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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アルクレオ
210/280

分かれた道

 寮の部屋に戻ると、明かりはついていなかった。蜂蜜くん、出てったきり戻ってきていないんだろうか。


 あのとき、ものすごい勢いで席を立っていったけど、何に怒ってたんだろうなぁ。キャンディにはわかってたみたいだけど。


 部屋に入って明かりをつけると、二段ベッドのわたしの場所、下の段に蜂蜜くんが腰掛けていてビックリした。し、心臓が止まるかと思った……!


「おかえりなさい」

「……ビックリさせないでよ! 死ぬかと思った!」

「いや、アスナさんは死なないでしょ」


 何だとぅ!?


「もう! とにかく、心臓に悪いから明かり消した部屋に潜んでるのはヤメて」

「…………」

「蜜?」

「ボク、ここを出ていこうと思ってるんです」

「えっ!?」


 ポツリとこぼされた言葉は、まったく冗談には聞こえなくて、むしろ感情が抑えられていた分、本気に思えた。


 蜂蜜くんは時々意地悪なことを言うし、わたしを困らせることもあるけど、嘘を言ってわたしを試したりするような人間じゃない。


「いつ……?」

「すぐにでも」

「どうしてって、聞いてもいい……?」


 今までずっと、顔を逸していた蜂蜜くんが、立ち上がってわたしの前に立った。わたしと同じ目線にある、真剣な瞳……。蜂蜜くんは、わたしの知らない間に決意を固めていたみたい。


「あの陰険クソ野郎を、この手で絞めないと気が済まないんですよ……。ホントは殺してやりたいくらい、憎いです。殺すかどうかは別として、捕まえて、裁きを受けさせてやる……」

「蜜……」

「ボクは、暗殺者として生きてきました。それなりに負けない立ち回りができるつもりでした。でも……! 女の子ひとり守れなくて、何が強者ですか! 何のための力ですか! ボクは……ボクの矜持を取り戻したいんです」


 一瞬にして、蜂蜜くんはわたしの横をすり抜けていった。振り向いたときにはもう、開け放たれた窓にレースのカーテンが揺れているだけだった。


「蜂蜜くん! ……ミッチェン!」


 外はもうかなり暗くて、蜂蜜くんの姿を見つけることは、できなかった……。





 事情を聞いたキャンディは、仕方がないというようにため息をついた。


「驚かないの?」

「ええ。アスナがいなくなってからというもの、彼はずっと貴女を探してたのよ。もちろん、(わたくし)もだけど。お城に日参して、騎士たちと連携を取り合って」

「そう、だったんだ……」

「彼がシャリアディースを憎んでいることも知ってるわ。詳しいことは聞いていないけど、アスナの失踪も、あの元宰相の仕業なんじゃないかと疑っていたのよ」


 確かに、ジャムがいなくなって、わたしもいなくなっちゃったら、拐われたと思うのも当然かもしれない。ジャムに関しては、見つかった手記に誘拐された理由みたいなものが書かれてたんだし。


「わたし、どうしたらいいのかな……」

「今は放っておいてあげなさい。それよりも、アスナは自分のことを心配するべきだと思うわよ」

「え? わたし?」


 聞き返すと、キャンディはギュッと眉を吊り上げた。

 ひぇえ、怒ってる! 緑の瞳が猫みたいにギラギラしてる!


「アスナは、魔力が満ちたら精霊になってしまうんでしょう!? 魔力球に魔力を移すことで精霊化を遅らせることはできるけど、それよりも早く帰る方法を見つけないと! それすら精霊頼りだなんて…………!

 (わたくし)、アスナが心配よ……。ただでさえ、ギースレイヴンとこちらを行き来する少年につきまとわれているし、とんでもない魔力を持っているのにそんなに無防備で……」

「キャンディ……」


 キャンディは、まだアイスくんのこと疑ってるのかな?

 アイスくんはもう奴隷じゃないし、わたしのこともわかってくれたから、味方だと思うんだけど……。


 でも、キャンディはただアイスくんのことが嫌いでこんなこと言ってるわけじゃないって思う。


 精霊になっちゃうことについても、ちょっと話しただけなのに、わたしよりもずっとちゃんと理解してて、解決策を考えてくれてる。


 そう、わたしは、早く帰らなくちゃいけないんだ……。


 なぜか先生の顔が思い浮かんで、胸がチクッと痛んだ。


「気をつけて、アスナ。貴女のことを利用しようとしている人間はたくさんいるの。ね、わかった?」

「うん、わかった」

「本当に? 本当の本当? もう勝手にどこかへ行かないで。お城にも来ちゃダメ。来てもいいけど、そのときは絶対にひとりにはならないこと。いい?」

「そんな小さい子どもみたいな……」

「わかりましたわね?」

「ハイ……」


 美人さんが怒ると怖いよ〜〜〜!

 めっちゃ念を押された! お嬢様言葉が復活してた!


「……ごめんなさいね。でも、心配なのよ。アスナってば、すぐに無茶するんですもの。ギースレイヴンでのことも……」

「謝んないで。わたしのこと思って言ってくれてるってわかってるからさ」

「アスナ……。今日は、一緒に寝ない?」

「えっ」


 キャンディはそっとわたしの手を握ってきた。

 顔も優しくなってる。


「ギースレイヴンでのこと、ゆっくりでいいから聞かせて? そして、これからについて考えましょう」

「うん、ありがと、キャンディ。わたしも聞いてほしかったんだ。色々ありすぎて、どこから話したらいいかわかんないんだけど」

「アスナの思いついたところからでいいわよ。お茶でも飲みながら、ね?」

「うん!」


 ひとりだときっと、色んなことを考えちゃう。

 だから、キャンディが側にいてくれることが本当に嬉しかった。

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