伝説の武器……?
先生との距離がぐんぐん近づいている気がして、わたしはちょっぴりドキドキしていた。だって、先生は年齢をべつにすればわたしの理想の男性にすごく近いんだもの。
落ち着きがあって、受け答えにも余裕があって、自信に満ちていて。乱暴じゃないし、男臭くないし、スケベじゃないし!
あ、でも、先生と生徒じゃ禁断の恋になっちゃうか。
「少し、座りましょう、アスナさん。お茶を淹れますよ。ジェロニモ、スペースを開けてもらっていいですか」
「……ああ」
「!?」
いたのっ!?
いつから!? 最初から!?
なんで黙って見てたのよ!!!
「ゼリーさん、いたの……」
「…………」
「ジェロニモはほとんどここで過ごしていますからね。ここにいない方が珍しいのですよ」
「へぇ……」
思わずジト目で見ていると、ゼリーさんは居心地悪そうに座り直した。
「すまなかったな……」
「イエ、べつに……」
先生がお茶を淹れて戻ってくるまでの間、わたしとゼリーさんの間には沈黙とビミョーな空気がただよっていた。
先生はわたしたちの前にそれぞれ湯気の立つカップを置きながら言う。
「今朝、アスナさんが魔力を込めてくれたおかげで、この研究室でもお湯を沸かせるようになりました。本当にありがとうございます」
「えへへ、お役に立ててよかったです。病院とかの施設は、魔力足りてますか? そっちに補充した方がよかったりして」
「ありがとうございます。でも、その辺りはアーシェイ殿下が抜かりなく差配していらっしゃるので心配ありませんよ。施設にはすべて優先順位がつけられていて、魔力はその番号通りに配給されていますから」
「へ〜〜〜!」
ちょっとウッカリしてるひとだけど、先生がそう言うってことは、お仕事はしっかりしてるんだ。なんて、失礼なことを考えちゃう。
先生は何だかおかしそうに笑っていた。
「アスナさんが言ってくださったようなことこそ、アーシェイ殿下が頼みたかったことだと思いますよ」
「え、そうなんですか?」
「はい。おそらく、国内の設備への魔力供給をアスナさんに手伝っていただくことで浮いた分を、陛下の捜索に充てるつもりなのでしょう。元々、必要最低限の魔力は、アスナさんや先王陛下がいらっしゃらなくても、ある程度は賄えていたのです。そこへおふたりが戻られたのですから、ヴィークルを動かして捜索を始める余裕ができたのでしょうね」
「ああ、それで! ジャムの捜索も捗るって言ってたのは、このことだったんだ!」
「ええ。どの程度、上手くいくものかはわかりませんが」
なるほどね〜。
先生はやっぱりすごいなぁ〜。
「あ、もしかして……」
「どうしました?」
「明日、同じ話を聞かされたとき、驚いたフリしたほうがいい?」
「ふふっ、いえ、その必要はないかと……ふふっ」
「先生てば、もう、笑いすぎ!」
「すみません」
そう言いながら、先生はまだ少し笑っていた。
これもまた新発見。
ゼリーさんやドーナツさんに対してお説教するときにちょっとチクッと言ったり、カーリー先生にはちょっとイジワルだったり。エクレア先生が怒ったり笑ったりするのを見ると、わたしも同じ気持ちになっちゃったり、嬉しかったりする。
なんでかな。
「あ、そうだ、アスナさん」
「はいはい」
「せっかくここまで来ていただいたので、もし時間があれば少しゆっくりしていかれませんか?」
「えっ」
「実は、昨日は結局、何も詳しい事情を教えてもらえていないのです。カールはあの通り、自分の言いたいことしか言いませんからね。ですから、私が倒れていた間、アスナさんがどう過ごしていたか、教えてください」
「わかりました。それならわたしも、ゼリーさんの村で何があったのか教えてほしいです」
「あ、それは私もぜひ知りたいですね。ジェロニモ、話してもらえますか?」
「…………」
あ。嫌そうな顔してる。
「肝心な部分だけで構いませんから」
「……わかった」
おお~!
さすが、先生はゼリーさんの扱い方が上手い!
そんなわけでわたしは、放課後はずっと先生の研究室でおしゃべりしていた。ゼリーさんの村でのこと、ギースレイヴンでのこと。わたしの後悔のこと……。
「残してきてしまった王子が気になるのですね」
「はい。もっと、色々してあげられた気がして……」
「問題は魔力が全快すると精霊化してしまうことです。ジルヴェストを出ると魔力が大幅に回復してしまうのですから、精霊化を食い止めることができれば、彼に協力してあげることもできるでしょう」
「……ホントに?」
先生は優しく微笑んで、わたしの手をそっと握ってくれた。
「はい。ギースレイヴンに行く方法はありますよ。ヴィークルがそうです。陛下が見つかれば、ヴィークルをお貸しすることができます。アスナさんの魔力があれば、どこへでも行けるでしょう。帰り道を探すことも、ギースレイヴンに魔力を渡すこともできるようになりますよ」
「そっか……それなら、わたし、ギースレイヴンにまた行きたい!」
「ええ。そのときは、私もご一緒させてください。結界の消えた今、他の国と親交を結ぶことは急務ですから」
「じゃあ、わたしと先生と、ゼリーさんの三人旅ですねっ」
「はい、楽しみですね」
あ、でも、海には暴れ海竜がいるんだっけ。
わたしがそれを伝えると、先生は目を丸くした。
「暴れ海竜ですか。それは……どのくらいの大きさなんでしょうね。オールィドさんが大いに興味を引かれそうな話題です」
「あ〜、確かに好きそう!」
「いけませんね。きっと、槍か剣で戦おうとするでしょうから、止めませんと」
「えっ、剣で!?」
「ええ、きっと。あれで好戦的なひとなんですよ」
う〜ん、ドーナツさんの適性って、確か『狂戦士』だっけ……。
ドーナツさんが大笑いしながらドラゴン退治とか、ハマりすぎで怖いんだけど。
「ああ、でも、海で戦うなら確か、伝説の武器があったはずです」
「で、伝説の武器!?」
何それ、初耳!
ジルヴェストにもそんなゲームみたいなものがあるの!?
それに、先生もやっぱり男の子らしくそういうの好きなのかな? なんかちょっと楽しそう。
「ええ。その長さは大人の身長ほど、三叉で、先の尖った……そう、その名は確か……銛です!」
「え…………」
なんか脳内にトライデントにドラゴン刺して、「獲ったど〜!」って言ってるドーナツさんの姿が思い浮かんだ。




