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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アルクレオ
233/280

信じたくない……!

 わたしは海に向かって歩いていた。マカロンさんに会うためには、見つけてもらいやすい位置にいた方がいいと思ったから。マカロンさんは、ギースレイヴンのアイスくんのところへ帰るだろうしね。


 でも、わたしの計画は上手くいかなかった。海に着くより先に歩き疲れてしまって、動けなくなっちゃった。川辺の大きな木の下で、根っこにもたれかけてグッタリ。


「ちょっとだけ、休憩……」


 飛び出してきたはいいものの、いきあたりばったりと言うか何と言うか。もう、このまま寝ちゃおうかな、なんて。


「まったく、何してるんですかこんな所で」

「えっ? は、蜂蜜くん?」

「風邪ひきますよ」


 キョロキョロ見回すと、わたしの休んでいた木の裏側から、蜂蜜くんが姿を現した。ひとりみたい。もしかして、わたしを追いかけてきてくれたのかな。


「いつから?」

「最初から。屋敷を抜け出して行くのが見えたので、とりあえず追いかけてきました。まさか、こんなに歩くことになるなんて思わなかったですけどね〜」


 呆れたように笑われてムッとなる。隣に座る蜂蜜くんから顔を背けて、わたしはハッキリ宣言した。


「わたし、戻らないから!」

「はぁ。っていうか、そもそもどこへ行こうとしてるんです?」

「……マカロンさんのところ」

「えっ、闇の精霊? 居場所、知ってたんですか? だったら教えてくれても……」

「…………」

「まさか」


 わたしは覗き込んでくる蜂蜜くんの視線から逃げた。く、首が痛い。体勢きっつい!


「知りもせずにこんな無茶してたんですか〜? バカなんですか貴女」

「うっさい!」

「ホントにもう……」


 蜂蜜くんはそう言うと黙り込んでしまった。わたしも黙って空を見上げた。もうすぐ、夜明けが近いのかな。端っこの色が変わり始めてる。ぼんやり眺めていると、蜂蜜くんがポツリと言った。


「どのくらい、確実なんですか?」

「え?」

「闇の精霊に頼んで、あのひとが元に戻る確率ですよ」


 わたしは答えに詰まった。

 そんなの、なにひとつ確実じゃなかったから。でも、わたしが頼りにできるのは、今はもう、マカロンさんだけなんだもん。


「お願いだから、自暴自棄になってアイツのところに行くのだけはやめてくださいね。そんなの、あのひとだって望んじゃいないんですから」

「それって、アル先生のこと……?」


 蜂蜜くんの綺麗なエメラルドグリーンの瞳が(かげ)った。


「ええ、そうですよ。あのひとは、貴女にツラい思いをさせないように、貴女を元の世界に送り帰そうとしてたんです。だから、その思いをムダにしないでください」

「……どういうこと?」


 嫌な胸騒ぎがした。

 わたしは痛む心臓を押さえて蜂蜜くんを真っ直ぐに見つめた。蜂蜜くんの瞳が揺れる。


「答えて!」

「……もう、長くないんですよ、あのひとは」

「ウソ! ウソだよ、そんなの! 縁起でもないこと言わないでよ!」


 わたしは思わず立ち上がっていた。

 呆気に取られた表情でわたしを見上げる蜂蜜くんの顔が涙で歪んでいく。わたしはギュッと手を握りしめていた。そうすることで、蜂蜜くんの言葉が消えてなくなるんじゃないかと思った。


「アスナさん……」

「嫌だ! そんなの、絶対……信じない……!」

「アスナさん!」

「離して!」


 無理やり抱きすくめられて、暴れようとしたけどできなかった。蜂蜜くんは強く強くわたしを抱きしめて、言う。


「嘘じゃないです、本人からの言葉です。でも、あのひとはそれも覚悟の上で……」

「聞きたくない!」

「聞くんです! 聞かなきゃいけない、あのひとの思いをムダにするな!」

「っ!」


 ガクンと力が抜けてしまって、そのままズルズルと地面にへたりこんでしまったわたしを、蜂蜜くんが支えてくれる。


「こんなのって、ひどい……。わたしのせいで、先生が……」

「仕方が、なかったんですよ」

「仕方なくなんてない! 先生がそこまでしなくちゃいけない理由なんてない! 早く……早く何とかしないと……。あれはわたしの魔力なのに、わたしの責任なのに!」

「あのとき、ああしなかったら、アスナさんが死んでたかもしれないんですよ」

「じゃあ、わたしが死ねばよかったんだよ!」

「バカ言わないでください!」


 蜂蜜くんの怒鳴り声に、わたしの体はビクンと跳ね上がった。涙がポロポロこぼれてきて、しゃくりあげることしかできなくなって、何も言えなくなってしまった。


 そんなわたしを、蜂蜜くんは抱きしめて、背中を撫でながら謝ってくれた。今度は、とても落ち着いた声で。


「すみませんでした。でも、今の言葉だけは受け入れられなくて……。そんな風に、自分が死ねばよかったなんて言わないでください。ボクは、貴女が生きていてくれて、嬉しいですよ」

「でも、でも……」

「それがたとえ、彼の命と引き換えだったとしても。アスナさん、貴女には生きていてほしい」


 そんなの、嫌だ……。

 わたしの身代わりになって先生が死ぬなんて……!


 そんなのって、耐えられない!


「先生……」

「アスナさん、約束してください。変なことは考えないって。自分を犠牲にしてあのひとを助けたり、あのひとが死んでも後を追ったりしないって、ボクと約束してください」

「…………」

「……貴女を喪うのには、耐えられない。貴女が彼を想って泣くことにも」

「蜜……?」

「どうして、あのとき素直に帰ってくれなかったんです? そうすれば、ボクだって諦めがついたのに」

「えっ……」


 くるりと世界が回転して、わたしはビックリした。押し倒されてしまったことに気がついたのは、蜂蜜くんの顔が間近に迫ってきたとき。わたしは慌てて逃げようとした。


「アスナさん……」

「やっ!」


 押しのけようとした手は、手首を掴まれていて自由にならない。必死で顔を背けるけど……


「いやぁっ!」

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