ちょっと大変な事情説明 1
病室に飛び込んできたのはまず、カーリー先生とゼリーさん。カーリー先生たら入ってすぐに奇声を上げて、すごい勢いで話しだした。
「兄さんっ!? 兄さーーーーーん!」
「え。何なんですか、ちょっと」
「やだもう! 起きてる〜〜! 見てよこの、いつも通りのトボけた面ったら!」
「カール」
「生きててよかったわ〜〜〜! もう、ダメかと思ったわよ! 父さんはともかく母さんたら逆に倒れちゃって別の病室に寝かされてんだから!」
「それは心配で」
「どんどん弱ってく様を見ることしかできなくて、ほら、もう、ジェロニモちゃんたらヒドイ顔してるでしょ!? ったく、心配かけても〜〜〜!」
「酷いことになっているのは、ジェロニモよりも貴方の顔ですよ、カール」
先生、ヒドイ。
ツッコミが酷すぎるソレ。
確かに、カーリー先生は泣いたり笑ったり怒ったりですごいことになってたけどね。
わたしたちが何も言えないままでいるのを見て、ゼリーさんはわたしたちを病室から連れ出した。
「……外へ」
「わかった」
静かな廊下で、わたしたちに向かって、ううん、わたしに向かってゼリーさんは深く頭を下げた。
「感謝する。アルクレオを救ってくれたこと……正直、もう、諦めかけてさえいた。礼は何でもする、遠慮なく言ってくれ」
「そんな、お礼なんていいよ……気を使わないで」
「そういうわけにはいかない」
そのとき、わたしとゼリーさんの間にキャンディが割って入ってきた。何だかとっても厳しい顔をしている。
「お待ちになってくださいまし。私にもわかるように、何がどうなっているのか、きちんと事情を教えていただけませんこと?」
「……わかった、努力しよう。話はこっちで」
努力……!
いや、まぁ、無口属性のゼリーさんだから、しょうがないよね。でも、衝撃的な言葉ではあるよね。説明するのに努力とか!
「相変わらず、ワケわかんないひとですね〜」
「蜜! シーッ!」
わたしたち五人は病院の中にあるカフェテラスでお茶しながら話すことにした。ゼリーさんの説明は、病室でカーリー先生が最初に言ってたこととほとんど同じだった。
馬車があったこと、病院が近かったことで、エクレア先生は最速で適切な治療を受けることができた。魔力切れには軽いものから重いものまであるけど、処置が早ければ何の問題もなく日常生活に戻れるはずだった。
それなのにエクレア先生は目覚めなかった。お医者さんの話を聞いてきたキャンディも蜂蜜くんも、ここまでは納得してウンウン頷きながら聞いていた。
そこから先の説明は、アイスくんが代わった。たどたどしくではあったけど、わたしにしてくれたのと同じように、マカロンさんからの言葉を伝えてくれた。
「アスナでなければ、その呪いを解くことはできなかったと? そのために、アスナは……」
キャンディは言いにくそうに言葉を濁して、わたしを見た。
わたしは黙って頷く。
「ショックですわ……でも、きっと、私が同じ立場なら、アスナと同じことをしたと思います」
そうだよね。
だって、人の命が、先生の命がかかってたんだもん。
でも、そのとき、いきなりすごい音がしたと思うと、蜂蜜くんが立ち上がって出口の方へ歩いて行ってしまった。
「蜜!」
さっきの音は、蜂蜜くんが机を叩いた音だったみたい。横倒しになったグラスを、キャンディが元に戻してお水を拭いてくれていた。
「どうしたんだろ……」
「わからないの? 本当に?」
お嬢様敬語を消したキャンディが、優しく叱るような目でわたしを見た。そんなこと言われても、困る……。
「……今は、いいわ。それより、これからのことを考えましょう」
「うん……」
今度は、キャンディがゼリーさんに最新の情報を渡す番だった。って言っても、先生のお祖父ちゃんの手記は、ゼリーさんのいた村にあったんだし、解読も先生のお父さんがやったんだから、ゼリーさんも知ってたんだけどね。
「お兄様の捜索には、ヴィークルを使う案が出ているのですけれど、国内で消費する魔力との兼ね合いがあって、未だ実現しておりませんの。これに関しては、アスナにお願いが行くかもしれませんわ」
「わかった」
「でも、ギズヴァイン先生のご容態が気になりますから、もし先生のことでアスナの力が必要なら、ぜひとも先生を優先させてくださいませね」
「うん」
「私はもう行かなくてはいけませんけど、出来れば最後にご挨拶してからにしたいですわ」
「あ、あの……僕も……一度帰るよ」
「アイスくんも? じゃあ、わたしはどうしようかな。やっぱ、先生の様子を見てから考えようかな」
キャンディはそう言って席を立った。続けてアイスくんも。
キャンディはきっと、お父さんであるアガレットさんのお手伝いに行くんだよね。
わたしたちが先生の病室に戻ると、カーリー先生はいなくて、お花が少し片づいていた。
「先生、あの、失礼します」
「どうぞ」
先生はベッドの上に起き上がれるようになっていた。ちょっとホッとする。キャンディは丁寧に、アイスくんはペコッと頭を下げて先生に挨拶すると、帰ってしまった。
わたしはというと、キャンディが帰り際に言ったことのせいで、先生の側に残ることになった。ゼリーさんも一緒だけど、無口なこのひとじゃ味方にならない!
眼鏡をかけていつもの調子を取り戻した先生は、わたしを見て優しく声をかけてきた。
「それでは、事情を説明していただけますか? さっきのあの出来事……私が貴女にしてしまった失礼に、アーシェイ君の言う通り、何か理由があるならば。カールは何も知らないし、騒ぐばかりだしで、動転していた私の精神は落ち着いたのですが、何が起こったのかに関して、私は無知なままなのです」
「理由、は、あります……。でも、先生、怒らないですか?」
「私が? いいえ、怒りませんよ。むしろ、責められるべきは私です」
先生の真剣な表情に押されるように、わたしは先生にかけられていた魔法のことを話すことにした。




