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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アルクレオ
213/280

招待状

 放課後、さっそくアガレットさんからお茶会の招待状が届いていた。

 時間の指定は明日。場所は今、王都で一番流行りのカフェ。六階建てで、上の方は貸し切りにできるんだって。人気のメニューはイチゴの乗ったショートケーキ。ふんわり生クリームとチョコレートが入ったスポンジが絶妙なんだって!


「まぁまぁですわね」

「もう、そろそろ許してあげたら?」

「フン、ですわ!」


 キャンディは手厳しい……。

 アガレットさんには悪いけど、家族の問題は家族で解決してもらおう。家に帰ったら、キャンディのママさんにも怒られる予定なんだろうし。


 わたしは招待状を手に、エクレア先生の研究室を目指す。放課後ならきっと、この部屋にいるハズだ。

 コンコンと控えめにノックすると、中から返事があった。


「どうぞ。鍵は開いていますよ」

「失礼します」


 ゆっくりドアを開けて中に入ると、先生が紅茶のカップを手に、窓際に立っているのが見えた。

 午後の陽射しがいっぱいの部屋でひとりお茶を飲む先生は、いつもより寛いで見えた。


「アスナさん。どうされましたか?」

「あの……アガレットさんから招待状が届いたので、先生にもお知らせに来ました」

「そうでしたか。見せてください」

「はい」


 わたしはまるでテストの採点をしてもらうときのようにドキドキした気持ちで招待状を差し出した。

 ついさっき、キャンディは「まぁまぁ」って言ってたけど、先生はどうなのかな。


 先生の目がゆっくりと招待状をなぞっていく。

 その仕草に胸がときめく。先生、睫毛長い……。


 先生は読み終わると、小さく息を吐き出して、招待状を畳んだ。


「明日の放課後ですね。わかりました、予定を開けておきます」


 にこやかにそう言ったけど、さっきのため息、ちょっと気になるなぁ。


「あの、先生!」

「はい?」

「招待状、どうでした? 何かおかしいところありますか?」

「……いいえ。どこもおかしくありませんでしたよ。書式も使われた紙や封筒も、個人から個人に宛ててのもので、私が警戒していたような、国家の重大な責を匂わすようなものはありませんでしたから」

「でも、先生、何か気になるんでしょ……」


 わたしの言葉に、エクレア先生は困ったように笑った。


「見抜かれてしまいましたか。私の修行不足ですね」

「どこが気になったんですか? この際、どーんと言っちゃいましょうよ! 気になることぜんぶ、教えてほしいです!」

「そうですね……」


 おっ、いいぞいいぞ!

 先生ってば、真面目だから「相手のあら探しなんていけません」て言うかと思った。


 でも、朝のあんなやり取りがあった後だから、ガス抜きってきっと必要だと思うんだよね~。招待状を見てそういう顔をするってことは、招待状にもきっと何かあったんでしょ!


「強いて言えば、ですが……」

「うん」

「明らかに授業中であるにもかかわらず、学園に手紙を届けること自体、あまりよろしいこととは言えませんよね」


 あ~~、そこから~~~~!


「アスナさんが寮で暮らしているのは知っているのですから、そちらに届ければよかったのにと思います。それと、アスナさんが一緒にと言っていたのに、私にはその招待状が届いていないのです。連絡の行き違いで私が参加できなければ好都合、というような意図を感じます」

「そうかなぁ~」

「いえ、私の考えすぎかもしれませんが」

「もしかして、そういうことを感じさせないことが大事だったり、する?」

「まあ……アーシェイ殿下ほどの地位にあるおひとであれば」


 なるほどね~~~!


「場所自体はよいと思いますよ。カフェの経営者は良い方ですし、上階を貸し切れば内密な話もできます。それに、話題の店ということであれば、先王陛下が足を運ばれても、そうおかしくはないでしょう。それに、ご子息の婚約者候補との顔合わせという意味でも、女性の好まれそうな店を選ぶのは良い心配りと言えますしね」

「へ~~」

「……でも、アスナさん。断ることもできるのですよ? 無理して行かなくてもいいんです。誰もあなたに強制はできないのですから」


 先生は、つらそうにそう言った。眉間にしわが寄っている。


「わたし、べつに、嫌じゃないですよ……? わたしで役に立てるなら、お手伝いしたいなぁって思います」

「それだけで済めばいいのですが……」

「?」

「本来はこういった、国家の根幹にかかわることに部外者を入れるべきではないのです。誤って機密に触れてしまう恐れもありますし、一度中枢に入ってしまうと抜け出せなくなってしまう可能性があります。アスナさんがこの世界の人間ではないことを利用して、陛下の婚約者候補というあなたのあやふやな立場をもっと別の、言ってしまえば、国が利用しやすいものに変えられてしまうかもしれません。……あなたは自分の世界に帰らなければならないのですから、そうなっては困るでしょう?」

「そんな……。だって、アガレットさんは、わたしのこと家に帰してくれるって言ってたのに……」


 急に不安が襲い掛かってきた。

 アガレットさんに対してキャンディや先生があんなにも怒っていたのは、もしかして、最初からこういうことを心配していたからなのかな。大げさだなって思ってたけど、わたしが考えなしなだけだったんだ……。


「すみません。いらないことを言いましたね」

「ううん! そんなことない……教えてくれて、ありがとうございます。わたし、先生たちがこんなに考えてくれてるって、知らなかった……」

「いえ、こういうことを知らせずに対処するのが私の役割だったはずなのです。私が至らないばかりに、怖がらせてしまって申し訳ありません」

「謝らないでください、先生は、わたしのために今までもずっとよくしてくれました。今回のことも、先生やキャンディがいなかったら……!」

「アスナさん……」


 思わず体が震えてしまう。

 先生は、そんなわたしの背中に手を添えてくれた。


 温かい……。


 そっと見上げると、優しい茶色の瞳と目が合った。

 映画とかだったら、このまま抱きしめられて、キスされちゃうようなシチュエーション。


 わたし、先生にだったら、そうされてもいいな。

 そうしてくれたらいいのに。


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