさんの人が集まっているのが見えた。


 ギクリと体が強張る。

 嫌な予感に心臓が絞られるような痛みを感じた。


 アイスくんがわたしの心の中を代弁するように、不安げに言った。


「どうしたんだろう。何か、あったのかな」

「先生……」


 わたしはお屋敷へ急いだ。

 エントランスポーチには花やリボンが飾られ、ドアは開けっ放しで、くすんだ色の礼装に身を包んだ男女が入り乱れていた。わたしは、その人たちの行き先である中庭へ急いだ。


 行列を掻き分けて人垣をくぐって行くと、その中心にはなぜかベッドと、その上には……根を細かく伸ばした木があった。


「いやぁぁああっ!」


 わたしの悲鳴に、皆一斉に振り返る。

 その中には見知った顔が全員揃っていた。


「先生! 先生……! どうして……!」


 靴が脱げるのも構わず、駆け寄って抱きしめた。

 誰かがわたしの名前を呼ぶのも、引き離そうとする手も振り払って、わたしは先生を抱きしめて泣いた。


 間に合わなかった……。

 わたしのバカ! どうして、昨日のうちに会いに来なかったんだろう。先生に会いたい、名前を呼んでほしい……また先生に会えるのなら、命だって、いらないのに……。


「アスナ、今までいったいどこにいたんだ! 探したんだぞ!」

「ジャム……」

「今朝、ギズヴァイン教授の容態が急変して、お前に何度も伝書機を飛ばしたんだ。ディースも手を尽くしてくれたが……」


 わたしはシャリアディースを睨みつけた。

 手を尽くした? 誰が?

 コイツのせいなのに!?


「シャリアディース……!」

「アスナ、こんなことになって私もとても残念だよ。せめて、もう少し早く気づけていればと、悔やむばかりだ」

「……!」


 どの口が……!

 コイツだけは、許せない!


 わたしは立ち上がって、蜂蜜くんへと駆け寄った。驚きに目を見開く蜂蜜くんに、噛みつく勢いでわたしは言った。


「蜜、アレ(・・)出して!」

「アスナさ」

「いいから! わかるでしょ? 早く!」


 蜂蜜くんは黙ってあの銃を胸の内ポケットから取り出した。やっぱり不思議な形をしていたけれど、どこをどう向ければいいのか、わたしにはすぐにわかった。


「安全装置は?」

「すぐに撃てます。魔力を込めて対象に向けてください」

「わかった」


 わたしは振り向きざまに一発、シャリアディースの足元に打ち込んだ。どよめきと悲鳴が上がる。蜂蜜くんとの短い会話の間に、口々にわたしに何か話しかけてきていた人たちは全員黙った。


「シャリアディース! アンタは絶対に許さない。ホントは言い訳も許さずに撃ち殺したいところだけど、今ここで、皆の目の前で自分のやったことを打ち明けて謝るなら、命だけは見逃してあげる……」


 その場にいた全員の視線が、シャリアディースに集まった。

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