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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アルクレオ
224/280

分岐点 4

 そよそよと吹き込む風に目が覚めると、太陽はもうすっかり上っていた。知らない部屋、知らないベッド。そして、知らない服……。


 そっとベッドを抜け出すと、ちょっとフラフラしちゃった。いきなり倒れたことが原因かなぁ。


 キョロキョロ見回してみると、すごく大きなベッドで、いわゆるお姫様のベッドみたいな柱とレースのカーテンがついていた。なんかよくわからない絵と、部屋全部を覆う絨毯。


 クローゼットもあったけど、中身はタオル類とバスローブだけで、服は入ってなかった。なんで?

 他には備え付けの鏡台と、なんと洗面台まで! なんで!?


 疑問はさておき、ありがたく顔を洗って口をゆすいで、新しい歯ブラシを見つけて歯も磨いた。フカフカのタオルに顔をうずめて鏡を見ると、何かおかしい。


「……アレ? わたし、こんなに髪の毛長かったっけ?」


 前髪はいつもと同じ長さなんだけど、こう、全体的にもうちょっと短かった気がするんだけどなぁ。

 気のせいかもしれないけど。


 それにしても、いつまでもここにいるわけにはいかない。部屋の中には呼び鈴も何もないから、わたしはひとまず部屋から出ることにした。それなのに、ドアが開かない。ガチャガチャやってると、部屋の外から声がした。


「アスナさん? 目が覚めたんですか?」

「先生! そうです、わたしです。あの、呼び鈴も何もなくて、その……着替えもない、ですし……」

「……わかりました。すぐに届けさせますね。支度をして、それから食堂へ降りて行ってください。わからなければ、手伝いの者が案内します」

「ありがとうございます。あと、ひとつ聞いてもいいですか? ここって、もしかして先生のおうちですか……?」

「ええ、そうですよ。……倒れたあなたを、放っておけませんでした。この屋敷には病院に負けないくらいの設備がありましたし、病床を……いえ、蛇足でしたね。安心してください、アスナさんのお世話はすべて女性スタッフにお願いしましたから。それでは、私はもう離れますね」

「あ、じゃあ、また後で……」

「……はい、また、後で」


 そう言って、先生は遠ざかっていった。

 それからすぐにメイドさんが来てくれて、わたしに可愛い服を着せて髪を整えてくれた。


 細かくタックが寄せられたシャツは袖口に上品なフリルがついていて、背中をたくさんの真珠ボタンで留めるようになっている。これは確かに、手伝ってもらわないと無理。


 ワンピースはスカートの始まる位置が胸の下からで、まるでセーラー服みたいな変形肩紐がカワイイ! 全体的に濃いマロンブラウンとマスタード色で、先生のイメージカラーだなぁなんて思っていたとき、横から「お似合いですね」って言われて、わたしは思わず赤くなってしまった。


 薄くメイクもしてもらって、一階に降りていく。

 でも、せっかく先生と話せると思ったのに、そこに先生はいなかった。


「お嬢様、お目覚めになってなによりです。精いっぱいおもてなしするよう申しつかっております、お好みを仰っていただけますと、そのように調理いたしますので」

「……えっと、アルクレオ先生は……」

「申し訳ございません、私にはわかりかねます」

「そう、ですか……」


 忙しいのかもしれない。

 そう思って、わたしはゆっくりお茶することにした。お腹は空いてたけど食欲はなくて、果物をお砂糖で煮込んだコンポートのゼリー寄せを出してもらった。爽やかなジャスミンティーの香りと合わせていただくと、すっごく美味しかった。でも、その分だけ寂しさが募った。


 誰も来ない大きな食堂でひとり、お茶をするわたし。

 結局、待っても待っても、先生は来なかったし、カーリー先生もゼリーさんも現れなかった。伝書機はないし、勝手に歩き回るのも気が引けて、わたしは部屋に戻ることにした。


 階段を半分まで上ったとき、玄関の方で何だかもめているような声がした。急いでそっちに回ってみると、訪ねてきた男のひととメイドさんが押し問答していた。


「受け取っていただかないと困ります!」

「こちらも、受け取らないよう言われているので困ります!」

「どうかお願いします!」

「お断りします!」


 なんだろう、手紙を押し付け合ってる?

 ふいに男の人ひとがわたしを見て、ぱあっと顔を輝かせた。


「お嬢さん、あなたにお手紙ですよ! どうぞ!」

「あ、ちょっと!」


 メイドさんは迷惑そうにしていたけど、わたし宛てって言われたら、確かめないわけにはいかない。わたしは側まで行って、手紙を手に取った。分厚い、すごく高級そうな封筒だ。そして確かに「アスナへ」って書いてある。


「ねぇ、これ、誰から?」

「宰相閣下、シャリアディース様からです!」

「え~~~」


 おっと思わず声に出てしまった!

 手紙を運んでくれたひとは苦笑い。


「お返事をもらって帰るよう、命じられているので、よかったらこの場でご確認いただければ……」

「まぁ!」


 う~ん、メイドさんの目が三角。

 でも、わざわざレターオープナーってやつまで持ってきているし、開いてみるかぁ。


 するとそこには綺麗な文字でこうあった。



『親愛なる君へ


  君の大切な先生のことで、君に伝えなければいけないことがあるんだ。

  今夜、ひとりで抜け出しておいで。絶対に誰にも知られてはいけないよ。



   君の誠実な友より』



「脅迫かよ」

「えっ」

「いえ、なんでも~。おほほほほ」


 キャンディ譲りのお嬢様笑いで誤魔化した。誤魔化せたかな?

 っていうか、なんかすっごい嫌なんだけど、どうしよう。


 行く?

 行かない?




 わたしは……


▶【行かない。行くわけない】

▷【行く……かも】


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