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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アルクレオ
218/280

疑問と不安

 結局、血を採るのは本当に一滴くらいのもので、耳にプスッと針を刺して終わるものだった。何だか、理科の実験みたい?


 でも、その前にやらなきゃいけなかった身長、体重の測定と問診がかなり長かった。先生の測定と並行してわたしの測定もしてたんだけど、本当に、やめとけばよかったかなと思うくらいに面倒だった。


「アルクレオ様の魔力ですが……、これは、なんと言っていいやら」


 お医者さんが険しい顔になっている。

 何? 何か良くないこと?


「何か気になることがありましたか? ぜひ、教えてください」

「いえ、おそらく間違いでしょう。魔力がゼロの人間など、いるわけがありませんからな」


 な〜んだ、間違いかぁ。

 ホッとしたけど、先生は何かを考え込んでいるみたいだった。


「先生?」

「はい、何でしょう」

「大丈夫ですか?」


 そのとき、わたしたちの後ろでボンッと何かが爆発するような音がして、振り向いたら機械がブスブスと煙を上げていた。


「げーーっ、計器がぁ!」


 助手っぽい人が頭を抱えている。

 あれ、これって本当に爆発したんじゃない?


「申し訳ありません、どうやら計器がおかしかったようです。この一台しか機械がないものですから、今日中には再検査ができそうにありませんな。もし良ければ、修理が完了してからまた来ていただけないでしょうか」


 お医者さんの言葉に、わたしと先生は頷くことしかできなかった。わたしたちが病院から出るのと同時に、まさに病院に飛び込もうとしていたカーリー先生と鉢合わせになる。


 わたしたちを通せんぼするみたいに目の前に立ったカーリー先生は、息を切らしながら早口で言った。


「兄さんっ、魔力値測るって話どうなった? もう測った? 結果出たの!?」

「いいえ。それが、機械の故障で私たちふたりとも魔力の測定はできませんでした」

「あーーー! そう! そうなの! それじゃ、一緒に学園に向かいましょ! 急げば一限に間に合うわよ!」


 返事も聞かずにわたしたちを馬車に詰め込むカーリー先生。先生たちの向かいに座りながら、わたしはさっきのカーリー先生の質問と、それに対するエクレア先生の答えを思い出して首をひねった。


 確かに機械の故障でわたしの数値は測れなかった。でも、エクレア先生のは一応結果が出てたよね? もちろん、あの結果はおかしかったわけだから、さっきの答えでも問題ないハズ。


 ただ、いつもの先生だったら、そこは省略せずに伝えたんじゃないかなって。だって、そのほうが正確だもん。それをあんな言い方するって、何かを誤魔化したいのかなって感じちゃう……。


 エクレア先生の方を見ると、先生はイタズラが見つかった子どものように笑った。目が、「黙っていてほしい」って言ってる?


 わたしはカーリー先生の止まらないおしゃべりを聞き流しながら、それがどういう意味を持つのかを考えていたけど、わたしにはわからなかった。





 放課後、先生の研究室に行く。

 遊びにおいでって言われたし、今朝のことも聞きたいと思ったから。


 ドアをノックすると、先生の声がして内側からドアが開いた。


「こんにちは、先生」

「こんにちは、アスナさん。中へどうぞ」

「お邪魔します」

「それで、聞きたいのは今朝のことですね?」


 わたしは咄嗟に答えが出なかった。

 確かに気にはなっていたけど、先生に尋問するつもりなんてなかった。おしゃべりの中で、話題のひとつには上がるかなって思ってたけど。


 わたしがここへ来たことが「それだけ」だなんて、そんな風に思われたくない。


 それなのに、先生は……。


「アスナさん?」

「わたし、そういうつもりで来たわけじゃないです。確かにそれも聞きたかったけど……。出直してきますね!」

「待って! 待ってください……私が悪かったです。あなたにそんな顔をさせるつもりは、ありませんでした。どうか、許してください」

「…………」


 くるりと踵を返したわたしの手を、先生が掴む。

 思わずこぼれていた涙を拭って振り返ると、つらそうに眉を寄せる先生と目が合った。


「傷つくことを恐れるあまり、あなたを傷つけてしまうなんて、私は本当にどうしようもない人間です……。すべてお話するので、聞いてやってはくれませんか? もし、お嫌でなければ」

「……でも、聞いてほしくないことだったら……」

「はい。他の誰にも聞かせたくない話です。でも、あなたになら……あなたには聞いてほしいのです」

「…………」


 コクンと頷くと、先生はホッとしたように笑った。

 改めて中に招き入れられて、お茶をごちそうになる。お砂糖とミルクを入れて、ゆっくり口許に運ぶ。ふんわりと漂う優しい香りと温かさに、わたしの心もすっかり落ち着いた。


 誰にも邪魔されない、ゆったりとした時間が流れる。


「さぁ、何から、話しましょうか。実は少し、迷っています」

「どこからでもいいですよ。わたし、何もわからないから、先生の話したい通りに、話してほしいです」

「わかりました。ありがとうございます」


 先生はいつものように柔らかく微笑んだ。

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